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百年生きた剣鬼、希少長寿種に転生し、世界を観る  作者: ザナトス


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5話 冒険者ギルド

 翌日。

 カゲツはクルトたちに連れられ、街の中央区へ来ていた。

 朝の街は既に活気に満ちている。

 商人の声。 鍛冶屋の金属音。 行き交う人々。

 その全てを眺めながら、カゲツは静かに歩いていた。

「ここだ」

 クルトが立ち止まる。 目の前には、大きな建物があった。 石造りの二階建て。

 入口の上には、剣と盾を交差させた紋章。

「冒険者ギルドか」

「おう」

 クルトが頷く。

「ここで依頼受けたり、魔物討伐したりすんだよ」

「便利な場所だな」

「まぁな。荒っぽい奴も多いけど」

 扉を開ける。 瞬間、騒がしい空気が流れ込んできた。

 酒の匂い。 笑い声。 怒鳴り声。

 依頼書の貼られた掲示板の前には、多くの冒険者が集まっている。

 その中へ、カゲツが入った瞬間だった。 空気が止まる。

「……銀髪?」

「なんだあいつ」

「エルフか?」

 ざわめきが広がる。 カゲツは小さく息を吐いた。

「やはり目立つな」

「もう諦めろ」

 クルトが苦笑する。 受付の女性も、明らかに困惑した顔をしていた。 栗色の髪をした若い女性だった。

「え、えっと……ご用件は?」

「冒険者登録をしたい」

「……はい?」

 女性は目を瞬かせる。 どう見ても貴族か長命種。

 そんな存在が冒険者登録へ来るなど珍しいのだろう。

 だが仕事は仕事だ。 女性は慌てて姿勢を正した。

「し、失礼しました。登録ですね」

 机の上へ水晶板のようなものが置かれる。

「こちらに手を置いてください」

 カゲツは素直に従う。

 瞬間。 水晶が淡く光った。

 受付嬢が確認する。

「名前は?」

「カゲツ」

「年齢は?」

 少し考える。

「百を超えている」

「……え?」

「前の人生も含めればだが」

 受付嬢が固まる。 クルトが遠い目をした。

「気にすんな。こいつそういう奴だから」

「そ、そういう奴ってなんですか……?」

 受付嬢は混乱していた。 だがカゲツ本人は気にしていない。 やがて登録用紙を書き終え、受付嬢は小さく咳払いした。

「では最後に、簡単な実力確認を行います」

「実力確認?」

「はい。模擬戦のようなものです」

 カゲツは静かに頷く。

「構わない」

 そのまま、ギルド裏手の訓練場へ案内される。 既に何人かの冒険者たちが集まっていた。

「お、新人か?」

「随分綺麗な坊主だな」

「大丈夫かよ」

 そんな声が飛ぶ。 だがその中で、一人だけ眉を顰める男がいた。

 白髪交じりの壮年冒険者。 顔には大きな古傷。 長年戦ってきた空気がある。

 男は、カゲツを見た瞬間に理解していた。

 ――危険だ。

 若い見た目に騙されるな。 これは獣ではない。 もっと別の何かだ。

「では、こちらのギルド職員と軽く手合わせを」

 受付嬢の言葉と共に、一人の男が前へ出る。 筋肉質な男だった。 訓練用の木剣を肩へ乗せている。

「怪我すんなよ、坊主」

 軽い調子。 恐らく新人教育役なのだろう。 カゲツは木剣を受け取る。

 その感触に、少しだけ目を細めた。

「……軽いな」

「お?」

 男が笑う。

「まぁ遊びみたいなもんだ。気楽に来い」

 そして。 開始の合図。 男が踏み込む。 速い。

 普通の新人なら反応すらできない速度。

 だが。 カゲツには遅かった。 あまりにも。

 前世で見てきた剣は、こんなものではない。

 殺気も浅い。 間合いも甘い。 剣筋も見え見えだった。

 カゲツは静かに一歩踏み込む。

 最小動作。 木剣が僅かに動く。

 次の瞬間。

「……え?」

 男の木剣が宙を舞った。 乾いた音。 男の首元へ、カゲツの木剣が止まっている。

