表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣豪将軍、辞めました  作者: あかべこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/12

旅を満喫する菊堂に対し、室町御所の信長は滝川一益からの報告の手紙に頭を抱えた。


「……我らの義父殿は真のうつけやもしれぬ」


「いくら当人同士に恨みがなくとも流石に避けておくのが常道な気がしますけどね」


報告書を読んだ家康も苦笑いでそう答える。


恨みつらみというものは中々消えるものではない、いささか呑気な考え方のように思える。


「死ななければ良かろう、としか言えぬな」


万が一を考えるとご勘弁願いたいのだが、相手は元足利将軍であり自分を見出した恩人だ。下手に口を出すのも憚られる。


「話は変わりますが、昨日ようやく慶寿院様に【永禄晩夏夢録】をお渡し出来ました」


以前ふたりが話していた話だ。


足利義輝の未来予知夢をまとめた記録書の写しを極秘に作らせるのは少し時間がかかったが、ようやく写しが完成したので写しを手元に置いて原本を手渡した。


「ほう?」


信長のその表情で話の続きを求められている事を理解した家康は、渡した時の話を切り出した。



*****



足利義輝の母・慶寿院は長男の唐突な出奔に怒りを覚えていた。


細川晴元を追い出して三好長慶も従えさせ、ようやくこれから軌道に乗ろうという時に足利の家を捨てて出ていったのだ。


嫡男の急逝に落ち込んでいることは気づいていたが、まさか何処の馬の骨とも知れぬ田舎武士を連れてきて丸投げするなど何を考えているのか!と叱りつけたい気分だった。


「お引き渡しが遅くなりまして申し訳ございませんでした」


長男が養子として後継者にしたうちの1人である徳川家康(もうすでに足利の姓になっているが親族と認める気分にはならなかった)から差し出されたのは、長男・義輝の字で書かれた書き付けであった。


この男が足利家当主を引き継いだ後に見つけたという義輝の書き付けは、先日ようやく写しができたので原本の方を慶寿院が引き取ることになっていた。


その書き付けの中身がどんなものか、偽物の書き付けであったならばどんな手を使ってでも2人を足利家から追い出す。そんな計画を三好長慶・六角定頼と共に温めていた。


「確認します」


慶寿院は足利義輝の実母として、生まれてから出奔するまで共に暮らしてきた。だからその書き付けの真贋鑑定を自分より出来るものは居ない自信がある。


(これは間違いなく義輝の字ね、震えや違和感はない)


自分が一から教えた書き文字の流れに脅されて書いたような違和感はない。


そしてその中身を静かに熟読し、そして悟った。



「……あの子は未来を見たのね」



我が子が見た予知夢と足利将軍という肩書を捨てさせる事を決意させたという事を。


信長・家康と異なり、慶寿院は義輝の見た夢が予知夢だと確信していた。それは明確な根拠を持たない我が子への信頼からの確信であった。


三好長慶からの裏切りによる死を避けた上で足利幕府の終焉を遠ざける事が義輝の望みだったとするならば、尾張と三河から織田信長・徳川家康を連れてきた理由としてある程度納得は出来た。いささかの短慮さはあれど、発想としては間違ってはいないと感じられる。


「その書き付けの中身を信じるのであれば、義父殿が見たのは未来だったのでしょう」


義輝の出奔がなければ征夷大将軍となっていたらしい目の前の男はそう答え、慶寿院はしばらく考え込んだ。


この予知夢によれば、次男の覚慶を将軍にしようとしたところ信長と対立して足利将軍家は終わってしまうらしい。覚慶は決して愚人ではないが、確かにそんなものを見せられたら継がせる気持ちにはなれない。


足利家を終わらせた人間としてではなく、ただの高僧としてその生涯を終える方がよほど幸せに思えた。


「わたくしは、あの子が見た予知夢を信じます」


それが慶寿院の結論だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