第九話 ようやく判明した告白条件が死ねるのだが
『そのまんまの意味』
ガイコツさんに、例の桜の話をしてみたところ、友達や早乙女先生と全く同じ返答が返ってきた。
いや、そうやって生き生きとホワイトボード書いて見せてくるけど、ガイコツさんの情報が本当に当てになるかわかんないんだよな。多分情報古いし。
僕がため息をつくと、骸骨がズバッと僕に指を差してきた。
『時代遅れの情報じゃないよ』
「違うの?」
『常にアップデートしてる』
「その頭蓋骨インターネットにでも繋がってんの? あれか、骨伝導ってやつか? 」
『例えば』
ガイコツさんは僕の言葉を無視してボードに書き続ける。
『最近のトレンドは『タピオカミルクティー』と『マリトッツォ』!!』
……古いよ。と言うか、なんでここもキャラ被ってんだよ。
僕が唖然としていると、ガイコツさんはボードを見せてきた。
『桜の話に関しては』
裏にひっくり返す。
『実際、僕も同じこと言われた。多分伝統』
……信じていいのか?
──────桜の花びらだろ? そんなもん、ヒラヒラと舞い落ちてるやつを一枚ハシッて手で取ればいいだけだろ?
千刺桜を知らず、他の桜しか知らない人ならそう思うだろう。
では、何故こんなにも僕が千刺桜の花びらを取ることに対して消極的なのか?
答えは、危険という言葉で片付けられるのが遺憾なほどに危険だからである。殺気立ってる虎から牙をもぎ取って来い、と言っているようなものだ。
僕はあれから、一応ネットで一通り千刺桜については調べてみた。
「千刺桜」。これは周りでよく見る、ソメイヨシノなどの花びらとは全く違う。普通の桜の花びらは、落ちる際に、空中を踊るように落ちることから「舞い落ちる」なんていう言葉をよく使うが、千刺桜の落下スピードはそんなもんじゃない。
弾丸だ。
いや、下手したら弾丸以上。目視では捉えられない。千刺桜の花びらが落ちる時に、突風が発生するぐらいには速い。
秒速50,000センチメートル……音速を超える、異様な速さだ。かすったら手が切れる。
現に、開花直前の千刺桜にいたせいで、大怪我を負ったというニュースが頻発している。なんならさっきの千刺桜の噂を調べた時に、米国のプロの野球選手が千刺桜の花びらキャッチを実践しようとして、入院3ヶ月の大怪我を負ったというニュースも見たぐらいだ。
そんな千刺桜の花びらを手に入れるというのは、相当に難易度が高い話だ。とてもじゃないが、文化部の僕には、取るのは無理である。だから、椎名さんがその文面通りに千刺桜の花びらを求めているとは思えない……いや、そうでないと信じたい。
しかし、ネットを調べてみても、代わりに「これだ!」と確信の持てる解釈は書いていなかった。
解釈が多すぎるのだ。もはやローカルルールに近い。大富豪にローカルルールが大量にあるような感じだ。スタンダードなのはプレゼントを贈ればいいだけ、というやつのようだが……逆に簡単すぎて、本当にこれが『条件』か疑わしい。鬱陶しがっている奴らを排除するための条件としては緩すぎる。
だが情報が何もない以上、とりあえず、文面通りに千刺桜の花びらを取れるか、やってみるしかない、か……?
頭を抱えている僕に、ガイコツさんはホワイトボードを見せてきた。
『信じて欲しい』
「いや、僕だって信じたいけどさぁ……」
僕が渋っていると、ガイコツさんはまた文字を書いてきた。
『実際、好きな人がいるっていうのは嘘だった』
「まあ確かに……」
ガイコツさんが言うことも、100%当てにならないというわけではないしな。だからこそ、椎名さんの建前を暴けたわけだし。
『恋愛マスターに間違いはない』
「いや、でもなぁ……大怪我負うのやだし……」
『諦めたらそこで試合終了』
「でも諦めないと、下手したら人生が終了しそうなんです。そこはどうなんでしょう?」
大丈夫だと言いたげに、ガイコツさんは胸をカシャリと叩いた。その衝撃で体がボロボロに崩れ落ちた。
「ガイコツさん!?」
ガイコツさんってこんなに脆かったっけ?
ガイコツさんは手の骨だけ再生した状態で、ホワイトボードを持ち上げて文字を見せてきた。
『チャレンジしたことがある』
そして体全体を元に戻すと『任せとけ』と言いたげなグッドマーク。
「……ん? 『チャレンジした』? 成功したじゃなくて?」
僕がそう突っ込むと、骸骨はプイと顔をそらす。
「ガイコツさん?」
とにかく。骸骨は咳払いのジェスチャーをする。
『筋トレ』
「筋トレ云々でどうにかなるもんなの?」
『確実に言えることは、今の君じゃ確率0%』
「確かに」
『でも、筋トレしたらちょっとは上がる』
今の時期は12月の半ば。告白の日付まで、約3ヶ月間……。もう手段はそれしかなさそうだな。
逃げたら成功も、失敗すらも、何も詰まってない骸になるだけ。やらずに後悔することを認める言葉はない。心を残すな。
僕はガイコツさんから教えてもらった言葉を引っ張り出す。
目を閉じて、大きく、大きく息を吸う。吐いて、吐いて、吐く、竦んだ心を。
覚悟を決めた。
やるしか……ない。
僕はガイコツさんをまっすぐに見る。
「具体的にはどのトレーニングすればいいの?」
『知らん』
……そこら辺はドライなんだ、ガイコツさん。
ふと、ガサッと草を踏む音がした。
……ん? なんだ?
しかし、音がした方を見ても何もいない。
また視線を感じたような……気のせいか?
辺りを見回しても、誰もいない。
「まあいいや……トレーニングについては自分で調べてみるか。もしくは……あの人に聞けばいいかな。なんか知ってるだろ
じゃあね、ガイコツさん」
僕が帰ろうとすると、ガイコツさんは僕の肩を叩いて、ホワイトボードを見せてきた。
『ちなみに
僕の死因は千刺桜の花びら』
「……やっぱやめるわ」
ガイコツさんは首をカチャカチャと横に振る。
「いや、死ぬって! だから人生終了するって!」
それでも、ガイコツさんはクビを横に振り続けた。
桜のシーズン到来。
校庭にある千刺桜も、そろそろその花を咲かせんとしていた。




