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百年生きた剣鬼、希少長寿種に転生し、世界を観る  作者: ザナトス


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47話 続く街道

翌朝。 空は薄曇りだった。 朝露に濡れた草が、冷たい風に揺れている。

 一方。 カゲツは既に支度を終えていた。 焚き火の火は消えている。 荷も少ない。 長い旅に慣れた者の動きだった。

「……起きたか」

 足元を見る。 野兎が、もぞりと顔を上げた。 どうやら、まだ付いて来るつもりらしい。

「森へ戻らんのか」

 当然、返事は無い。 だが。 逃げる様子も無かった。 カゲツは小さく息を吐く。

「好きにしろ」

 すると。 何故か少しだけ嬉しそうに耳が動いた。

不思議な兎だった。 街道を歩く。 道はまだ広い。

 だが。 王都周辺ほど整備されてはいなかった。 石畳は減り、土道が増えている。 道端の草も深い。 使う人間が減っているのだろう。

 時折、荷馬車の跡だけが残っていた。

「……静かだな」

 ぽつりと呟く。 王都とは違う静けさだった。 人の声は少ない。 代わりに、風と草木の音がよく聞こえる。

 一方。 遠くには、小さな集落も見えた。 煙が上がっている。 旅人向けの小村かもしれない。 まだ、この辺りは王国圏だ。 人の道。 人の生活。 そういうものが、ちゃんと残っている。

 その時だった。 前方から、馬を走らせる音が近付いてくる。 数人。 軽装の騎士たちだった。 王国の巡回隊だろう。

「止まれ!」

 先頭の騎士が声を上げる。 だが。 カゲツを見るなり、少しだけ表情が変わった。

「……銀髪?」

 一瞬、 騎士たちが顔を見合わせる。 どうやら、王都の噂が少し広がっているらしい。

「旅人だ」

 カゲツが静かに言う。 すると。 年長の騎士が小さく息を吐いた。

「悪いな」

「最近、この辺りは魔物が増えてる」

「確認していた」

「帝国側の流れ者も増えてるんだ」

 騎士が周囲を警戒しながら続ける。

「街道外れには行くなよ」

「最近、古道側で行方不明者も出てる」

「古道?」

「ああ」

 騎士が森奥へ視線を向ける。

「昔使われてた街道だ」

「今はほとんど誰も通らん」

 一瞬。 カゲツはその方角を見る。 森はまだ遠い。

 だが。 確かに奥側は、少し暗く見えた。

「……そうか」

 短く返す。 すると。 若い騎士が、ふと野兎を見る。

「……懐かれてる?」

「らしい」

「何なんだあんた……」

 呆れた声だった。 一方。 カゲツは静かに空を見る。 果てなく続く街道。 遠くの村。 巡回騎士。 そして、まだ見ぬ土地。 この巨大な大陸には、知らない道がいくらでもある。

「……悪くない」

 ぽつりと呟く。 銀髪の精霊族は、静かな街道をゆっくり歩き続ける。 悠久にも似た旅路の中を。

 それから数日。 カゲツは街道を歩き続けていた。 途中、小さな村を幾つか通った。 畑を耕す人々。 干し草の匂い。 子供たちの笑い声。王都とは違う、静かな暮らし。

 だが。 街道は少しずつ変わってきていた。 草が深い。使われなくなった脇道も増えている。 巡回騎士の姿も減った。

「……遠くなったな」

 ぽつりと呟く。 王都を出て、既に数週間。 流石に景色も変わり始めている。

 一方。 野兎は相変わらず付いて来ていた。 もはや当然のように、カゲツの隣を跳ねている。

「お前、本当に戻らんな」

 耳だけがぴくりと動いた。 返事代わりらしい。 夕方頃。 街道沿いに、小さな宿場村が見えてきた。 石造りの井戸。 古びた柵。 十数軒ほどの家。 大きくはない。

 だが。 旅人の休憩地として使われているのだろう。 馬車が数台止まっていた。

「……今日はここか」

 カゲツが静かに呟く。 その時。

「お?」

 村入口で荷運びしていた男が、こちらを見る。

「旅人か!」

「ああ」

 短い返答。 すると男は――カゲツを見るなり、一瞬固まった。

「……すげぇな兄ちゃん」

「銀髪初めて見たぞ」

 素直な感想だった。 一方。 近くに居た子供たちが、野兎を見付ける。

「うさぎ!」

「かわいい!」

 一瞬。 野兎がカゲツの後ろへ隠れた。 カゲツは少しだけ目を細める。

「……お前、警戒はするんだな」

 すると。 子供たちは、今度はカゲツの腰を見る。

「わぁ……刀だ!」

「冒険者!?」

「騎士じゃないの!?」

 一気に囲まれた。 だが。 嫌な感じではない。 ただ純粋に珍しいのだろう。

 一方。 奥の宿から、年配の女性が顔を出す。

「こらこら!」

「旅人さん困ってるだろ!」

 子供たちが慌てて散る。 女性は小さく頭を下げた。

「悪いねぇ旅人さん」

「こんな辺境じゃ、珍しいもんでね」

「構わん」

 カゲツが静かに返す。 すると。 女性は少しだけ目を丸くした。

「……随分落ち着いた子だねぇ」

 一瞬。 カゲツは小さく空を見る。 見た目だけなら、まだ二十にも届かない。

 だが。 中身は百年を生きた剣士だ。

「宿は空いているか?」

「あぁ、もちろんさ」

「旅人も減ってきてるからねぇ」

 その言葉に、カゲツは周囲を見る。 確かに。 昔はもっと使われていたのだろう。 古い建物。 広めの厩舎。 今は静かな宿場村。

 だが。 かつてこの街道が栄えていた痕跡は、まだ残っていた。

「……変わっていくものだな」

 ぽつりと呟く。 すると。 年配の女性が少し笑う。

「旅人さんみたいに若いと、まだ分からないだろうけどねぇ」

 一瞬。 カゲツは何も言わなかった。 ただ静かに、夕暮れの村を見ていた。

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