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百年生きた剣鬼、希少長寿種に転生し、世界を観る  作者: ザナトス


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22話 王都冒険者ギルド

 王都冒険者ギルド。

その空気は、ローヴェンとは全く違っていた。冒険者たちの質が高い。

 纏う気配も重い。 実力者が多いのだろう。

「うわ、絶対強ぇ奴いるぞここ……」

 クルトが小声で呟く。

「当たり前だ」

 バルクが苦笑した。

「王都だからな」

 一方。 受付側では、まだ僅かなざわめきが残っていた。

 理由は一つ。 銀髪の青年。

 そして。 その青年を見て固まっているハイエルフの受付嬢だった。

「リュシエルさん?」

 隣の受付嬢が困惑した声を出す。

 だが。 リュシエルは返事をしない。 ただ静かに、カゲツを見ていた。 その瞳には困惑が混じっている。

「……そんなはず」

 小さな呟き。 普通の人間ではない。 それは分かる。

 だが。 まさか。 そんな存在が、今の時代にいるはずがない。 リュシエルは長命種だった。

 ハイエルフ。 数百年を生きる種族。

 だからこそ、“古い気配”へ敏感だった。

 そして。 目の前の青年から感じるものは、異常だった。

 深すぎる。 静かすぎる。 まるで、長い時を生きた森そのもののような気配。

「リュシエル」

 低い声が飛ぶ。

「仕事中だ」

「……失礼しました」

 ギルド職員の声で、リュシエルは我へ返る。 すぐに表情を整えた。 流石に優秀らしい。

 だが視線だけは、まだ僅かにカゲツへ向いていた。

 一方。 本人は全く気付いていない。

「依頼達成報告だ」

 バルクが受付へ書類を置く。 リュシエルはそれを受け取った。

「ローヴェン商会護衛依頼……確認しました」

 声は落ち着いている。

 だが。 書類を見る手が、ほんの少しだけ止まった。

「黒牙猪異常個体討伐……?」

 更に頁をめくる。

「山主級異常個体鎮圧……?」

 受付嬢たちがざわつく。

「山主!?」

「嘘でしょ……?」

 王都でも簡単な相手ではない。 しかも護衛依頼中に連続発生。 異常事態だった。

「誰が討伐を?」

 リュシエルが静かに尋ねる。

 その瞬間。 周囲の視線が、一斉にカゲツへ向いた。

「……彼だ」

 バルクが苦笑する。

「木刀でな」

 一瞬。 沈黙。 そして。

「は?」

 受付嬢たちの顔が固まった。 クルトが吹き出す。

「その反応になるよな」

「木刀……?」

「嘘ですよね?」

「本当だ」

 ルークが真顔で頷く。

「俺らも意味分からなかった」

 ざわめきが広がる。

 だが。 リュシエルだけは笑わなかった。 むしろ逆だった。 その青い瞳が、静かに細められる。

「……木刀」

 ぽつりと呟く。 まるで何かを考えるように。

 そして。 ゆっくりカゲツを見る。

「お名前を伺っても?」

「カゲツ」

「正式なお名前は」

 一瞬だけ空気が止まる。 カゲツは普通に答えた。

「橘景継」

 和名。 この世界では珍しい響きだった。 リュシエルの瞳が僅かに揺れる。

「……古い名ですね」

「そうかもしれんな」

「東方系統の響きに近いです」

 リュシエルは静かに言う。

「ですが、今はカゲツと?」

「ああ」

 カゲツは窓の外を見る。

「その名も自分だ」

 ぽつりと呟く。

「だが、今はカゲツとして生きている」

 穏やかな声だった。 過去を否定している訳ではない。

 だが今は、新しい生を歩いている。 そんな響きがあった。

 リュシエルは数秒だけ黙る。 そして小さく頭を下げた。

「失礼しました」

 その態度は、先程より明らかに丁寧だった。

「では、カゲツさん」

「好きに呼べ」

 静かな返答。 その時。

「リュシエルさーん!」

 別の受付嬢が慌てて呼ぶ。

「応援お願いしまーす!」

「……今行きます」

 リュシエルは小さく息を吐く。 そして最後にもう一度だけカゲツを見る。

「後ほど、少しお話を伺っても?」

「構わん」

 カゲツは普通に答えた。

 だが。 クルトはそのやり取りを見ながら、小さく呟く。

「……なんか、目ぇ怖かったな」

「分かる」

 ルークも頷く。

「絶対何か気付いてるぞあの人」

 一方。 リュシエルは受付奥へ戻りながら、静かに考えていた。

 銀髪。 異常な魔力。 古い気配。

 そして。 あまりにも静かな瞳。

「……精霊族」

