21話 王都アルヴァリア
翌日。
商隊は、ついに王都圏へ入っていた。 街道は完全に石畳へ変わり。 行き交う人の数も、ローヴェンとは比較にならない。
商人。 騎士。 貴族の馬車。 冒険者。 様々な人間が行き交っている。
「うわぁ……」
フィナが周囲を見回しながら呟く。
「本当に凄いですね……」
「人多すぎだろ……」
クルトも若干引いていた。 屋台まで並んでいる。
街へ入る前だというのに、既に小さな町のようだった。
一方。 カゲツは静かに周囲を見ていた。 人の流れ。 建物。 街道。活気。 大都市独特の空気。
「……栄えているな」
ぽつりと呟く。
「感想が達観しすぎなんだよなぁ」
ルークが苦笑する。 その時だった。 前方でざわめきが起こる。
「道を開けろ!」
騎士の声だった。 人々が慌てて端へ避ける。 豪華な白い馬車。 王家の紋章が刻まれている。
「王族か」
バルクが小さく呟く。 商隊の空気も少し緊張した。
だが。 カゲツだけは静かだった。 別に興味が無い訳ではない。 ただ、過剰に反応する理由も無い。
その時。 馬車の窓が少しだけ開く。 一瞬。 中の少女と目が合った。 金髪。 透き通るような青い瞳。 年齢は十代後半ほど。
だが、その目はどこか疲れていた。 少女――王女エルミナは、一瞬だけ目を見開く。
「……え?」
銀髪。 静かな瞳。 そして、不思議な空気。 ほんの一瞬だった。 だが妙に目が離せなかった。
一方。 カゲツは普通に視線を外した。
馬車はそのまま通り過ぎていく。
「おい今見たか!?」
クルトが興奮した声を出す。
「王族だぞ!?」
「綺麗な人でしたね……」
フィナも驚いている。
「多分、第二王女だな」
バルクが腕を組みながら言う。
「エルミナ殿下だろ」
「知ってるのか?」
「ああ。割と有名だ」
その時。
ルークがニヤニヤしながらカゲツを見る。
「お前、王女と目合ってたぞ」
「そうか」
「反応薄っ!」
「人だった」
「いや王女だよ!?」
クルトが即座に突っ込む。 周囲から笑いが漏れる。
だが、その時。 街道脇を歩いていた長耳族の男が、不意にカゲツを見て足を止めた。
エルフだった。 しかも装飾からして、かなり上位の者だろう。 その目が、ゆっくり細められる。
「……その魔力」
小さな呟き。 カゲツは視線だけ向ける。 エルフの男は数秒黙っていた。 やがて。
「失礼。見間違いでした」
そう言って去っていく。
だがその顔は、明らかに困惑していた。
クルトが首を傾げる。
「またああいうの増えてきたな」
「長命種ほど分かるんだろうな」
バルクが低く言う。
「何がだ?」
「お前の異常さが」
カゲツは少しだけ黙った。 そして静かに空を見る。
王都アルヴェリア。 巨大都市。 様々な種族。 様々な人間。 ここではきっと、ローヴェン以上に多くの者と出会う。
それを少しだけ考えながら。 カゲツは静かに王都の巨大な城壁を見上げた。
白亜の壁は、まるで空へ届くように高かった。
王都アルヴェリア。
巨大な城壁を抜けた瞬間、空気が変わった。
「うわぁ……」
フィナが思わず声を漏らす。 広い。 とにかく広かった。 石造りの街並み。 幾重にも続く大通り。
巨大な建物。 行き交う人々。 ローヴェンとは、何もかも規模が違う。
「迷いそうだな……」
クルトが周囲を見回す。
「実際、初めて来た奴は大体迷う」
バルクが苦笑する。 商隊は、そのまま中央通りを進んでいく。 貴族街。 商業区。 工房街。 様々な区画があるらしい。
その途中。 カゲツは静かに周囲を見ていた。 長耳族。 ドワーフ。 獣人。 ローヴェンより遥かに異種族が多い。
そして時折。 長命種らしき者たちが、妙な視線を向けてくる。
「……増えたな」
ぽつりと呟く。
「何がだ?」
クルトが聞く。
「見る者が」
確かに。 普通の人間は、
「銀髪の美形」
くらいの反応だ。 だが。 長耳族。 特に長命種らしき者ほど、妙に視線が止まる。 まるで違和感を覚えるように。
その時だった。
「着いたぞ」
バルクが前を見る。 そこには。
「……デカ」
クルトが固まる。 巨大な建物だった。 王都冒険者ギルド。
もはや砦に近い。 石造りの重厚な建築。 何十人もの冒険者が出入りしている。
「ローヴェンの三倍はあるな……」
ルークが苦笑した。 そのまま商隊はギルド前へ停車する。
依頼完了報告のためだ。
「よし、行くぞ」
バルクが先頭へ立つ。
そして。 王都ギルドの扉が開かれた。 中へ入った瞬間。 空気が押し寄せた。
熱気。 酒。 喧騒。 武装した冒険者たち。 強い。
ローヴェンより明らかに全体の質が高い。
「すげぇ……」
クルトが圧倒される。 フィナも少し緊張していた。
一方。 カゲツは静かに周囲を見ていた。
その時だった。 受付奥。 一人の女性が、不意に顔を上げる。 長い金髪。 尖った耳。 そして、整いすぎた美貌。 ハイエルフだった。
周囲の受付嬢たちより、明らかに空気が違う。 そのハイエルフの女性は、カゲツを見た瞬間。
動きを止めた。
「……え」
小さな呟き。 そして次の瞬間。 彼女の表情から、余裕が消える。 視線が銀髪へ固定されていた。
「どうした?」
隣の受付嬢が不思議そうに聞く。 だがハイエルフの女性は答えない。
ただ。 信じられないものを見るような目で、カゲツを見ていた。
一方。 カゲツ本人は気付いていない。
「依頼報告だ」
普通にバルクの後ろへ立っている。 その姿を見ながら。
ハイエルフの女性は、僅かに震える声で呟いた。
「……あり得ない」
その声は、誰にも届かなかった。




