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百年生きた剣鬼、希少長寿種に転生し、世界を観る  作者: ザナトス


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43話 夜凪の初陣

 《夜凪》完成から、数日後。 工房街には、まだ熱が残っていた。

「聞いたか?」

「銀髪の刀、完成したらしいぞ」

「すげぇ音だったって話だ」

 職人たちが騒いでいる。 今や《夜凪》の話は、工房街だけではない。 王都中へ広がり始めていた。

 銀髪の精霊族。 王都へ現れた旅人。 木刀で災害指定候補を討った剣士。

 そして。 “夜凪”を打った存在。 噂は少しずつ、王都の中へ根付いていた。

 一方。 工房奥では、カゲツが静かに夜凪を見ていた。

 黒い鞘。 美しい反り。 淡い銀色の刃。 静かな刀だった。 だが。 触れるだけで分かる。 そこには確かに、“何か”が宿っている。

「……馴染むな」

 ぽつりと呟く。 夜凪は静かなままだ。 だが。 握っていると、不思議と落ち着く。 長い時間を共にしたような感覚すらある。

「本当に妙な刀だな、それ」

 ドグランが苦笑する。

「そうかもしれんな」

「お前も大概妙だがな」

 職人たちが笑う。 穏やかな空気だった。 その日の夕方。 カゲツは、久しぶりに王都を歩いていた。

 工房街。 中央通り。 噴水広場。 王城へ続く白い道。 王都アルヴェリア。 一年以上過ごした街。 最初は、ただ立ち寄るだけのつもりだった。

 だが。 気付けば、長く居た。

「……長かったな」

 ぽつりと呟く。 前世を含めれば、短い時間かもしれない。 だが。 不思議と濃い時間だった。 その時。

「カゲツ殿!」

 聞き慣れた声。 エルミナだった。 少し息を切らしている。

「探しましたよ」

「そうか?」

「そうです」

 即答だった。 少しだけ笑う。 以前より、随分自然に話せるようになっていた。

「……綺麗ですね」

 エルミナが夜凪を見る。 夕日を反射する銀の刃。 静かで。 どこか神秘的だった。

「貴方らしい刀です」

「そうかもしれんな」

 カゲツが静かに返す。 一瞬。 周囲の喧騒が遠く感じた。 王都の音。 人の声。 馬車の音。 その中で、夜凪だけが静かだった。

「最近、変わりましたね」

 エルミナが小さく言う。

「何がだ?」

「雰囲気です」

 少し考えるように、エルミナが続ける。

「前はもっと、“一人”って感じでした」

「今は……」

 言葉を探すように視線を上げる。

「ちゃんと、この街に居た感じがします」

 一瞬。 カゲツは静かに王都を見る。 工房街。 長命種街区。 王城。 ギルド。 色々な場所を歩いた。 色々な人と出会った。

 そして。 少しだけ、自分も変わった気がする。

「……悪くない街だった」

 静かな返答。 エルミナが嬉しそうに笑う。

 その時。 通りを抜ける風が、二人の髪を僅かに揺らした。 ただ、それだけだった。 だが不思議と。

 王都アルヴェリアそのものが、静かに寄り添っているように感じられた。

 王都冒険者ギルド。 昼時だというのに、内部は妙に静かだった。

「……来たぞ」

「銀髪だ」

「例の刀持ってる……」

 冒険者たちの視線が、一斉に入口へ集まる。

 一方。 カゲツはいつも通りだった。 黒い鞘。 腰へ差された《夜凪》。

 ただ、それだけ。 だが。 以前とは空気が違う。 刀を持っているだけなのに、どこか空気が澄んで感じられた。

「……カゲツさん」

 受付のリュシエルが、小さく息を吐く。

「目立ってますよ」

「そうか?」

「そうです」

 即答だった。 一瞬。 周囲の冒険者たちが苦笑する。 もう見慣れたやり取りだった。

「依頼を受けたい」

 カゲツが静かに言う。

「旅立つ前に、一つだけ」

 その言葉に、リュシエルの表情が少し変わる。

「……もう出られるんですね」

「ああ」

 短い返答。 だが。 どこか穏やかな声だった。 リュシエルは数秒黙り――やがて一枚の依頼書を差し出す。

「変異種討伐です」

「王都北西の森」

「最近、上位種が縄張りを作り始めています」

「そうか」

「……貴方なら問題無いでしょうけど」

 最後だけ、小さく苦笑した。 カゲツは依頼書を見る。 危険度は高め。 普通なら、複数パーティ推奨。

 だが。 今の彼には丁度良かった。

「これでいい」

 静かな返答。 その時。 近くの冒険者が、小さく呟く。

「……あの銀髪、本当に刀抜くのか?」

「今まで木刀だったよな」

「初めて見るかもしれん」

 一瞬。 ギルドの空気が変わる。 皆、少し緊張していた。 銀髪の精霊族。 王都で名を上げた旅人。

 だが。 本気で刀を使う姿を見た者は、ほとんどいない。

 一方。 カゲツは静かに夜凪へ触れる。 不思議と落ち着いていた。 まるで、ずっと前から握っていたように。

「……馴染むな」

 ぽつりと呟く。 リュシエルが小さく目を細めた。

「気を付けてください」

「ああ」

 短く頷く。 そして。 銀髪の精霊族は、静かにギルドを後にした。 王都北西の森。 そこは昼だというのに薄暗かった。 木々が深い。 空気も重い。 そして。 奥から、低い唸り声が響く。

「グルルル……」

 変異種。 通常種より一回り大きい狼型魔物。 黒灰色の体毛。 鋭い牙。 周囲には、既に何体かの死骸が転がっている。 縄張り争いだろう。

 一方。 カゲツは静かに立っていた。 夜凪へ手を添える。 その瞬間。 森の空気が、僅かに静まった。 魔物が低く唸る。

 だが。 本能的に理解してしまっていた。 目の前の存在が、危険だと。

「……さて」

 カゲツが静かに呟く。

「少し試すか」

 そして。 ゆっくりと、《夜凪》を抜いた。

 シャ――……。

 静かな抜刀音。 一瞬。 森の音が遠くなる。 風は吹かない。 だが。 空気そのものが澄んだようだった。

「……っ」

 変異種が後退る。 本能的な恐怖。 夜凪の銀刃が、静かに陽光を反射していた。

 一方。 カゲツは刃を見る。 軽い。 自然だ。 振るうというより、“流れる”。

「……なるほど」

 ぽつりと呟く。 次の瞬間。 カゲツの姿が消えた。 そして。 銀の軌跡が、一閃。

 ズァッ――。

 静かな斬撃。 変異種の首が、遅れて落ちた。 血飛沫すら少ない。 綺麗すぎる一太刀だった。 森が静まり返る。

 一方。 カゲツは静かに夜凪を見ていた。 刃には、一滴の血も残っていない。

「……静かな刀だ」

 その声音は、どこか満足そうだった。

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