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百年生きた剣鬼、希少長寿種に転生し、世界を観る  作者: ザナトス


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30/56

30話 旅の終わり、旅の始まり

 翌朝。

 王都アルヴェリアは、まだ朝靄に包まれていた。 石畳は少し湿っている。 空気も冷たい。

 そんな中。 宿の前では、商隊の準備が進んでいた。

「よし、積み込み終わり!」

「馬の確認もしろー!」

 商人たちの声が飛ぶ。 ローヴェン行き護衛依頼。 クルトたちは、その護衛として参加する。

「ほんとに帰るんだなぁ……」

 クルトが伸びをしながら呟く。

「昨日まで王都来たばっかって感じだったのに」

「旅ってそんなものだ」

 バルクが低く返した。 一方。 少し離れた場所で、カゲツは静かにその光景を見ていた。 銀髪が朝風に揺れる。

 木刀を腰へ差したまま、ただ静かに立っている。

「……やっぱ絵になるな」

 ルークがぼそっと言った。

「なんか旅人って感じする」

「実際旅人だろ」

「まぁそうなんだけどよ」

 クルトが苦笑する。

 その時。 フィナが小さく前へ出た。

「カゲツさん」

「なんだ」

「身体、気を付けてくださいね」

「お前たちもな」

 短い言葉。 だが、それで十分だった。 クルトが笑う。

「次会う時、絶対驚かせるからな!」

「ああ」

「今度は俺が守る側だ」

「期待している」

 静かな返答。 クルトは少し照れ臭そうに笑った。 ルークが肩を竦める。

「まぁ、お前の場合、数年後でも見た目変わってなさそうだけどな」

「否定できねぇの怖ぇよな……」

 クルトが苦笑する。 だが。 その空気は重くなかった。

 少し寂しい。 でも嫌ではない。 そんな別れだった。

 その時。

「出発するぞー!」

 商隊長の声が響く。 いよいよ出発だ。 クルトたちは荷馬車側へ向かう。 だが途中で、クルトが振り返った。

「カゲツ!」

「なんだ」

「王都、ちゃんと楽しめよ!」

 一瞬。 カゲツが少しだけ目を細める。

 そして。

「ああ」

 静かに頷いた。

「お前たちも、良い旅を」

 朝風が吹く。 荷馬車が動き出す。 馬の足音。 車輪の音。 クルトたちは手を振っていた。 フィナも、小さく笑いながら頭を下げる。

 やがて。 商隊はゆっくり遠ざかっていく。 王都の門へ向かって。 ローヴェンへの帰路へ。

 カゲツは、その姿が見えなくなるまで静かに見送っていた。

「……行きましたね」

 隣から声。 リュシエルだった。 いつの間に来ていたのか。

「見送りか」

「はい」

 リュシエルは静かに商隊の去った道を見る。

「良い仲間だったのですね」

 カゲツは少しだけ考える。 クルト。 フィナ。 バルク。 ルーク。 騒がしくて。 若くて。

 だが真っ直ぐだった。

「ああ」

 穏やかな返答。

「良い旅だった」

 その言葉に、リュシエルは静かに目を細めた。

 商隊が見えなくなってからも。カゲツはしばらく、その道を眺めていた。

 朝の風が吹く。 王都アルヴェリアは、少しずつ目を覚まし始めていた。 商人の声。 馬車の音。 遠くの鐘。 賑わいが戻っていく。

「……静かになりましたね」

 リュシエルが小さく呟く。

「ああ」

 短い返答。 ローヴェンを出てから、ずっと誰かがいた。 クルトたちの騒がしい声。 フィナの穏やかな空気。 バルクとルークの呆れた顔。 それが急に無くなると、不思議と静かだった。

「寂しいですか?」

 リュシエルが静かに聞く。 カゲツは少しだけ考える。 そして。

「少しな」

 穏やかな返答。 リュシエルは、その答えに少しだけ安心した。 この精霊族は、ちゃんと人との時間を大切にしている。 そう感じたからだ。

「だが」

 カゲツは静かに空を見る。

「悪くない」

「?」

「旅は、そういうものだ」

 出会い。 別れ。 また歩く。 それを繰り返してきた。 前世でも。 転生してからも。 だからこそ、分かる。

 別れは終わりではない。

「……長命種らしい考えですね」

 リュシエルが少し笑う。

「そうか?」

「はい」

 静かな返答。 その時だった。

「おい、坊主!」

 遠くから大声が響く。 振り返ると。 工房街側から、ドグランが歩いてきていた。 相変わらず巨大だ。 朝から煤まみれである。

「ドグランか」

「なんじゃその反応は」

 ドグランが鼻を鳴らす。

「もう少し驚かんか」

「朝から元気だな」

「鍛冶師は朝が早ぇんだよ」

 そのままドグランは近付いてきた。

 そして。 じろり、とリュシエルを見る。

「長耳のお嬢まで一緒か」

「リュシエルです」

「知っとる」

 ぶっきらぼうだった。 だが悪意は無い。 リュシエルも慣れているらしい。

「で、何の用だ」

 カゲツが聞く。 するとドグランは、不敵に笑った。

「坊主」

「なんだ」

「刀、打ってみる気はあるか?」

 一瞬。 空気が止まった。 リュシエルが目を瞬かせる。 カゲツは静かにドグランを見る。

「……自分でか?」

「ああ」

 ドグランが腕を組む。

「前に言ったろ」

 低い声。

「良い刀には、“振るう者の時間”が要る」

 朝風が吹く。 工房街の方から、遠く槌音が響いていた。 カゲツは少しだけ目を細める。 前世で握っていた長刀。 最後まで共にあった剣。 それを――自分の手で、もう一度。

「……面白そうだ」

 ぽつりと呟く。 その瞬間。 ドグランが低く笑った。

「くく……」

「やっぱりお前、鍛冶師向きだな坊主」

 王都アルヴェリア。 旅人の新しい時間が、静かに動き始めていた。

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