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自称魔王の、魔王を倒すまでの道  作者: 刺身こんにゃく
12/18

宣告

「お兄ちゃんに謝ってよ!おばさん!」


「...分かりました、そんなに死にたいのですね」


「あああ落ち着いてくださいレオーネさん!多分その子は天然で...」


「最悪じゃないですか、自覚がないのが一番悪いのです。殺す」


「てめー!サラに手を出したら容赦しねーぞ!」


「はあ?貴方みたいな屑に何が出来ると?」


「あっ!またお兄ちゃんのこと...!いい加減にしてよー!」


「いい加減にするのは貴女です、このクソガキ」


「てめー!!サラに何ってこと言いやがる!!」


わいわいと騒ぐ彼らには、収まる気配が全くない。

しかも、何とかその場を静めようと奮闘しているのが魔王である、という事実に、国王リカルドの頭はパンク寸前だ。ついでに胃も痛い。


そして、そんなリカルドの様子に気付いたのがこれまた魔王であった。


「静まれいっ!!」


渾身の叫びは、リカルド以下略に多大なる恐怖を与えたが、ぎゃーぎゃーと喚く変人共には通じなかった。


「えーい!静かにしろー!我は魔王であるぞ!貴様らを倒してしまうぞー!」


「根っからの善人が何を言っているのですか」


「うるせー!魔王が何だ!んなもん知るか!」


「お兄ちゃんは強いもん!平気だもん!」


「駄目だ通用しない!おのれ、魔王をここまで追い詰めるとは!」


ゼノは思わず天を仰ぎ、そして硬直した。


「何やってんだ、ゼノ。馬鹿野郎が。いや、甘野郎か?」


戦慄が走った。


限りなく低い声は、まるで地の底から響いてくるようで、魔王の比ではなかった。

先程まで喚いていた筈の青年は短く悲鳴を上げ、レオーネとサラは、為すすべもなく震えた。

その場に居合わせた人々はもれなく、得体の知れない恐怖に襲われた。


勿論、ゼノとてそうだった。


ゼノは、その恐怖の対象を持ち上げると、掌に乗せた。


「どうも、お久しぶりで」


「はん、相変わらず嫌われてんな。俺程じゃあねえが」


人の言葉を喋っているのは、一匹の黒い蜥蜴だった。


「アギスさんは、どうしてここに?」


アギス、と呼ばれた蜥蜴は、軽く身を震わせ、問いかける。


「ルーを探してんだが、何か知らねえか?」


「いえ、すみませんが分かりません。ルーさんに最後に会った時は、アギスさんも一緒でした」


「そうか、まああいつのことだ。どうせどっかで倒れてんだろ」


「もしルーさんを見つけたら、知らせましょうか」


「ああ、頼む。出来れば拘束しといてくれ」


「そ、それはちょっと...」


「冗談だ、気にすんな。まあ本当に拘束してくれても別に構わんが、あいつも強いからな。お前じゃ返り討ちか」


「そうですね、想像だけでも悪寒がします」


「だろうな」


蜥蜴はゼノの掌から飛び降りると、ちろりと舌を出した。


「忠告するぜ、ゼノ。お前も俺等と同じ、世界の嫌われ者だ。普通の人間のフリなんかしても、滑稽なだけだぜ。非情になれよ、お前はまだ救いがある方なんだからよ」


「...はい」


「じゃあな、次会う時はお前が死体であればいいな」


蜥蜴はゼノから視線を外し、悠々と歩き出す。

その途端、空気が軽くなった。


何故あんな小さな生き物にあれ程怯えていたのか、理解出来なくて、人々はざわめく。


「...何なのですか、あれは」


レオーネは気味が悪い、と言いたげに己の肩を抱き締めた。


「大丈夫か、サラ?」


「うん、びっくりした...」


「おい魔王!あいつは一体」


「黙れ、人間」


ぴしゃりとゼノは青年の声を遮った。


「...我は魔王、ゼノ。この世を統べる者。...一月後だ。我は一月後、再びこの国を現れる。そして破壊の限りを尽くそう」


国王リカルドが、とんでもない宣言に唖然と口を開いた。


「それを止めたければ、我が城に来い。我はそこで、貴様ら勇者を待とう。無論、我が敗北するなど有り得んがな」


一方的に告げると、魔王は古びた本を取り出し、固まる人々を残して転移した。

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