第二話 五線譜に描く月の歌
もう日が沈んで路が琥珀色から鈍色に変わってゆく頃、私は帰りに東京駅に寄って、月を眺めるために近くの建物の屋上庭園に行く。
日課なんだよね。
今日は月が見えない。新月か。
対照的に街燈は綺麗に輝いている。
そんなとき、少し離れた場所に私と同じような表情をした女性が立っているのに気付いた。ちょっと親近感。OLさんかな。
いきなり話しかけたら不審に思われるかなとか考えながら恐る恐る話しかけてみる。
「あの、すみません、」
「ん?」
「お姉さんはここで何をしているんですか?」
「毎週金曜日、ここから星を眺めてるの。お気に入りなんだ。」
「ここからなら、星に手が届きそうな気がしてね、」
「貴方はどうしてここに来たの?」
「学校帰りです。」
嘘ついちゃった。本当は行ってないのに。
「学校か。懐かしいな。」
「あんまり充実してなかったけどね。」
「今となってはいい思い出だな。」
「...学校楽しい?」
「......はい。」
また嘘。
「あの、」
「大人になるってどんな感じですか?」
「んー、」
「昔とあんまり変わってないよ。」
大人になっても何も変わらないんだ。
私は少しがっかりした。
「人生って努力すれば変えられると思いますか?」
「どうだろうね、」
「私は何も変わらなかったよ。」
そうなんだ、余計がっかり。
「貴方は何か辛いことでもあるの?」
女性が私に尋ねる。嘘がバレたのかな。
「はい、」
今度は正直に答える。
「私は何も変わらなかったけど、貴方ならもしかしたら、」
「だって、」
「今、月は見えないけど、満月の日って必ずやって来るでしょ。」
女性は寂しげに微笑む。でもそんな女性の笑顔は私にとって輝く月のようで、
少しだけ未来を感じた気がした。
私も女性に向かって精一杯の笑顔で、
「お姉さんだってきっと、」
「......ありがとう。」
女性は再び微笑んで去っていった。
今日でこの場所とはお別れしよう。




