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百年生きた剣鬼、希少長寿種に転生し、世界を観る  作者: ザナトス


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40話 森奥の使者

 工房街の空気が、静かに張り詰めていた。 深い緑色の外套。 自然色の装束。 王都のハイエルフたちとは、明らかに違う。

 もっと静かで。 もっと深い。 まるで森そのものが歩いてきたような空気だった。

「……森奥の民だ」

 長命種街区のハイエルフが、小さく呟く。 その声には緊張が混ざっていた。

 一方。 工房街の職人たちは困惑している。

「なんだあいつら?」

「エルフか?」

「いや……なんか怖ぇぞ」

 無理もない。 彼らは、王都の長命種とは空気が違った。

 自然へ溶け込み過ぎている。 まるで“森の外”へ出てくること自体が珍しい存在。 その先頭。 一人の女性が、真っ直ぐカゲツを見ていた。

 長い銀緑色の髪。 透き通るような白い肌。 深い翡翠色の瞳。 美しい。 だが同時に、人離れした静けさがあった。

「――見つけた」

 小さな呟き。 その瞬間。 ふわり、と暖かな風が吹く。

 工房街の火が、小さく揺れた。 周囲が息を呑む。

 一方。 カゲツは静かに女性を見ていた。 不思議だった。 初めて会う。

 だが。 どこか懐かしい空気を感じる。

「……誰だ?」

 カゲツが静かに聞く。 すると女性は、一歩前へ出た。 その動きは静かだった。 足音すらほとんど無い。

「私はセレス」

 澄んだ声。

「森奥の里より参りました」

 一瞬。 周囲がざわつく。

「里……?」

「本当にあったのか……」

 王都側のハイエルフたちまで驚いていた。 森奥の里。

 それは長命種の間ですら、半ば伝承に近い存在だった。 滅多に外へ出ない。 人族との接触も少ない。

 “本来の森の民”。

 それが、今ここへ来ている。

「……随分遠くから来たな」

 カゲツが静かに言う。

「はい」

 セレスが頷く。

「貴方の噂を聞きました」

 風が吹く。 暖かな風だった。 その瞬間。 セレスの表情が、ほんの少し揺れる。

「やはり……」

 震えるような声。

「本当に、世界が寄り添っている」

 周囲が静まり返る。 王都のハイエルフたちも、緊張した顔で見ていた。

 一方。 カゲツは少しだけ首を傾げる。

「そう見えるのか?」

「見えます」

 即答だった。

「森では、もっと鮮明でしょう」

 一瞬。 空気が変わる。 森。 その言葉へ、カゲツが僅かに反応した。 セレスは静かに続ける。

「長老方が、貴方へ会いたがっています」

「俺に?」

「はい」

 翡翠色の瞳が、真っ直ぐカゲツを見る。

「精霊族の方」

 一瞬。 工房街が静まり返った。 王都では既に噂になっている。

 だが。 こうして真正面から、“精霊族”と呼ぶ者は少ない。

 しかも。 森奥の民が。

「……そうか」

 カゲツは静かに返す。 否定はしない。 もう、それが自然だった。

 その瞬間。 ふわり、と風が吹く。 暖かな風。 火が揺れる。 木々がざわめく。

 セレスが、小さく目を伏せた。 まるで祈るように。

「……やっと、見つけられた」

 その声は、とても静かだった。

 工房街には、静かな緊張が残っていた。

 森奥の民。 ユグレシア。 世界樹を抱くと言われる、古き里。 その使者が、今この場にいる。

 一方。 カゲツは静かにセレスを見ていた。

「……ユグレシア、か」

 小さく呟く。 不思議と、嫌な響きではなかった。

 むしろ。 どこか懐かしいような感覚すらある。

「はい」

 セレスが静かに頷く。

「我らの里です」

 その声は穏やかだった。 だが。 翡翠色の瞳だけは、真っ直ぐカゲツを見ている。

「長老方も、貴方へお会いしたがっています」

 風が吹く。 暖かな風だった。 工房街の火が、小さく揺れる。 職人たちは黙ってその光景を見ていた。 最近では慣れ始めている。

 だが。 今日は少し違った。 森奥の民ですら、この銀髪の旅人へ特別な反応を示している。

「なら、行くのか?」

 ドグランが不意に聞いた。

 一瞬。 工房街が静まる。 皆、カゲツを見ていた。

 一方。 カゲツは、ゆっくり炉を見る。

 赤い火。 熱。 鉄。 そして。 打ちかけの鋼。

「……いや」

 静かな返答。

「まだだ」

 その瞬間。 セレスの目が、少しだけ細められる。 驚きではない。 どこか納得したような空気だった。

「理由を、お聞きしても?」

「まだ途中だ」

 カゲツが静かに鋼を見る。

「火も」

「鉄も」

「刀も」

「まだ完成していない」

 工房街が静まり返る。 ドグランが、低く笑った。

「はっ」

「やっとそれっぽい顔になってきやがった」

 職人たちも小さく笑う。 半年以上。 火を見続けた。 鉄を打ち続けた。 その時間を、皆知っている。

「……そうですか」

 セレスが小さく目を伏せる。 だが。 その表情に失望は無い。

「まだ、その時ではないのですね」

「ああ」

 短い返答。 その瞬間。 ふわり、と風が吹く。 暖かな風だった。 まるで。 世界そのものが、その答えへ頷いているようだった。

「ならば、お待ちします」

 セレスが静かに言う。

「ユグレシアは、長命種の里です」

「時を待つことには慣れています」

 一瞬。 工房街の職人たちが苦笑する。

「長命種ってやつはこれだからな……」

「半年一年が一瞬みてぇな顔しやがる」

「お前らも似たようなもんだろ」

 騒がしい。 だが。 不思議と穏やかな空気だった。

 一方。 カゲツは静かに火を見る。 まだ完成していない。 だが。 確実に近付いている。

 人として積み重ねた剣。 精霊族として馴染み始めた力。 その両方を宿す刀へ。

「……もう少しだな」

 ぽつりと呟く。 すると。 炉の火が、静かに揺れた。 まるで応えるように。

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