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百年生きた剣鬼、希少長寿種に転生し、世界を観る  作者: ザナトス


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36話 王女の願い

 謁見の間には、まだ静かな空気が残っていた。

 暖かな風。 あの不思議な感覚。 誰も言葉に出来ないまま、騎士たちは僅かに動揺している。

 一方。 カゲツはいつも通りだった。 まるで何事も無かったかのように、静かに立っている。 その姿が、逆に異質だった。

「……精霊族とは、皆そうなのか」

 王がぽつりと呟く。 カゲツは少しだけ考えた。

「知らん」

「知らん?」

「俺は、一度も同族へ会ったことがない」

 その返答に、謁見の間が静まり返る。 騎士たちが目を見開く。 重臣たちも言葉を失っていた。 伝説級種族。

 世界でも滅多に確認されない精霊族。 その本人ですら、同族を見たことがない。 それほどまでに希少なのだ。

「……なるほど」

 王が静かに頷く。 その目が、ほんの少し柔らかくなった。 目の前の存在は、確かに異質だ。 だが同時に。

 どこか孤独にも見えた。

「カゲツ殿」

 不意に、エルミナが口を開く。 真っ直ぐな視線。

「貴方は、これからも王都へ滞在されるのですか?」

「そのつもりだ」

「工房街へ?」

「ああ」

 短いやり取り。 だが。 エルミナは少しだけ嬉しそうだった。

「でしたら」

 一瞬。 王女ではなく、“少女”の顔になる。

「また、お話を聞かせてください」

 静かな願いだった。 騎士たちが少し驚いた顔をする。

 だが。 王は止めなかった。 むしろ静かに見守っている。

 一方。 カゲツは少しだけ目を細める。

「変わった話は無いぞ」

「それでもです」

 エルミナが小さく笑う。

「貴方の話は、不思議と落ち着きます」

 その瞬間。 ふわり、と風が吹く。 今度は、とても穏やかな風だった。 エルミナの金髪が揺れる。

 窓際の花も、小さく揺れた。 騎士たちが再び息を呑む。

 やはり。 この精霊族の周囲では、空気そのものが違う。

「……歓迎されているのかもしれんな」

 カゲツがぽつりと呟く。

「何に、ですか?」

 エルミナが聞く。 カゲツは少しだけ空を見る。

「世界に」

 静かな返答。 一瞬。 誰も言葉を返せなかった。 重い言葉ではない。 だが不思議と、その場へ自然に落ちた。 王がゆっくりと息を吐く。

「……なるほどな」

 低い声。

「精霊族とは、そういう存在か」

 畏れは、まだある。 警戒も消えてはいない。

 だが。 それ以上に。 王は理解し始めていた。

 目の前の銀髪の旅人は、“国を脅かす存在”ではない。 むしろ。 この世界そのものへ愛されているような存在なのだと。

「カゲツ殿」

 王が静かに言う。

「アルヴェリア王国は、貴殿を歓迎しよう」

 その瞬間。 暖かな風が、再び謁見の間を抜けた。

 まるで。 その言葉を、世界そのものが祝福したように。

 謁見を終えた後。 カゲツは王城内の庭園へ案内されていた。

「こちらで少々お待ちを、とのことです」

 案内騎士が一礼する。

「そうか」

 短い返答。 騎士は少し苦笑した。 最後まで、この精霊族は変わらない。 王の前でも。 騎士団長の前でも。

 自然体だった。 騎士が去る。 静かな庭園に、風だけが流れていた。

 白い石畳。 澄んだ池。 色鮮やかな花々。

 王城の喧騒が嘘のような場所だった。

「……良い場所だな」

 ぽつりと呟く。 すると。 ふわり、と風が吹く。

 花弁が揺れた。 まるで返事をするようだった。 カゲツは少しだけ目を細める。 最近、この感覚が増えている。

 風。 森。 空気。 世界そのものが、以前より近い。

 精霊族としての感覚。

 それを少しずつ受け入れ始めているからなのかもしれない。

「やっぱり、ここにいました」

 後ろから声。 振り返ると、エルミナだった。 今度は王女としてではない。 少し軽い服装へ変わっている。

「また来たのか」

「私の城です」

「それもそうだな」

 エルミナが小さく笑う。

 そして。 カゲツの隣へ並ぶ。

「……今日は驚きました」

「何がだ」

「全部です」

 即答だった。

「森の件も」

「風も」

「それに……」

 一瞬。 エルミナが空を見る。

「本当に精霊族だったことも」

 風が吹く。 柔らかな風だった。

「不思議です」

 エルミナが小さく呟く。

「怖いとは、あまり思わないんです」

 普通なら違う。 伝説級種族。 木刀で災害指定候補を討つ存在。 本来なら、もっと恐れる。

 だが。 カゲツの周囲にいると、不思議と落ち着く。

「……変わっているな」

 カゲツが言う。

「貴方ほどではありません」

 少しだけ笑い合う。 穏やかな時間だった。

 その時。 池の水面が揺れる。 風も無いのに。 花弁がふわりと浮かび、カゲツの周囲を流れていく。

 エルミナが目を見開いた。

「……また」

 一方。 カゲツは静かに花弁を見る。 嫌ではない。 むしろ、自然だった。 まるで。

 世界そのものが、自分を受け入れ始めているような感覚。

「……貴方は」

 エルミナが小さく呟く。

「本当に、“世界に愛されている”みたいですね」

 その言葉に。 カゲツは少しだけ目を細める。 前世では考えられなかった。 戦場を生き。 剣を振るい。 人として生きた時間。 だが今は違う。 精霊族として、この世界に立っている。

「……どうだろうな」

 静かな返答。 だが。 否定する気にはならなかった。

 その時だった。 遠くから、慌てた足音が響く。

「エルミナ殿下!」

 騎士だった。 息を切らしている。

「どうした」

 エルミナが王女の顔へ戻る。 騎士は一瞬迷い――そしてカゲツを見る。

「長命種街区で騒ぎが……!」

 空気が変わる。

「何があった」

 エルミナの声が低くなる。 騎士が息を整え、言った。

「ハイエルフの長老方が、“精霊族が現れた”と騒ぎ始めています」

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