第22話:班分けの悲劇と家庭科室の地獄絵図
週が明け、いつも通りの日常がやってきた——はずだった。
「はい、それじゃあ今週の家庭科の授業は、待ちに待った『調理実習』を行いまーす!」
5時間目。家庭科室に響き渡る先生の声に、クラス中が「うおーっ!」と歓声に包まれた。
今日のテーマは、家庭料理の王道中の王道——『ハンバーグとサラダ』だ。
「なお、調理実習の班分けは……公平を期すために、あらかじめくじ引きで決定してあります! 黒板に貼りだした表を確認して、それぞれの調理台に移動してくださーい」
ガタガタと椅子を引く音と共に、生徒たちが黒板へと群がる。
俺・高坂大樹も人混みの後ろから自分の名前を探した。
「えーっと、俺の班は……第4班か」
その瞬間。俺のすぐ隣で、フッと不敵な笑みを浮かべる気配があった。
「……奇遇ね、高坂くん」
振り返ると、そこには完璧な立ち姿で佇む学園最高峰の黒髪令嬢・一ノ瀬葵がいた。
彼女の手元には『第4班』と書かれたくじ引きの紙。
「一ノ瀬さん……まじか。よろしく……」
「ええ。前回の我が家でのセッションを経て、私とあなたのチームワークはすでに完璧よ。私の精密な計測能力と、あなたの調理アルゴリズムが融合すれば、この調理実習は我が班の圧倒的完全勝利で終わるわ」
一ノ瀬さんがフンスと自慢げに胸を張り、メガネの奥の瞳を輝かせる。
(いや、別に料理で他人の班と勝敗を争う授業じゃないんだけどな……)
そう思いかけた、まさにその時。
「やったーーーーーっっっ!!! 高坂と同じ班だーーーーーっっっ!!!」
家庭科室の天井を突き破らんばかりの大歓声と共に、ドタドタと突進してきた影が、俺の背中にドスンと体当たりしてきた。
短髪を揺らし、すでに手元になぜか『マイエプロン』を構えた千歳である。
「高坂! ハンバーグだって! 肉だよ肉! 今日は授業でハンバーグが食べられるんだよ! 夢みたい!」
「千歳、落ち着け、背中に抱きつくな。……って、お前も4班なのか!?」
「うん! くじ引きで4番引いたもん! 高坂の作るハンバーグが食べられるなんて、今日の私、運命に感謝してる!」
「……」
俺は、天を仰いだ。
【第4班メンバー】
高坂大樹: 普段から弁当を作っているだけのただの庶民派料理男子。
一ノ瀬葵: 理論と計測に全てを捧げるが、家庭料理の加減を知らないポンコツお嬢様。
千歳: 目の前にある食材を片端から胃袋へ収めようとする野生の食欲。
(……終わった。これ、俺がワンオペで二人を制御しながら作らないと、ハンバーグどころか家庭科室が爆発するぞ……?)
「高坂くん、安心しなさい」
俺の絶望的な表情をどう誤解したのか、一ノ瀬さんが力強く俺の肩を叩いた。
「私に任せなさい。玉ねぎのみじん切り、挽き肉の練り込み、焼き加減の温度管理……全てミクロン単位・コンマ1秒単位の精度でアシストしてみせるわ」
「高坂ー! 私は何食べればいい!? 生の玉ねぎ食べていい!?」
「食べるな! まだ調理始まってねえよ!」
四方八方からの暴走の予感に、俺は頭を抱えながら、調理台に置かれたボウルと包丁を握りしめるのだった。




