第七話 急にライバルたちが大量に出てきた
「そこの君」
キリリとした凛々しい声が校舎裏に響き渡る。
僕が後ろを振り向くと、そこには腕章をつけた男子生徒がいた。
「か、金園生徒会長!」
生徒会長の金園だ。いつも毅然とした態度で、学校を取り仕切っている。
「君か。ここ最近、椎名さんに連日で告白などという迷惑行為をしているという男は」
「そうそう、彼だよ」
彼の後ろからひょこっと出てきた男。
「神田……」
僕と同学年の神田。とにかくコミュニケーションスキルがずば抜けている男だ。たとえ言語が通じない国に放り込まれても3日あれば、友達100人できるかな、が達成できると断言できるぐらいには、人との接し方が上手い。あと、無類の噂好きである。
「後藤くんもさぁ、ちょっとセーブした方がいいんじゃない? 椎名さん困ってるよ?」
「なんで神田たちがここに……?」
僕がそう呟くと、ブーブーブーと振動音が僕の胸ポケットにあるスマホから響いた。スマホを取り出すとそこには、
『全くだ。この時代にそんな根性論でやっていけると思っているのか』
の文字。それを見ていると、急に画面が暗くなった。
いや、画面が暗くなったというより、僕の周囲の影が急に濃くなった。上を見上げる。そこには四角い眼鏡をかけ、ノートパソコンを持った男の姿。
「プログラミング部の金田……」
プログラミング部の金田といえば、頭の良さでちょっとした有名人だ。噂では模試の全国順位が一桁台だとか。
その金田が、なぜか僕の真上、校舎の3階から僕たちを見下ろしている。
すると今度は、金田がいた方向とは反対側から、三人の男たちが歩いてきた。
「あいつ、あいつです兄貴!」「 あいつが例のストーカーまがいの連日告白野郎です!」
と、左右にいた二人が、真ん中にいる体格のいい男に話しかけた。見るからに親分とその舎弟、といった関係性だ。
真ん中の男は、プラカードにマジックで何かを書いて、俺に見せてきた。
『大人しく引け』
……いや喋れよ。お前といい金田といい、ガイコツさんといい、なんで俺の周辺こんな無口キャラばっかなんだよ。
「やれやれ、近藤まで来たのか……」
と、ため息をつく金園。
近藤といえば、運動神経抜群、喧嘩最強と謳われる有名な男だ。
なんでこの学校の有名人たちが一度に集まってきているんだ……? と、僕が頭の中に疑問符を浮かべていると、金田がまた口を開いた。
「後藤くん……だったかな? 全く、君は無神経にも程がある。3日連続の告白など。椎名さんの迷惑を考えたことがあるのか? 彼女にはもう二度も断られているのだろう? さっさと立ち去りたまえ」
ぐっ……悔しいが正論である。僕は自分のことばかり考えて、椎名さんの迷惑を考えていなかった。それは事実だし、現に彼女は僕を必死に突き放そうとしている。
ここはおとなしく一旦引くしか……。
そう思い、立ち去ろうとした途端、椎名さんが口を開いた。
「何言ってんの、あんたら」
椎名さん……? 先程までの遠慮が入った喋り方とは違い、ストレートに毒を吐く言い方だ。
「あんたたちが何言ってんのよ。後藤君のこと言える資格ないわよ」
資格がない? 一体、どういうことだ?
僕が困惑している傍ら、彼女は続ける。
「告白回数で言えばあんたたちの方が多いでしょ! 毎回断ってるっていうのにさ。この自意識過剰どもめ」
すごい毒舌だ。
そして、椎名さんは新たに現れた四人を順に指差した。
「神田、あんたは5回。近藤、あんたは6回。金田、あんたは10回。そして金園……あんたは25回! どれもこれもうざい! いい加減やめろ!」
マジかよ。よくそんなんで俺のこと責めれたな。
「「「「いや、無理だ!!」」」」
四人の声が全員合わさった。椎名さんは特大の溜息をつく。椎名さんをこれほどまでに困らすとは……。
椎名さんは大きくため息をつく。額に手を当てて言った。
「ここまで粘り強いのは、いくらなんでもあなたたち四人だけよ……いや、もう一人増えそうね」
椎名さんは僕ら五人を一瞥した。
あれ? これ、俺も迷惑枠に増やされてない? ……いや、そりゃそうか。このままの調子で1ヶ月いくつもりだったし。
「もういいわ。どうせ諦めないなら、一つ、条件をつける。ただし、この条件で告白して私が断ったら、もう潔く諦めなさい。それでいいわね?」
『無論だ』
近藤はプラカードでそう答えた。喋れ近藤。
「その条件というのは?」
金園が椎名さんに問いかける。
「ホント、勢いだけはいいわね」
「このやりとりもう7回目ぐらいだと思うんだけど」とぼそっと椎名さんが呟く。椎名さんは咳払いして、後ろの桜の木を指さした。
「千刺桜があそこにあるわね。今は12月で、3月ぐらいには咲くから……3ヶ月後の3月7日。その時期なら期末テストも終わってるだろうし。地面に落ちる前の、ピンク色の千刺桜の花びらを拾って、私に持ってきなさい」
そう言い残し彼女は足早に立ち去った。
千刺桜の花びらをキャッチする? 突然なぜそんな条件を? 本気か? いや、なにか別の意味があるのか?
「千刺桜か」
金園が呟く。
「なるほど。なかなか粋なことをするね」
神田がそれに反応した。
全員の携帯電話からバイブレーションが鳴る。文面には
「悪いが、遠慮するつもりはない。この金田が勝利する」
の文字。喋れよ。
『承知した』
近藤は相変わらず沈黙したままだ。しかし、その表情は真剣そのものだった。
全員がその条件の意味を理解したようだった。理解してないのは僕だけのようだ。
呆然としている僕に対し、近藤の舎弟が話しかけてきた。
「いいか。今回はこれで見逃してやる」
「どうせ3月7日の告白合戦で近藤さんに負けるしな!」
「……」
「あ、あの……千刺桜の桜の花びらを持って来いって、どういう意味ですか?」
煽る舎弟たちに比べ、何も喋らない近藤。彼らは煽り文句を言うだけ言って、共に帰って行った。僕の質問は無視か。
「正々堂々勝負だ、後藤。抜け駆けは禁止だぞ」
金園が背を向け、そのまま去る。
「すいません、千刺桜の桜の花びらのくだりってどういう意味ですか?」
応答なし。
「どうやら僕たち、ライバルみたいだね。じゃ、またね〜」
と、金園に続いて神田も立ち去った。
「あちょっと、千刺桜の桜の花びらを持って来いってどういう意味なのアレ?」
応答なし。
ブーブー、とまた通知音。スマホを見ると、
『恥をかく前に、さっさと辞退した方がいいぞ』
と書かれたメールが送信されていた。3階を見ると、金田も、いつの間にか姿を消していた。
……千刺桜のくだり、あとで他の人に聞いてみよ。




