第8話 完成した物語、動き出す世界
期末試験を終えたあと、私は早速漫画の続きを描き始めた。
ここまで集中して描いたことは今までなかったかもしれない。
SNSもあれだけ開くのが怖かったけど、今は落ち着いて見られるようになった。
確かに意地悪なコメントもゼロではないけど、それでもたくさんの人が自分の「好き」を精一杯表現して楽しんでいる。
上手い下手以前に、自分がどう楽しむか。
そこが大事なのかもしれない。
2週間ほどで残り2ページを描きあげ高辻さんに見てもらうと、高辻さんは少し目を潤ませて感想を語ってくれた。
「よかったねえ、健斗くん、晃くんとくっついて。最後の手を繋いで帰るシーンとかちょっと泣きそう。この二人のこれからも読みたいなあ」
そんな高辻さんを見ながら、私はゆっくりと伝えてみた。
「あの、もうひとつ考えてることがあるんですけど……」
「何?」
「実はSNSで、漫画を公開しようと思っていて」
「そうなの?」
高辻さんは目を見開く。
「はい、高辻さんに見ていただいて思ったんです。漫画って人に読んでもらって完成するのかもって」
「……」
「それに漫画家って、自分の漫画を人に読んでもらうのが仕事じゃないですか。もちろん厳しい意見も来ると思うんですけど、逆に自分を試したいなって思ったんです」
「……すごいね。……私も絵を描こうかな」
思わずその言葉に食いつく。
「本当ですか? 見たいです。描いたら見せてください!」
「え、いや、描くかどうかもまだ……」
「見たいです!」
私の圧力に高辻さんも怯んだみたいだったけど、最後は「分かった」と言ってくれた。
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その翌週のクリスマス礼拝で、高辻さんの洗礼式が行われた。
行友教会で洗礼式が行われるのを見るのは初めてだ。
厳粛な空気のなか、牧師の祝辞が述べられる。
「高辻茉那さん、あなたはもう一人ではありません。神さまがいつも共にあり、そしてこの教会の家族が、あなたの歩みを支えていきます。あなたのこれからの歩みが、光に満ちたものとなるようお祈りいたします」
その後盛大な拍手が礼拝堂に響き渡り、高辻さんは満面の笑顔でそれを受け止めていた。
その光景を見て、胸の奥がじんわりと温かくなった。
洗礼は、神さまとイエス様と共にあることを誓う儀式。
私は一生漫画を描いていきたいと思っているけど、それと同じくらい教会と共にありたい。
高辻さんの洗礼式を見て、改めてそう思った。
「高校生になったら信仰告白を考えてます」
礼拝後、高辻さんにそう伝えると、隣にいたお母さんがちょっと驚いたようにこっちを見た。
私がそう言い出すのは予想外だったみたい。
でもその後、お母さんが少し安心したように微笑んだのが印象的だった。
その後冬休みになり、私はSNSの画面を開けた。
漫画の画像を添付する。
カリンちゃんへのあのコメントが一瞬頭をよぎり、指が止まった。
不意に、袖口から覗く青い石のブレスレットが、窓からの光を反射してキラリと揺れる。
──それでも私は、前に進みたい。
そう改めて感じた私は─────
公開ボタンを押した。




