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百年生きた剣鬼、希少長寿種に転生し、世界を観る  作者: ザナトス


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7話 森への依頼

 ギルド内に笑い声が広がる。

 カゲツは少し不思議そうに周囲を見ていた。

「……そんなに変なことか?」

「変だよ」

 クルトが笑う。

「普通、あんたくらい強かったら中級以上行けるって」

「基準が分からん」

「まぁそうだろうけど……」

 受付嬢も困ったように苦笑していた。

 精霊族。 しかも規格外。

 そんな存在へ初心者依頼を渡すなど前例が無いのだろう。

 だがヴァルド支部長が腕を組みながら口を開く。

「いや、別に構わん」

「支部長?」

「本人が世界を知りたいなら、最初から経験させた方がいい」

 その言葉に、カゲツは静かに頷いた。

「それは助かる」

 ヴァルドは掲示板から一枚の依頼書を剥がす。

「これならどうだ」

 カゲツは受け取った。

『薬草採取及び森周辺警戒』

「初心者向けだな」

「まぁな。ただ最近、森の魔物が少し荒れてる」

 クルトが顔を顰める。

「森狼の件か?」

「恐らくな。縄張り争いでも起きてるのかもしれん」

 ヴァルドはカゲツを見る。

「無理はするな……と言っても説得力無いか」

「努力はしよう」

「お前の場合、その努力が怖ぇんだよ」

 クルトが呆れた。 周囲の冒険者たちも苦笑している。

 だがさっきまでと空気が違った。 警戒だけではない。

 受け入れ始めている。 そんな空気だった。

「なら、行ってくる」

 カゲツが立ち上がる。 するとフィナが慌てて手を挙げた。

「あ、私たちも行きます!」

「ん?」

「どうせ採取なら手伝えますし!」

 クルトも頷く。

「森の道も分かるしな」

 カゲツは少し考え、それから小さく頷いた。

「なら頼もう」

 その自然な返答に、フィナが嬉しそうに笑う。

 ヴァルドはその様子を静かに見ていた。

 不思議な男だ。 圧倒的に強い。 だが威圧感で支配しない。 自然と人が近付いていく。

 それは恐らく、カゲツ自身が“人”を嫌っていないからだろう。

「気を付けろ」

「分かった」

 そうして三人はギルドを後にした。

 街を出る。 石畳から土の道へ変わる。 森の風が吹き始めた。

 その瞬間だった。 ざわり、と木々が揺れる。

「うわ、また反応した……」

 クルトが引き気味に呟く。 フィナも苦笑していた。

「森に歓迎されてますね」

「そんな感覚は無いんだが」

 カゲツは静かに周囲を見る。 だが確かに、森へ入ると妙に落ち着く。

 空気が馴染む。 世界そのものが近い。

 前世では決して感じられなかった感覚だった。

「薬草ってのはどんなものだ」

 カゲツが尋ねる。 するとフィナが鞄から本を取り出した。

「えっと、“青葉草”です」

 挿絵付きだった。 小さな青い葉を持つ植物。

「湿った場所によく生えるんです」

「なるほど」

 カゲツは静かに目を閉じる。

 風。 水。 草木。 森全体へ意識が広がる。

 そして。

「……あっちか」

「え?」

 カゲツは迷いなく歩き出した。 クルトたちが慌てて追い掛ける。

「お、おい待て! なんで分かるんだ!?」

「魔力の流れが違う」

「分かる訳ねぇだろ普通!」

 数分後。 本当に湿地へ辿り着く。

 そしてそこには、大量の青葉草が群生していた。

 クルトとフィナが固まる。

「……あった」

「しかも大量……」

 カゲツは静かに草を摘む。 その手付きは妙に丁寧だった。

「植物を採るの、慣れてるんですか?」

「いや」

「じゃあなんでそんな上手なんです?」

「……なんとなくだ」

 精霊族の感覚なのかもしれない。 根を傷付けないように。

 周囲の流れを乱さぬように。 自然と身体が動いていた。

 その時だった。 森の奥で、木々が揺れる。

 空気が変わった。 クルトの顔が険しくなる。

「……来るぞ」

 低い唸り声。 現れたのは、巨大な灰色狼だった。

 森狼。 昨日の個体より、更に大きい。

 だが。

 カゲツは静かにその狼を見ていた。

