僕と友達part2
何故なら、相手は格上の大妖怪。
鴉天狗も格だけなら負けてはいないが、まだ疾風は子供だ。 力の差は大きすぎる。
でも、氣押されるだけでは無いのが疾風だった。
腹に力を入れ慌てずに答えた。
「鴉天狗一族の疾風です!!…空色の友達です!」
"俺"を見てくれ!…と格上の大妖怪に主張してくる命知らずを月はえらく気に入った。
鬼神である月に恐れおののく妖怪は多いが、正面切って挑んでくる者は……大昔ならいざ知らず今はもういない。
自身と同格かそれ以上、神と名のつく者達だけだった。
下でもなく、上でもなく、月を月として、空色の家族として胸を張って自己紹介した少年に好感を持った。
………だからこそ余計にこの無謀と言える少年が嬉しかったのかも知れない。
「そうか、そなたが"しっぷう"か。元気が良いのは良いことだ。……空色は心の手伝いをしておる、どれ今呼んでやろう」
最初こそ大妖怪らしからぬ気さくな人柄にびっくりした疾風だったが、そこは物怖じしない疾風だ。
月の有難い申し出を、空色の邪魔はしたくないので、自分が行くからと丁重に辞退した。
外からの見た目よりも家の中は恐ろしく広かった。
通常であれば迷子になど絶対にならない。
鴉天狗は風神の守護を受けており、神の守りを得ている者は方向性を見失ったりしないからだ。
だが、此処は月が造り出した異空間。
神の加護もこの場所には届かない。
このままでは迷子になってしまうと、月に連れられて、家の奥にある台所の近くまで来ると、まるで母親のお手伝いをしているかのような空色の姿があった。
ドアが無いので少し離れた場所からでも二人の様子が確認できたのだ。
嬉しそうにしている空色に、声を掛けられずに少しの間立ち止まったままでいると、ふと何かに気が付いたように空色が此方を向いた。
誓って物音などたててはいない。
それなのに……だ。
妖怪の気配を機敏に察知する能力は、陰陽師の持つそれに近いのかも知れない。
「疾風?……」
小さな声だったが、妖怪である疾風には空色の呟きが聞こえた。
「疾風!!」
初めこそとても驚いていたが、理解が追い付くと嬉しそうに空色は疾風のところまで駆けてきた。
「おはよう!!遊びに来てくれたの?」
初めての友達の訪問が余程嬉しかったのだろう、空色はいつになく興奮していた。
その空色の表情に疾風も嬉しくなった。
「おはよう、空色!一緒に学校に行こうと思って、お前んちに来たんだ!!」
何とも微笑ましい朝の一幕に月や、勿論疾風の気配を初めから察知していた心は、顔を見合せて微笑んだ。
朝御飯は勿論食べてきた疾風だったが、心に勧められるまましっかりと又朝御飯を平らげ、二人仲良く心の付き添いで学校まで向かった。
「じゃあ空色。……学校が終る頃又迎えに来ますから教室で待っていて下さいね?」
校門をくぐり教室の入り口まで着くと心が念を推すように伝えた。
「はい!」
内心申し訳なく思ったが、意味があって心が言っているのも子供ながらに解るので大人しく返事を返した。
教室に入り、机の中に教科書、筆入れを入れるとランドセルを仕舞った。
どれも月がいつの間にか用意し、心が名前を書いてくれた物だった。
誰かに何かを貰った事などない空色は、ランドセルが宝物になった。
大人になっても大切に保管する程に大切だったんだ。親が我が子に与える成長し証のプレゼントはどんな玩具より、空色には嬉しかった。
席は疾風の隣、窓際後ろから2番目の場所。
窓側は疾風、廊下側が空色の席だ。
疾風と一緒に来た空色に皆は興味深々だった。
だって空色は人間…それなのに大妖怪である鴉天狗の疾風と仲が良さそうなのだから無理もない。
まだ幼いクラスの子供達だったが、妖怪故の特性か格の違いは体で理解していた。
媚は売らない、群れない。確かなる"個"である自身の存在に誇りを持っている者が多いため、衝突も有るが不要な虐め等はない。
無いのだが、それも同じ妖怪同士ならばこそだった。空色は人間。少なからず人間を怨む妖怪も多いし食糧だと考えている者もいる。
だが、この学校に通うに辺り理事長兼校長は不要な争いを禁じ、そこに誓約書も書かせている。
理事長も人間なのだが、理事長の奥方は力のある大妖、猫神の姫。二人の娘もこの学校に通わせている事もあり、妖怪の世界にとっても大貴族である猫神の党首が後ろ楯となりこの制度を支えていた。
力のない部族は大妖怪である猫神を恐れ、疾風の様な大妖怪の一族は元々不要な争いは起こさない。
行うときは己が命を賭ける時のみだ。
争いこそ起こさないが決して群れたりもしない。
だからこそ、疾風が空色と仲良くしている事が信じられないのだ。
何故に人間ごときと鴉天狗であり、尚且つ跡取り息子である疾風が人間の空色と一緒にいるのか!?
教室は朝からざわついていたが、疾風は端から人の目何て気にしないし、空色は悪意に敏感だが育った環境が特種だったため、滅多な事ではへこたれない鋼のメンタルを身につけていたから気にもならなかった。




