表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百年生きた剣鬼、希少長寿種に転生し、世界を観る  作者: ザナトス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/52

42話 夜凪

 《夜凪》。 その名が付いてから。 刀は、更に変わり始めていた。

「……まただ」

 若い職人が息を呑む。 工房の中央。 炉の熱。 赤い火。 その中で、細長い刃が静かに熱されている。

 だが。 以前とは空気が違う。 刃の周囲へ、淡い風が流れていた。 まるで呼吸するように。

「普通、刀って風纏うのか……?」

「知らねぇよ……」

 職人たちが困惑している。

 一方。 ドグランだけは、静かに目を細めていた。

「……馴染んできやがったな」

 低い声。 カゲツは何も言わず、刃を見ている。 夜凪。 まだ完成ではない。

 だが。 確実に、“ただの刀”ではなくなっていた。 槌を振るう。

 キィン――。

 澄んだ音。 その瞬間。 ふわり、と風が吹く。 火が揺れる。 だが暴れない。 むしろ、美しく整っていく。 火と風が、自然に共存していた。

「……精霊族って、みんなこうなのか?」

 職人の一人が呟く。

「知らねぇ」

「だが、銀髪だけだろこれは」

 周囲が頷く。 一方。 カゲツは静かに刃へ触れる。

 熱い。 だが。 どこか懐かしい。 前世で握っていた長刀。 戦場で共にあった時間。 その感覚を思い出していた。

「……似てきたな」

 ぽつりと呟く。

「前の刀か?」

 ドグランが聞く。

「ああ」

 静かな返答。

「だが、違う」

「ほう?」

 カゲツは少しだけ目を細める。

「前より、静かだ」

 一瞬。 工房が静まり返る。 その言葉が、不思議と全員へ落ちた。 前世では、戦いのための刃だった。

 だが今は違う。 風。 火。 世界。 色々なものを受け入れた上で、そこにある刃。

「……変わったな、お前」

 ドグランが低く笑う。

「そうか?」

「ああ」

 槌を肩へ担ぐ。

「最初は、もっと尖ってやがった」

 一瞬。 カゲツは何も言わない。 否定はしなかった。 確かに。 前世を引きずっていた部分はある。

 だが。 王都で過ごした時間。 工房街。エルミナ。

 リュシエル。 長命種街区。 森奥の民。 それらが、少しずつ自分を変えていた。

 その時だった。 ふわり、と暖かな風が吹く。 そして。 夜凪の刃へ、淡い銀光が流れた。

「……っ」

 職人たちが息を呑む。

 キィン――。

 刃が、小さく鳴く。 まるで。 その言葉へ応えるようだった。

「はは……」

 ドグランが笑う。

「気に入られてんじゃねぇか」

 一方。 カゲツは静かに夜凪を見る。

 そして。 ほんの少しだけ、穏やかに笑った。

「……そうかもしれんな」

 王都アルヴェリア。 冬へ近付き始めた頃。 工房街では、ある空気が流れていた。

「……近いな」

 誰かが呟く。職人たちが、皆同じ方向を見ている。工房の中央。 炉の前。 そこに、銀髪の精霊族が座っていた。 カゲツ。 そして。 その手には、《夜凪》がある。

 まだ完全ではない。 だが。 誰の目にも分かる。 完成が近い。

「坊主」

 ドグランが低く声を掛ける。

「今日だな」

 カゲツは静かに刃を見る。 淡い銀色。 細く、美しい反り。 そして。 触れなくても分かるほど、澄んだ空気。

「ああ」

 短い返答。 その瞬間。 ふわり、と暖かな風が吹いた。 工房街の火が、一斉に揺れる。

「……おい」

「また風だ」

「しかも今日は強ぇ」

 職人たちがざわつく。 一方。 カゲツは静かに夜凪を炉へ入れる。 赤い炎。 熱。 火花。 だが。 今日は違った。 炎が、まるで夜凪を包むように揺れている。

 暴れない。 拒まない。 自然に馴染んでいる。

「……っ」

 ドグランが目を細める。

「火まで受け入れてやがる」

 その時だった。 工房の外で、木々が揺れる。

 風が吹く。 葉が舞う。 まるで。 工房街全体が静かに呼吸しているようだった。

「なんなんだ今日……」

 若い職人が呟く。

一方。 カゲツは静かに夜凪を取り出す。 赤熱した刃。

 そして、 槌を振り下ろした。

 キィィン――。

 澄んだ音が響く。 その瞬間。 暖かな風が、一気に吹き抜けた。

「っ――!」

 職人たちが目を見開く。 火が揺れる。 葉が舞う。 空気が澄む。

 そして。 夜凪へ、淡い銀光が流れた。 まるで月光のような、美しい光だった。

「……綺麗だ」

 誰かが、小さく呟く。 その声に、誰も返さない。 返せなかった。 皆、見入っていた。 ただの刀ではない。 長い時間。 火。 鉄。 風。 そして。 銀髪の精霊族、そのものを積み重ねた刃。 それが今、生まれようとしている。

 一方。 カゲツは静かに夜凪を見つめていた。 前世で振るった長刀とは違う。

 だが。 確かに、自分の刃だった。 戦いだけではない。 穏やかな時間。 人との繋がり。 世界との調和。 そういうものまで宿っている。

「……夜凪」

 ぽつりと、その名を呼ぶ。 その瞬間。 ふわり、と風が吹いた。 暖かな風だった。

 そして。 夜凪が、小さく鳴る。

 キィン――。

 まるで。 その名へ応えるように。

「……完成だな」

 ドグランが低く笑う。 一瞬。 工房街が静まり返る。 そして次の瞬間。

「おおおおおっ!!」

 職人たちの歓声が響いた。 火が揺れる。 風が流れる。 夜の工房街。 その中心で。

 《夜凪》は、静かに生まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