勇者アル
強張った表情でぎくしゃくとする勇者達、そしてやけに楽しそうな悪人共を、ゼノは王座の間へと案内した。
本来ならばレオーネかケリーあたりが罵声を浴びせそうなものだが、やはりアギスとルーツィアが、邪悪の根源が揃った状態では、反抗もなく魔王に従うしかないようだ。
「えっ!?魔王様、何で勇者達を招き入れてるんっ...!?あ、うわああああああ!」
物憂げに玉座に鎮座していたリールが悪人共に気付き飛び降り、その勢いのまま土下座する。
「ほう、なかなかいい反応じゃねえか。悪くねえな」
「ほれみたか、こやつ超悪趣味じゃろ?」
「そう言われても...」
アギスがにやりと笑うと、ここぞとばかりにルーツィアは同意を求めようとまくし立てる。
愛し子アルは、そのルーツィアを背負いながらも、無言だった。
「...まあ、仕方ないよなぁ...」
何といっても、アギスとルーツィアは別格だ。両方揃っていたら、普通の人間なら同じ空間にいるだけで発狂する。
そう考えると、やはり彼らは勇者なのだなあと思わざるを得なかった。
ゼノは丸くなっているリールの背中を労るようにぽんと叩いてから、玉座にいそいそと座ると、声を張り上げた。
「ふははははは!!よくぞここまで来たな、勇者達よ!冥土の土産に色々と教えてやろう!」
「おいゼノ。てめえ客に水の一つも出さねえのかよ」
「わらわはお菓子を食べたいぞ!」
「いや食べられませんよね?そもそも私魔王でそっちは勇者側ですし...」
「器の小せえ野郎だな」
「ぶーぶー!」
外野がうるさい。
ゼノは騒音を静めることを諦め、改めて勇者達に向き直った。
「さて...貴様達は今困惑しているところであろう。そこの悪に...お兄さんお姉さんは誰なのか、何故二人を見ると恐怖するのか...」
ゼノはたっぷりと間を置いた後、仰々しく問いかける。
「勇者アルを知っているか?」
レオーネは小さく頷き、ケリーとサラは顔を見合わせた。
「勇者アルとは、おとぎ話に出てくる主人公の名前だ。彼の者は、世に蔓延っていた邪悪な魔物を蹴散らし、悪辣非道なる魔王を打ち倒し、世界を救った。そんなありきたりな話の主だ。だが、それは本当にあったことであり...あくまで後世に伝えられた美談。真相はもっと残酷だった」
ゼノはつっかえる様子もなく、すらすらと話を進めていく。
「魔王と呼ばれたその魔物は、冷酷でも外道でもなかった。ただ、世界...いや、世界の創造主に嫌われて、見た者全てに恐怖を与える、その他にも、様々な悪影響を与える呪いを生まれつき持っていたのだ。それを知る由もない勇者アルは、根も葉もない魔王の噂を信じ、恐怖に耐えながら魔王を倒した。するとどうしたことか。魔王の呪いが、勇者アルに移ってしまったのだ」
アギスはわざとらしく涙を流し、ルーツィアはそわそわし始める。
「勇者アルは呪いによって、不老不死の体となった。そして、誰からも恐怖されるようになってしまった。そして、勇者アルは今も、死ぬことなく世界を放浪している...ここまで言えば、分かるだろう?」
その瞬間。
アギスとルーツィアが息ぴったりに「そう!我々こそ!」と叫び、
「アギスヴェール・ジンエルド!」
「ルーツィア・リンク!」
「「二人合わせて勇者アル!!」」
決めポーズと共に、二人は高らかに自己紹介を終えた。




