第7話 一本目の火、一本の柱
「杏奈ちゃん、漫画描いてる?」
11月も末になり、教会はアドベントに入った。
クリスマスまでのカウントダウンが始まり、毎週1本づつ蝋燭に灯が灯されていく。
その一本目の灯りを見ながら高辻さんに聞かれ、私は言葉をつまらせた。
今は漫画は6ページまで見てもらってるけど、カリンちゃんの件からピタッと描くことができなくなっていた。
あの件はお母さんにも言えていない。
1人で抱えるのもしんどいけど、高辻さんにどこまで言っていいんだろうか。
そう思いながら黙り込んでると、高辻さんは何かを察したのか、「何かあった?」と聞いてきた。
「……その、SNSですごく絵の上手な同い年の子がいたんですけど、その子がアカウント消しちゃって……」
それだけをなんとか言うと、高辻さんは「ああ」と納得したようだった。
「いろんな人がいるからね。SNSはよくも悪くもたくさんの人に見られるから」
「……その子、本当に絵も上手かったし毎日楽しそうにしていたから、あんなに簡単に消えてしまうんだって思い知って。崩れるときは一瞬なんだなと」
「それが人の弱さだよ」
高辻さんはあっさりと言った。
「大人も子供も関係なく人って弱いよ。簡単に悪意に取り込まれる。私の友達も人が変わったみたいになっちゃったし……」
「……そうなんですか」
「そう、だから」
そういって高辻さんはこちらを見て微笑んだ。
「だから、教会ってそういうときのためにあるのかもしれないなって思ってる」
「……? 教会ですか?」
首をかしげる。
物心ついた頃から当たり前に教会に通ってるから、改めてその意味を言われてちょっと戸惑った。
高辻さんは続ける。
「私はクリスマスに洗礼を受けることに決めたんだけどさ、神さまとイエス様に既に守られてたって分かったからというのも大きいんだよね」
「……」
「人は自分を支える柱が必要だけど、私にとって間違いなくそれが教会なんだって思ったの。心が揺らいでもイエス様が共にいるって考えたら安心するから。杏奈ちゃんもそうじゃない?」
「……そうですね」
毎日普通にお祈りしてるから神さまやイエス様の存在を特別に意識したことはなかったけど、私の日常の全てにそれは根付いていた。
それに改めて気づかされる。
高辻さんは再び微笑んだ。
「だから杏奈ちゃんも、しんどかったらそのままイエス様にぶつけたらいいんじゃないかな。いつでも聞いてくださるから。牧師も神さまに愚痴ってもいいって言ってたよ」
それに軽く吹き出す。
「……そうですね。今夜のお祈りで神さまとイエス様にお話ししてみます」
そう言うと、高辻さんはにっこり笑った。
その笑顔を見て、少しだけ胸が軽くなった気がした。
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いつもの寝る前のお祈りで、私は神さまに今抱えてる焦りとモヤモヤを全部吐き出した。
もちろん答えが返ってくる訳じゃないんだけど、自分の気持ちを言語化すると少しスッキリした気がした。
これが高辻さんが言っていた、神さまとイエス様に守られているということなのかもしれない。
ふと、机の上に置きっぱなしになっているタブレットが目に入った。
その時、私のなかにある感情が芽生えた。
描きたい。
宙ぶらりんになっている健斗と晃の物語をちゃんと決着させたい。
でももうすぐ期末試験が始まるから、今はその勉強をしないといけない。
一生漫画を描いていくためには、まず私自身の人生の選択を増やすこと。
そのために勉強が必要なんだ。
そう思うと、今までなんとなくこなしていた試験勉強が違って見えてくる気がした。




