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第4話 止まった時間と、動き出したペン

 その日、家に帰ってから改めて自分の漫画を見返す。


 手元の何冊かの漫画を確認すると、確かに高辻さんの言う通りコマの余白は上下と左右で違っていた。


 今まで意識してなかったけど、確かに私の漫画はコマの間が狭くて見づらいかもしれない。


 こんな視点は自分では持てなかった。


 漫画の書き方はいろいろネットで調べたり動画を参考にしたりはしていたけど、自分の漫画にそれらを落とし込めるかはまた別問題なんだと知った。


 今までは自分1人で満足するだけの漫画だった。


 でも、私はもうそれだけじゃ嫌だ。


 高辻さんみたいに読んでくれた人にちゃんと楽しんでもらいたい。


 そう思いながら読み返すと、私の漫画はまだまだ至らないところが多すぎた。


 面白いかどうか以前に、まず読みやすい漫画を描くこと。


 それが基本なんだ。


 私はこの健斗と晃の漫画を一から描き直すことに決めた。


 次に会ったときに高辻さんにそれを伝え、ちょっと時間がかかることを言うと、高辻さんは「いつでも待ってるね」と言ってくれた。



─────────────────────



 普段はどうしても学校の勉強や塾、部活に時間を取られて漫画を描く時間が削られてしまう。


 部活は絵が描けるからと言うことで美術部に入っていた。


 前は何よりも漫画を描くことを最優先にしていたけど、勉強もきちんとやることをお母さんと約束していたからそっちも手は抜けなかった。


 正直何のために勉強をしてるのかはピンと来てなかったけど、来年は中3になり高校受験を控えてるからそこを目指してと言うことで納得はしていた。


 そんな中でも時間を見つけ、こつこつと漫画を描き進めていった。



 そうやって夏休みに入ったある日、お母さんが慌てたように言ってきた。


塩見しおみさん、亡くなったんだって。明後日、告別式だから制服用意しておいて」


 一瞬、何を言われてるのか分からなかった。


 塩見さんは行友教会の教会員で、いつもにこにこしている優しいおばあちゃんみたいな人だった。


 両親の実家は遠いから本当の祖父母にはなかなか会えないけど、塩見さんは小さい頃から教会でいろいろ話しかけてくれ優しくしてもらっていた。


 その塩見さんが、亡くなった?


 そういえば最近教会でも見かけなかったし、イースターの卵の絵付けイベントにも姿を見せなかった。


 最後に会ったのいつだったっけ?



 その2日後、うだるような暑さの中、塩見さんの告別式が行われた。


 行友教会の教会員は高齢者が多いので、数年に一度は告別式が行われている。


 でも、参列したのは今回が初めてだった。


 中学校の制服を着て、教会に行くのは変な感じだ。


 今日は教会の空気が、いつもより静かに感じた。


 最初はピンと来てなかったけど、告別式が進行し献花の場面で棺の小窓から塩見さんの顔が見えた。


 いつもあんなに笑いかけていてくれていた塩見さんが、穏やかな顔をして棺の中にいる。


 その顔を見た瞬間、時間が止まったみたいに動けなかった。


 そのときに私はようやく現実を理解した。


 人が亡くなるってこういうことなんだ。


 そう思った瞬間、涙が溢れた。


 もう塩見さんとお話することも、一緒に笑い合うこともない。


 お母さんに怒られて泣いたとき、真っ先に庇ってくれた塩見さんはもういなくなってしまった。


 その事実を目の当たりにして、私は涙が止まらなかった。


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