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君の僕  作者: 藤
10/12

僕と友達

 心は何事も無いように木上、それもてっぺんに立っているが、地面にいるような安定感がある。 だが、彼女も妖怪なのだから不思議ではない。 疑問に感じている事が有るとすれば、彼女の属性だった。 何者なのか?それが全然わからない。 月は鬼である事を隠そうとしていない。 まあ、どの位の強さなのかは今の疾風には解らないなが、何者であるかは解る。

その意味では、心の方が底が知れない。

 緊張しないかと言われてしないと言えば嘘になる。

 妖怪同士では見知らぬ相手と対峙し相手の能力が上なら死ぬ事の方が圧倒的に多いからだ。

 だが……先に言葉を発したのは疾風の方だった。

 何事も先手必勝な性格はどこでも変わらない。

 それに空色が大切に思っている点で既に疾風にとっても心も月も敵では無かった。


「…俺に何か用ですか?」


「ええ、うちの空色の事で、君に頼み事がありまして……」


 間髪入れずに返してくる。

 それもこれでもかって言う程に綺麗な笑顔で、だ。

 怖いことこの上ない。


「空色の事?」


 勿論、生まれて初めて自分を庇って敵の前に立ちはだかってくれた空色の事なら何だってやるつもりだ。


「ええ、ご存じの通り空色は人間ですが、彼には特殊な能力があります」


「………能力?」


「はい、今解っている時点でのその能力とは癒しと破壊。後の能力は未数値ですが、解っているだけの能力でも他の妖怪が空色を欲しがるには十分です。疾風さんもご存じだと思いますが、力のある人間を食らえば食らった妖怪は段違いに強くなる。ましてや、空色は再生能力を持っている……お分かりの通り、癒しの力を持つものは神や精霊の加護が強い。そんな人間は稀少価値です」


 疾風は元々聡い子だ。

 その言葉だけで十分理解した。


「そんな事はさせません!空色は俺の友達だから、俺があいつを守ります!」


「有り難う……何かあれば直ぐに私か月様迄知らせて下さい。私達は空色を守りたい。ですが、あの子の子供としての普通も守りたいのです。既に学校側には伝えてありますが、鴉天狗である疾風君が付いていてくれると心強い。勝手な事は百も承知ですが、何卒宜しくお願い致します」


 深々と頭を下げる心に、疾風は驚いた。

 妖怪が他の部族に頭を下げる事は絶対にない。

 それは、軍門に下ることを意味しているからだ。それほどまでに、空色を大事にしていると言うことなのは子供の疾風でさえ良く解った。


「頼まれたから、側にいるんじゃない。俺はあいつが好きだから、友達だから守るんだ」



 真っ直ぐに射抜くその眼差しに心は心からホッとしたのだった。

 これこそがあの子の本当に恐ろしい能力ではないだろうか?……心はそんな事を考えていた。

 カリスマじゃない、そんなものじゃない。

 ただ、側にいたい。あの子の側は心地好かった。

 別れ際、疾風は心に心が何者で有るかを訪ねた。

 答えてくれるとは思ってなかったが、心は予想とは反しすんなりと教えてくれた。


 神々しい程に美しい神狐……それが心の妖怪としての姿だった。

 妖狐の中でも人間の神話にも度々出てくる神狐は大妖怪と位置付けられる存在だ。

 疾風も詳しくはわからないが、母親から出会ってしまったら、可能な限り逃げる事を考えなさいと言われてきた。

 鬼に神狐が空色の保護者な時点で只者ではないはずだと、疾風は一人納得した。


 心が音もなく消えると、疾風は膝から崩れ落ちた。

 自分が思っていたよりも緊張していたらしい。

 心が敵なら瞬殺されていたのは確定だろうから無理もない。

 寧ろ、今まで耐えていた痩せ我慢を褒めて欲しい位だ。


「……俺、だせえ……」


 風と共に消え、呟いた言葉は誰に向けたものだったのか。


 翌日リベンジを決めるべく、疾風は道場破りよろしく月達の家に押し掛けた。

 勿論、空色を学校に一緒に行こうと誘う為だった。


 ここで1つの疑問が起こる。

 果たしてどうやって空色の家を特定できたのか?……だ。

 理由は簡単。

 昨日感じた空色の氣を辿ったのだ。

 心や月は気配を上手に消していたが、空色は消しきれていなかった。

 まあ、この屋敷の中では結界が張られているためと空色の気配も感じないが、昨日のうちに何処で空色の気配が消えたのか調べておいた疾風は難なく家を見付ける事ができた。

 尤もそれすら心の手の内だとは大人になるまで疾風は気付けなかった。


「空色!学校に行こうぜ!」


 元気な声は町内中響き渡った。


「……朝から元気だな、鴉天狗の小倅」


 大きな門を開け出てきたのは月だった。


「おはようございます!」


 子供らしくない程に礼儀正しく疾風は月に頭を下げた。

 元々厳しく育てられた疾風は、本来なら礼儀正しいお子様なのだ。

 ちょっと時々やんちゃが過ぎるだけで。


「小僧は元気が1番だ!…気に入った、小僧、名は何と言う?」


 今度びっくりしたのは疾風の方だった。


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