第21話:食後のティータイムとやっぱりゼロの距離感
圧倒的な高火力によって生み出された『黄金松阪牛炒飯』が完食され、プロの専属シェフからの謎の感服を受けた後。
俺たちは、一ノ瀬邸の広大なリビングへと移動していた。
ふかふかの高級ソファーに腰を下ろすと、目の前のローテーブルには、どこかの高級ホテルでしか見ないような3段重ねのティースタンドと、金縁の美しいティーカップがセットされた。
「……高坂くん、食後の紅茶よ」
一ノ瀬さんが、これまた手慣れた手つきで銀のティーポットから琥珀色の液体を注いでくれた。
立ち上る香水のような華やかな香りに、俺は思わず鼻をくすぐられる。
「サンキュ。……なんか、料理を作った後にこんな至れり尽くせりのもてなしを受けると、余計に落ち着かないな」
「何を言っているの。最高の『パフォーマンス(料理)』を提供してくれたクリエイターに対する、当然の対価よ」
一ノ瀬さんは優雅にカップを傾け、スッと目を細めた。
「……それにしても、今日の一ノ瀬邸での実験で、一つ重大な事実が立証されたわ」
「重大な事実?」
「ええ。あなたの料理の核にあるのは、食材の豪華さでも、調理器具の性能でもないわ。徹底的に計算された『引き算の美学』と『食べる者への温度管理』……。皿という無限のキャンバスでも、あなたのアルゴリズムは完璧に機能したわ」
「言い方が相変わらず大げさなんだよな……。ただ単に『熱くてウマいもんを腹いっぱい食ってほしい』って思って作っただけだ」
「それが一番難しいのよ、高坂くん」
千歳が、ティースタンドの2段目にある高級スコーンを口いっぱいに頬張りながら、モグモグと参戦してきた。
「高坂のご飯ってさ、なんかこう……食べた後に『ふぅ、生き返った〜』ってなるじゃん? 一ノ瀬さんちの凄すぎるお肉も美味しかったけど、やっぱり高坂の火入れが一番最高だよ!」
「千歳さん、スコーンを喉に詰まらせないようにしなさい」
一ノ瀬さんが呆れたように言いながらも、どこか誇らしげに胸を張る。
「とにかく、今日のサンプリングデータは極めて有意義だったわ。大皿での『熱々状態』のポテンシャルは十分に理解できた。……だからこそ」
一ノ瀬さんはカップをソーサーに静かに戻し、眼鏡の奥の瞳を不敵に輝かせた。
「これからの『タッパー』という制約の中でのあなたの足掻きが、より一層楽しみになったわ」
「……結局そこに戻るのかよ」
俺は思わず苦笑いした。
「当たり前でしょう。冷めているからこそ試される、お弁当という限られた空間のゾーニング……。そこにこそ、日常の真の戦場(サンプリング場)があるのだから」
「へいへい。また、お前たちの期待に応えられるような地味でウマいタッパー弁当を作ってくるよ」
「楽しみにしてる! 高坂、次は何にするの!? お肉!? お肉がいい!」
「千歳さん、高坂くんのアイデアを事前に阻害してはいけないわ。」
どこまでも自分の胃袋とサンプリングデータのことしか考えていない二人であった。