 そして小さく呟く。

「……怯えているな」

「は?」

 狼は牙を剥いている。 だが、その目には確かに焦りがあった。

 カゲツは剣を抜かない。 ただ静かに狼へ近付く。

「お、おいカゲツ!?」

 クルトが叫ぶ。 だがカゲツは止まらない。

 狼が低く唸る。

 だが――。

 数秒後。 狼はゆっくり牙を下ろした。 そのまま後退りし、森の奥へ消えていく。

 静寂。 クルトとフィナが固まる。

「……なんで?」

 フィナが呟く。

 カゲツは森を見つめながら静かに答えた。

「ただ、生きるのに必死なだけだ」

 その横顔は、どこか寂しそうだった。

 森狼が去った後もしばらく、クルトとフィナは固まっていた。

 風だけが静かに吹いている。 カゲツは森の奥を見つめたまま、小さく目を細めていた。

「……妙だな」

「え?」

 フィナが聞き返す。 カゲツはゆっくり視線を巡らせた。

「森が落ち着いていない」

 その言葉に、クルトが眉を顰める。

「落ち着いてない?」

「怯えている」

 静かな声だった。 だが、冗談ではないことは伝わってくる。

 カゲツは木々へ触れる。 ざわり、と葉が揺れた。

 まるで応えるように。

「……やっぱり見えてねぇ何かがあるな」

 クルトが低く呟く。 昨日から魔物が荒れている。

 森狼も怯えていた。 偶然ではない。

 カゲツは少しだけ空気を探るように目を閉じた。

 森の流れ。 風。 水。 生命。 その全てが、僅かに乱れている。

 奥だ。 もっと奥。

「行くのか?」

 クルトが尋ねる。 カゲツは静かに頷いた。

「原因があるなら見ておきたい」

「……まぁ、あんたなら大丈夫か」

 クルトは苦笑する。 もはや普通の心配をする気にもならなかった。

 三人は森の奥へ進み始める。 木々は深くなり、陽光も薄くなっていく。

 空気が変わった。 湿り気。 重さ。 そして、妙な静けさ。

「……静かすぎる」

 フィナが小声で呟く。 鳥の声が無い。 虫の音も無い。

 森そのものが息を潜めているようだった。 カゲツの表情が僅かに変わる。

「来るぞ」

 瞬間。 茂みが爆ぜた。

「――ギャァァア!!」

 飛び出してきたのは、巨大な魔物だった。 黒い毛並み。

 異常に発達した腕。 赤く濁った瞳。

「フォレストエイプ!?」

 クルトが叫ぶ。 本来なら森の中層付近にしか現れない魔物。

 しかも。

「でかすぎる……!」

 通常種の倍近い。 魔物は咆哮し、そのまま突進してくる。 地面が揺れる。

 フィナの顔が青ざめた。

「クルト!」

「分かってる!」

 二人が武器を構える。

 だが。 その前へ、カゲツが静かに出た。

 構えは無い。 ただ立つ。 フォレストエイプが拳を振り上げる。

 轟音。 空気を裂きながら拳が落ちる。 だが次の瞬間。

「……え?」

 クルトが目を見開く。 止まっていた。

 巨大な腕を、カゲツが片手で受け止めている。

 地面が割れる。 風が吹き荒れる。 それでもカゲツは微動だにしない。 静かな目だった。

「随分と荒れているな」

 その声に、魔物が吠える。 さらに力を込める。

 だが動かない。 まるで山を殴っているようだった。 カゲツは小さく息を吐く。

「……苦しいのか」

 その瞬間。 カゲツの目が細くなる。 魔物の身体を流れる魔力。

 それが、酷く乱れていた。 何かに侵されている。 淀んでいる。

「これは……」

 カゲツが低く呟いた、その時。

 魔物が突然苦しみ始めた。

「ガァァァアア!!」

 暴れる。 絶叫。

 黒い魔力が身体から漏れ出していた。 クルトが顔を引き攣らせる。

「なんだあれ……!」

 カゲツは静かに魔物を見る。 そして理解した。

 森そのものが荒れている原因。

「……魔力汚染か」

 低い声。 その瞬間。 森の奥から、更に重い気配が流れてきた。

 空気が震える。 木々が揺れる。 クルトの顔色が変わる。

「おい……冗談だろ」

 フィナが震えた声を漏らす。

「まだ……いるんですか……?」

 カゲツは静かに森の奥を見つめる。 銀色の瞳が、僅かに細められた。

「……どうやら、本命は別にいるらしい」

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