表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百年生きた剣鬼、希少長寿種に転生し、世界を観る  作者: ザナトス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/51

9話 ローヴェンへの帰還

 ローヴェンへ戻った頃には、空は赤く染まり始めていた。

 夕暮れ。 街門には帰還した商人や冒険者たちが集まり、いつものように賑わっている。

 その中を、カゲツたちは静かに歩いていた。

「……疲れた」

 クルトが深く息を吐く。

「一日で経験することじゃねぇぞ、あれ」

「私もまだ頭が整理できてません……」

 フィナも苦笑していた。 魔力汚染。 異常個体。

 そして、カゲツ。 色々ありすぎた。

 だが当の本人は、いつも通り静かだった。

「そうか?」

「そうかじゃねぇよ……」

 クルトが呆れる。 その時だった。

 門前の衛兵がこちらへ気付く。

「あ、お前ら戻っ――」

 声が止まる。 衛兵の視線が、カゲツへ向いていた。

「……なんか増えてないか?」

「何がだ」

「いや、なんか存在感が」

「分からん」

 本当に分かっていない顔だった。 衛兵は少し引き攣った笑みを浮かべる。 するとクルトが疲れ切った顔で口を開いた。

「聞いて驚くなよ」

「?」

「森の異常個体、カゲツが倒した」

 沈黙。

「……は?」

「しかも上級魔物級」

「…………は?」

 衛兵の顔色が変わる。 周囲の冒険者たちも反応した。

「上級魔物?」

「この辺に出たのか!?」

「おい待て、誰が倒したって?」

 ざわめきが広がる。 カゲツは少しだけ眉を下げた。

「目立つな」

「もう諦めろって……」

 クルトが遠い目をした。 そのまま三人はギルドへ向かう。

 扉を開けた瞬間。 ギルド内の視線が一斉に集まった。

「戻ったか」

 ヴァルド支部長が腕を組んで立っている。 そしてクルトの顔を見るなり、眉を顰めた。

「……何があった」

「色々だよ」

 クルトが疲れた声で答える。

「森が魔力汚染されてた」

 空気が変わる。 冒険者たちの表情が険しくなった。 ヴァルドの目も細くなる。

「詳しく話せ」

 クルトは森で起きたことを説明した。 淀んだ魔力。 異常化した魔物。

 そして、巨大狼。 話が進むにつれ、ギルド内の空気が重くなっていく。

「……上級異常個体、だと」

 ヴァルドが低く呟く。 普通なら街へ被害が出てもおかしくない。 最悪、討伐隊案件だ。

「で、どうした」

 クルトはカゲツを見た。

「こいつが倒した」

 沈黙。 ギルド内が静まり返る。

 ヴァルドがゆっくりカゲツを見る。

「……本当か?」

「核を砕いただけだ」

「だけで済む話じゃねぇ」

 ヴァルドが頭を押さえる。 周囲の冒険者たちもざわついていた。

「上級異常個体だぞ……?」

「普通、B級以上が出る案件だ」

「いや待て、核を砕いたって何だ?」

 だがカゲツ本人は静かだった。

「素材は持ち帰っている」

「……は?」

 次の瞬間。 ギルド中央に、巨大な狼の死体が現れた。

「うおっ!?」

 冒険者たちが飛び退く。 黒い毛並み。 巨大な牙。

 そして圧倒的な存在感。 死んでなお、異常さが分かる。

「収納から出した」

 カゲツが普通に言う。 ヴァルドが額を押さえた。

「待て。今さらっととんでもないこと言わなかったか?」

「空間収納か!?」

「しかもあのサイズ入るのかよ!?」

 ギルド内が騒然となる。 クルトが疲れ切った顔で椅子へ座った。

「だから言ったろ……色々ありすぎたんだよ……」

 ヴァルドは巨大狼へ近付き、静かに目を細める。

「……確かに上級異常個体だ」

 周囲の空気が張り詰める。 その価値を理解しているのだ。

 高位魔石。 高級素材。 莫大な金になる。

 だが、それ以上に。

「これを一人で倒したのか……」

 誰かが呟く。 視線がカゲツへ集まる。 銀髪の青年。

 穏やかな顔。 だが、その存在は明らかに異質だった。

 ヴァルドは深く息を吐く。

「……カゲツ」

「なんだ」

「お前、本当に何者だ?」

 カゲツは少しだけ考えた。 そして静かに答える。

「旅人だ」

 その返答に。 ギルド内の誰もが、同じことを思っていた。

 ――そんな旅人がいてたまるか、と。

