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百年生きた剣鬼、希少長寿種に転生し、世界を観る  作者: ザナトス


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49話 旅路

 その日の夕方。 空は赤く染まり始めていた。 一方。 カゲツは街道沿いを静かに歩いている。 風は冷たい。

 だが。 妙に静かだった。

「……静かすぎるな」

 ぽつりと呟く。 鳥の声が無い。 小動物の気配も薄い。 自然が息を潜めている。

 一方。 野兎も耳を立てていた。 警戒している。 その時だった。

 ――ズシン。

 地面が微かに揺れる。 一瞬。 カゲツの足が止まった。

「……大型か」

 低い声。 次の瞬間。 森奥で木々が大きく揺れた。 バキバキ、と枝が折れる音。 そして。 巨大な影が姿を現す。

「グォォォォ……!!」

 猪型魔物。 だが。 普通ではない。 全長は三メートルを超えていた。 牙も異常に長い。 身体には古傷が幾つも残っている。 長く生き残った大型種。 並の冒険者では相手にならない類だった。

 一方。 魔物は赤い目でカゲツを見る。 そして。 低く地面を削った。

「……街道まで出て来たか」

 最近の魔物増加。 冒険者たちの話。 どうやら噂は本当らしい。

 その時。 大型種が突進した。 速い。 巨体とは思えない速度だった。 地面が揺れる。 普通の人間なら回避すら難しい。

 だが。 カゲツは静かに木刀へ手を添える。

「……まだ、これでいい」

 次の瞬間。 カゲツの姿が消えた。

 ――ゴッッ!!

 鈍い衝撃音。 大型種の頭が大きく揺れる。 だが。 止まらない。

「グォォォ!!」

 再び突進。 一方。 カゲツは静かに距離を取る。 木刀。 軽装。 最低限の動き。 それだけで、大型種の突進を避けていた。

「……硬いな」

 普通の魔物とは違う。 骨も肉も厚い。 木刀だけでは少し足りない。 一瞬。 カゲツの視線が僅かに細くなる。

 そして。 大型種が三度目の突進を見せた瞬間。

「……仕方ない」

 静かな声。 空間が、僅かに揺れる。 次の瞬間。 カゲツの手には、黒鞘の長刀が握られていた。

 《夜凪》。

 一瞬だった。 大型種が、本能的に動きを止める。 空気が変わった。 静かに。 だが、確実に。 カゲツはゆっくり構える。 風が止む。 森が静まる。

 そして――。

 銀の刃が、夕暮れの光を静かに反射した。

 大型種との戦闘から、数日。 そして。 更に幾つもの街道と村を越え、時間が流れていた。 季節は、もう冬へ近い。 風は冷たい。 朝には霜が降りるようになっていた。

 一方。 カゲツは変わらず旅を続けている。 静かに。

 ゆっくりと。 時に小村へ立ち寄り。 時に街道脇で野営し。 また歩く。 そんな日々だった。

 途中、小さな山村もあった。 魔物被害に悩まされていた村だ。 カゲツは数日だけ滞在し、山へ出た大型狼を追い払った。 礼は断った。 だが。 帰り際、子供たちから干し肉を押し付けられた。

「持ってけ!」

「旅人だろ!」

「また来いよ!」

 一瞬。 カゲツは少しだけ目を細めた。

「……ああ」

 短く返す。 それだけだった。 だが。 子供たちは嬉しそうに笑っていた。 またある日は。 古い街道沿いで、帝国商隊ともすれ違った。

 重装の護衛。 見慣れない紋章。 異国の武器。 巨大な大陸には、まだ知らない国がいくらでもある。 そんな事を実感する時間だった。

 そして。 数週間後。 景色は、明らかに変わり始めていた。 森が深い。 空気が澄んでいる。 街道はまだある。

 だが。 人の手が入った気配が減っていた。 木々が大きい。 風の音すら静かだ。 一方。 野兎も、最近は妙に大人しい。 耳を立て、周囲を気にしている。

「……近いな」

 カゲツがぽつりと呟く。 今までとは違う。 空気そのものが変わり始めていた。 冷たいのに、不思議と嫌な感じが無い。 むしろ。 どこか懐かしい。

「……これが」

 精霊族の領域。 まだユグレシアではない。 だが。 確実に近付いている。 その時だった。 風が吹く。 静かな風。 木々が揺れ、葉が舞う。 一瞬。 カゲツはゆっくり空を見上げた。 森の奥。 遥か先。 まだ見えない。

 だが。 そこには確かに、“何か”があった。

 一方。 野兎が、小さくカゲツの足元へ寄る。 少し警戒しているようにも見える。

「……心配するな」

 カゲツが静かに歩き出す。

「まだ旅の途中だ」

 銀髪の精霊族は、静かな森の街道を進んでいく。 悠久の時へ近付くように。

森へ入ってから、更に数日。 街道は、半ば自然へ飲まれ始めていた。 草が深い。 石畳も途切れ途切れだ。

それでも。 かつて誰かが歩いた道だけは、確かに残っている。

 一方。 空気は今までより澄んでいた。 冷たい。 だが。 不思議と嫌な感じは無い。 鳥の声も少ない。 森そのものが静かだった。

 まるで。 何かを待っているように。

「……変わってきたな」

 カゲツがぽつりと呟く。 王国の街道とは違う。 人の気配が薄い。 代わりに、自然の存在感が強い。

 一方。 野兎も最近は妙に大人しい。 時折、森奥を気にするように耳を動かしていた。

「お前でも緊張するのか」

 返事は無い。 だが。 いつもより、カゲツの近くを離れない。 夕方頃。 カゲツは古い街道跡を見付けた。 崩れた石柱。 苔むした道標。 今はもう、誰も使っていないのだろう。

「……古道か」

 以前、巡回騎士が話していた道。 人が消えた街道。

 一方。 周囲の木々は、更に巨大になっていた。 普通の森ではない。 樹齢そのものが違う。 数百年。

 あるいは、それ以上か。 風が吹く。 葉が揺れる。

 だが。 妙に音が小さい。 静けさだけが、深くなっていく。 その時だった。

 ――ピタ。

 野兎が突然動きを止めた。 一瞬。 カゲツの目が細くなる。 気配。 だが。 魔物とは違う。 敵意が薄い。

 もっと静かで。 もっと深い。

「……?」

 カゲツはゆっくり視線を上げた。 森奥。 巨大な木々の隙間。 そこに。 白い何かが見えた。 一瞬だけ。 光を反射したように見える。

 鹿――にも見えた。

 だが。 普通の鹿ではない。 角が大きい。 身体も異様に大きかった。 そして何より。 存在感そのものが違う。

 一方。 その白い存在は、静かにこちらを見ていた。

 逃げない。 威嚇もしない。 ただ。 森の奥から、銀髪の精霊族を見ている。 静かな時間だった。 風が止む。 森が息を潜める。

 次の瞬間。 白い存在は、音も無く森奥へ消えた。 一瞬だった。 まるで幻のように。

「……今のは」

 カゲツが小さく呟く。 野兎は、まだ森奥を見ていた 耳を立てたまま。

 カゲツは静かに、その奥を見る。 確信があった。 この森は、もう普通ではない。

 そして。 自分は今、確かに“その領域”へ近付き始めているのだと。

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