 思わず漏れた呟き。 だがすぐ、自分で否定する。

 あり得ない。 精霊族は伝説だ。 歴史書の存在。

 ハイエルフですら、実在を疑うほど希少な種族。 それが今の時代にいるはずがない。

 だが。 それでも。 あの青年から感じた気配は、どうしても普通ではなかった。

「……一体、何者なのですか」

 その小さな呟きは、ギルドの喧騒へ静かに消えていった。 ギルドを出た頃には、既に夕方になっていた。

 王都アルヴェリアの街は、夕暮れでも賑わっている。 灯りが点き始め。 屋台からは香ばしい匂いが漂っていた。

「すげぇなぁ……」

 クルトが辺りを見回す。

「夜でもこんな明るいのか」

「人が多いですからね」

 フィナも少し圧倒されていた。 ローヴェンとは、やはり規模が違う。 人の流れが途切れない。

 貴族らしき馬車まで普通に通っていく。

 一方。 カゲツは静かに周囲を見ていた。 喧騒。 人の声。 笑い声。 王都独特の熱気。 嫌いではない。

 だが、少し騒がしくも感じる。

「……疲れたか?」

 クルトが聞く。

「少し人が多い」

「爺さんみたいなこと言うな」

「爺さんだからな」

「その見た目で言うなって……」

 いつものやり取りに、フィナが笑う。

 その時。

「で、宿どうする?」

 ルークが振り返る。

「王都は高ぇぞ」

「うっ」

 クルトが固まる。 現実だった。 王都は物価も高い。 特に中央区近くは、普通の冒険者には厳しい。

「まぁ、冒険者向け宿もある」

 バルクが言う。

「少し歩くがな」

 そのまま一行は、王都西区へ向かった。

 宿は、石造りの三階建てだった。 王都では一般的な冒険者宿らしい。

「おぉ……普通にデカい」

 クルトが感心する。 中も広い。 食堂まで併設されていた。

「空いてる部屋は……三部屋ですね」

 受付の女性が帳簿を見る。

「二人部屋二つと、一人部屋一つになります」

「どう分ける?」

 ルークが聞く。 その瞬間。 全員の視線が、自然とカゲツへ向いた。

「なんだ」

「いや、お前一人部屋でいいだろ」

「なんでだ」

「なんか落ち着かねぇ」

「分かります」

 フィナまで頷いた。 カゲツは少しだけ困ったように黙る。 本人に自覚は無い。

 だが時々、静かな圧があるのだ。

「まぁいい」

 普通に受け入れた。 その後。 荷物を置き、一行は食堂へ集まる。 王都の料理は、ローヴェンよりかなり豪華だった。

「うっま!?」

 クルトが感動する。

「肉柔らかっ!」

「落ち着け」

 バルクが呆れていた。 フィナも嬉しそうにスープを飲んでいる。

 一方。 カゲツは静かに茶を飲んでいた。

「お前ほんと茶好きだな」

 ルークが苦笑する。

「落ち着く」

「爺――」

「言うな」

「先読みされた!?」

 笑いが起こる。 そんな穏やかな空気の中。 不意に、宿の扉が開いた。 入ってきたのは、長耳族の男だった。

 エルフ。 しかも装飾からして、かなり高位らしい。

 その男は、宿内を見回し――。 ぴたり、と動きを止める。 視線の先。 カゲツ。

「……っ」

 男の顔色が変わった。 一瞬だけ。 本当に一瞬だけだが、明確な緊張が走る。

 カゲツも静かに視線を向けた。

 だが、それだけ。 何も言わない。 エルフの男は数秒黙っていたが、やがて小さく頭を下げた。

 それは無意識だったのかもしれない。 周囲は気付いていない。

 だが。 確かに、“敬意”に近い動きだった。 そのまま男は奥の席へ向かう。 クルトが小さく呟く。

「……今の見たか?」

「見た」

ルークも真顔だった。

「最近の長耳族、カゲツ見ると反応おかしくねぇか?」

 フィナも少し不思議そうに見る。

「やっぱり、精霊族だから……?」

 その言葉に、バルクが腕を組む。

「いや」

 低い声だった。

「精霊族ってだけじゃ説明つかねぇ気がする」

 静かな空気が流れる。 クルトも頷いた。

「俺も最近思う」

「何をだ」

 カゲツが聞く。

 クルトは少しだけ考えてから口を開いた。

「お前さ」

「なんだ」

「……本当に、どれくらい生きてるんだ?」

 食堂の空気が少し止まる。 ルークも。 フィナも。 バルクも。 静かにカゲツを見ていた。 カゲツは少しだけ考える。

 そして。

「……長いな」

 静かな返答。 それだけだった。

 だが。 その一言には、不思議な重みがあった。

 窓の外では。 王都アルヴェリアの夜が、静かに更け始めていた。

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