 ギルド内は騒然としていた。 中央へ横たわる巨大狼。

黒い体毛。 異様な牙。

 そして、死んでなお漂う圧力。

 冒険者たちは距離を取りながら、その死体を見ている。

「でけぇ……」

「こんなの初めて見たぞ……」

「本当に上級異常個体じゃねぇか……」

 ざわめきが広がる。 その中心で、カゲツだけは静かだった。

「……これで何か問題あるか?」

「問題しかねぇよ」

 クルトが即答する。 ヴァルド支部長も深く息を吐いた。

「普通、街一つが警戒態勢に入る案件だ」

「そうなのか」

「そうなんだよ……」

 カゲツにはまだ、この世界の危険基準がよく分かっていなかった。

 前世では、人間の戦争を基準にしていた。

 だからこそ、巨大狼を見てもそこまで脅威に感じていない。 だが周囲からすれば別だ。

 これほどの魔物を単独討伐。 しかも大きな負傷も無し。

 完全に規格外だった。

「……とりあえず解体場へ運ぶぞ」

 ヴァルドがそう言った瞬間。 ギルド内が静かになる。 誰も動かなかった。

「……?」

 カゲツが首を傾げる。 ヴァルドが疲れた顔で言う。

「お前の収納で運べ」

「なるほど」

 次の瞬間。 巨大狼の死体が消える。 再びざわめきが起こった。

「やっぱ便利だろ」

「便利で済ませるな!」

 クルトが頭を抱える。 ヴァルドも遠い目をしていた。

「……慣れねぇな」

 そのまま一行はギルド裏手の解体場へ向かう。 解体場には、血と鉄の匂いが漂っていた。

 巨大な作業台。 吊るされた魔物。 解体用の刃物。

 数人の解体師たちが作業している。

 そしてカゲツが巨大狼を取り出した瞬間。

「――は?」

 解体師たちの動きが止まった。

「お、おい……」

「なんだその化け物……!」

「上級個体じゃねぇか!?」

 年配の解体師が慌てて近付いてくる。 筋肉質な大男だった。

 右腕には無数の古傷。 長年解体をしてきた者の手だった。 男は巨大狼を見るなり、顔を顰める。

「……異常個体か」

「分かるのか?」

 カゲツが尋ねる。 男は頷いた。

「魔力の淀みが残ってる。こりゃ相当危険だったぞ」

「そうらしい」

「倒したの誰だ?」

 沈黙。 周囲の視線がカゲツへ向く。 解体師の男も止まった。

「……坊主?」

「カゲツだ」

「いや名前じゃねぇよ!?」

 思わず叫ぶ。 だがヴァルドは真顔だった。

「本当だ」

 解体師が絶句する。

「嘘だろ……」

「俺も最初そう思った」

 クルトが遠い目で頷いた。

 解体師はしばらく巨大狼を見ていたが、やがて真剣な顔になる。

「……こりゃ相当な値になるぞ」

「高いのか?」

「高いなんてもんじゃねぇ。毛皮、牙、爪、骨、全部上物だ。魔石なんざ貴族が欲しがる級だぞ」

 周囲の冒険者たちもざわついていた。

 上級異常個体。 滅多に出ない。 当然、素材価値も桁違いだった。

「解体は時間かかる。今日は査定だけだな」

「分かった」

 カゲツは静かに頷く。 金にはそこまで執着が無い。

 だが旅を続けるには必要なのだろう。

 その時だった。 解体師の男がカゲツを見る。

「坊主、お前剣士か?」

「そうだな」

「その歳で、どこでそんな剣覚えた」

 カゲツは少し考える。 前世。 戦争。 百年。 多くを斬ってきた。

 だが、それをそのまま話す気にはなれなかった。

「長く振っていただけだ」

 静かな返答。 だが、その言葉に妙な重みがあった。

 解体師は数秒だけ黙り、それから苦笑する。

「……長く、ねぇ」

 その目は、とても若者のものではなかった。 ヴァルドも同じことを感じていた。 この男は、時折妙に老成して見える。

 百年生きたという話が、冗談に聞こえなくなるほどに。

 その時。 フィナが小さく笑った。

「でも、カゲツさんって意外と優しいですよね」

「ん?」

「魔物、できるだけ殺したくなさそうでしたし」

 解体場が少し静かになる。 冒険者にとって魔物は脅威だ。

 討伐対象。 素材。 それが普通だった。 だがカゲツは違う。

 巨大狼を見つめる目に、どこか哀れみがあった。 カゲツは少しだけ狼を見る。

「……生きるためだったのだろう」

 静かな声。

「人も魔物も、そこは変わらん」

 その言葉に、誰もすぐ返せなかった。

 夕暮れの光が、静かに解体場を染めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