 静寂。 誰も理解できなかった。

 ただ一人。 先ほどの壮年冒険者だけが、青ざめていた。

「……無拍子」

 ぽつりと呟く。 予備動作が無い。 達人の領域。

 いや、それ以上。 訓練相手の男は汗を流していた。

「い、今の……」

 カゲツは木剣を下ろす。

「終わりか?」

 穏やかな声だった。 だがその場にいた全員が理解していた。

 この銀髪の青年は。 恐らく、ギルドの誰より強い。

 訓練場は静まり返っていた。 誰も動かない。

 いや、動けなかった。

 木剣を弾き飛ばされた男は、呆然とした顔のまま立ち尽くしている。

 首元へ突き付けられた木剣。 あと数寸深ければ、死んでいた。

「……終わりか?」

 カゲツが静かに問う。 穏やかな声だった。

 だが、それが余計に恐ろしかった。 男が喉を鳴らす。

「あ、ああ……」

 カゲツは木剣を下ろした。 その瞬間、訓練場にざわめきが戻る。

「なんだ今の……」

「見えなかったぞ……?」

「いや、速いとかそういう話じゃねぇ……」

 冒険者たちが顔を見合わせる。 そんな中。

 一人だけ、顔色を変えている男がいた。

 白髪交じりの壮年冒険者。 先ほど“無拍子”と呟いた男だ。

 男はカゲツを見ながら、小さく息を呑む。

 違和感があった。 剣だけではない。 空気そのものが違う。

 自然と周囲が静まる感覚。 息苦しいほど澄んだ魔力。

 そして――。

 風。 男は気付いていた。

 訓練場へ吹く風が、僅かにカゲツを中心に流れていることに。

「……まさか」

 嫌な汗が流れる。 その時だった。

「騒がしいな」

 低い声が響く。 ギルド奥から、一人の男が現れた。

 五十代ほど。 短い灰色の髪。 鍛えられた身体。 左目には古傷。

 その姿を見た瞬間、周囲の冒険者たちが姿勢を正す。

「支部長……!」

 ギルド支部長。 この街で最強クラスと言われる男だった。

 支部長は周囲を見渡し、やがてカゲツへ視線を向ける。

 そして。 一瞬だけ、目が細くなった。

「……ほう」

 空気が変わる。 強者同士だけが理解する感覚。

 支部長はゆっくりと訓練場へ降りてくる。

「新人か?」

「そうらしい」

 カゲツは穏やかに答えた。

 支部長は数秒だけカゲツを見つめ、それから訓練役の男を見る。

「お前が負けたのか」

「……はい」

 悔しそうな声だった。 支部長は小さく息を吐き、再びカゲツを見る。

「名前は」

「カゲツ」

「姓は?」

「今は無い」

 支部長は少しだけ眉を動かす。 妙な返答だった。

 だが、それ以上に気になることがある。

「……お前、人間じゃないな?」

 その言葉に、周囲が静まった。 クルトが目を見開く。

 フィナも息を呑む。 カゲツは少し考えた後、頷く。

「恐らく精霊族だ」

 その瞬間。 空気が凍った。

「――は?」

「精霊族?」

数百年、あるいは千年以上を生きる長命種。

 自然に愛される存在。 滅多に人前へ現れず、今では神話に近い種族。

 支部長は静かにカゲツを見つめていた。

「……いや」

 低く呟く。

「普通の精霊族でも、ここまでじゃない」

 その言葉に、空気が張り詰める。 支部長は理解していた。

 この銀髪の青年は異常だ。 底が見えない。

 まるで“時間”そのものから切り離されているような感覚。

「お前……どれほど生きる?」

 カゲツは少しだけ考えた。

「分からん」

 静かな返答。

「だが、老いはかなり遠いらしい」

 周囲が息を呑む。 支部長は小さく笑った。

「……とんでもない存在が来たものだ」

 だが。 カゲツ本人は不思議そうだった。

「そんなに珍しいのか?」

 その言葉に、支部長は呆れ混じりに笑う。

「珍しいなんてもんじゃない」

 そして静かに続けた。

「お前みたいなのは、“歴史の向こう側”にいる存在だ」

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