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剣豪将軍、辞めました  作者: あかべこ


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10/12

梅も盛りの季節を迎えた伊勢国の峠を越えると、目の前には巨大な要塞と化した町があった。


「これが霧山城か……」


山々に囲まれた盆地のど真ん中に巨大な城が佇んでおり、城下町らしい賑わいはありつつもどこか実用性を重んじたような作りをしている。


攻めにくい街づくりや武家が多く住んでいるらしい雰囲気などが、この街全体を要塞とするかのように感じさせているのかもしれない。


敵地のど真ん中という感覚は足原菊堂の護衛として送り出されている常松の神経を刺激し、足原菊堂のお目付役を命じられた滝川一益の胃を痛めつけた。


霧山に入る前に常松とは万が一のときの相談はしているが、この状況下においては相談の中身が役に立たずに終わる事を祈ることしかできないのが実情であった。



*****



霧山城の広間で初めて顔を合わせた北畠具教は40半ばの男前で、まさに男盛りという言葉のよく似合う武人であった。


「よく来た、弟弟子どの」


「無礼を承知で出したお願いを引き受けて頂き有り難く存じます」


「そちらの2人はどこの者かな?」


北畠具教に話をふられた滝川一益は事前に決めておいた設定を口にした。


「川竹と申します。信楽の皿を京へ皿を運ぶ仕事どしておりましたが、京へ登った際に縁ありまして菊堂様と巡り合って東海道の道案内などを頼まれまして、今は隣の常松と共に身の回りの世話などを担っております」


滝川一益という本名を出せば織田信長との繋がりで足原菊堂=足利義輝と気づかれてしまうので、このような設定を使うことにしたのだ。


「常松と申します。先代の足原家ご当主様の元で小者などしておりましたが、この度命を受けて菊堂様の身の回りの世話などを請け負っております」


2人の自己紹介を聞いた後、足原菊堂ご一行を滞在中は食客として遇する事が決まった。


「弟弟子殿は塚原殿にどの程度教わったかな?」


「お恥ずかしながら己の未熟さゆえに一の太刀を授かることが出来ませんでしたが、剣の修行は1日も欠かす事なく続けてきましたので京の一帯ではそれなりの剣術使いになれたと思っております」


菊堂の言葉は嘘ではない。


塚原卜伝から一の太刀を授かれなかったのはちょうど二人が師弟関係にあった当時の事情がよろしくなくじっくり教えを授かる余裕がなかった事に由来するし、足利義輝が京都一帯の剣術道場の者たちと打ち合いを重ねては勝ち続けてきた腕前があるのも事実だ。


しかし相手が将軍だからと手抜かりされてるのでは?という疑念は薄らと感じており、だからこそこの兄弟子と本気で試合をしてみたかったのだ。



「ですので、是非兄弟子たる北畠殿とお手合わせ願いたい」



その頼みを口にすると、北畠具教は面白いというふうに笑って「良かろう」と答えた。

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