第十六話 恋愛マスター(自称)の骸骨さんが成仏3秒前
「いつの間にか君を目で追っているうちに、私の方が好きになっちゃったみたい」
「……え?」
「ずっと君のこと見てた。何度も何度も、あんなに連続で告白する相手なんて、そういないからね。どんな奴なんだろうって思ってさ。
それから、ずっと君のこと見させてもらったの」
幾度か感じた視線。あれは不良たちのものだけではなかったのか……。
「だから当然、あなたのことも知ってるわよ、ガイコツさん」
グズグズに崩れたガイコツさんは、ピクリとも反応しない。
「大丈夫よ、死んだふりみたいなお芝居しないで。わかってるから」
そう言うと、ガイコツさんはむくりと起き上がった。椎名さんはその姿を見てニッコリと笑った。少し引き攣っているが。
「近目で見ると、やっぱり怖いわね……」
ガイコツさんはあたふたとしながら、アセアセとホワイトボードに『外そうか?』と書いた。
椎名さんは首を振ると、僕とガイコツさんに顔を向けて、こう言った。
「ちょっと、昔話を聞いてくれるかしら?」
椎名さんは、全てを語ってくれた。
おばあちゃんの話、過去の恋愛話、生物室でのこと……。
全てをゆっくりと打ち明けてくれた。
「おばあちゃんね、昔告白されたんだって。それも何度も何度も。あなたみたいにね。
それで、もう面倒だからって、私みたいに千刺桜の花びらを取ってこいって言ったらしいの。それで、プレゼントを持ってきたら、それに適当なイチャモンつけてこっぴどく振ろうとしたんだって。
でも、その男の人が本気で千刺桜の花びらを取ろうとしたらしくてね。その男気が嬉しくて、好きになっちゃったんだって。
おばあちゃんの方から、男の人に告白したんだって。でも、そしたら今度は男の人の方が逆に緊張しちゃって。おばあちゃんに『もう一回、あの紅道山の頂上にある木の下で告白させてくれ』って返事をしたらしいのよ。
……でも、その人がなぜかわからないけど、約束の日になっても現れなかったんだって」
椎名さんは紅道山のある方を見つめた。
「それで、おばあちゃんはもう諦めて別の人と結婚しちゃった。まあ、だから私がいるわけなんだけどね。
それでも毎年、千刺桜が咲くこの時期は、毎日あの山に登ってその木の下でその人のことを待ってるの。もう足腰悪いのにね。きっとそのことを引きずってるんでしょうね」
その時、ガイコツさんがホワイトボードを椎名さんに見せた。
『その人の名前は?』
「ガイコツさん、一体どうしたんだよ?」
「ええと、おばあちゃんの名前は……『トキ』よ。確か、苗字は変わってないはずだから……フルネームは椎名トキね」
その名前を聞いた途端、ガイコツさんの頭蓋骨がポロリと取れ、カラーンと音を立てて砕け散った。
「ガイコツさん!? どうしたんだよ」
そのまま骸骨の上半身は、くらりと後ろに倒れ、瞬く間に砕け散っていく。
「ちょ、ど、どうしたのガイコツさん、ガイコツさん!」
暫くした後。いや、大して時間は経ってないかもしれない。
ガイコツさんは、ゆっくりとカチャカチャと形を戻すと、震える手で書き足した。
『思い出した』
「……思い出した? ……もしかして未練のこと?」
僕がとっさに言うと、骸骨は首をカチャリと縦に振った。しかし、またすぐに首が取れた。
「ガイコツさん、最近なんか首取れやすくなってない……?」
ガイコツさんは頭蓋骨を拾い上げ、ガチャガチャと元の位置に戻した。そして寂しそうな表情で、ゆっくりとホワイトボードに文字を見せた。
『時間がない』
「時間がないって、どういうこと?」
『もとより限界だった
それがさっきの戦闘で更に縮まった』
ガイコツさんは書き足した。
『行かないと』
「どこへ?」
僕が尋ねた質問には答えず、ガイコツさんは
『ありがとう』
その文字を残し、ガイコツさんは手をひらひらと振って、呆然としている僕たちを置いて走り出した。
「が、ガイコツさん!?」
中央噴水広場には多くの生徒がいた。先程の告白対決の見物人たちだ。
そこに、骸骨が現れた。
「え、何あの骸骨? なんで動いてんの?」「何かの撮影?」「いや、幽霊じゃね? こわっ!」「いや、アレ桜の下の骸骨だよ!!」
様々な声が飛び交う中、骸骨は段差で派手に転んだ。
骸骨はチラリと自分の足の方に顔を向ける。足首の骨が取れていた。それをいそいそと拾い集め、ガチャガチャと組み立てる。パシャッと無機質なシャッター音がそこかしこから聞こえる。
骸骨は顔を伏せながらも、その手を止めなかった。
骸骨が足首の骨をはめ直し、よろりと不安定に立ち上がった時。
「ガイコツさん!」
呼びかける声が骸骨に聞こえた。そこには、自転車にまたがった後藤がいた。
「乗れ!」
骸骨はホワイトボードに『いいのか?』と書いた。
「何が!?」
『目立つ』
「んなもん、気にするか! 言わせとけ」
そう言い切り、後藤は手をガイコツさんに差し出す。
ガイコツさんは遠慮がちに『ありがとう』という文字を見せた。
「……いいからさっさと乗れって! 目的地は紅道山だろ?」
後藤は骸骨の手を引っ張って後ろに乗せた。ギアを6にして、足に全力を込めた。
「飛ばすからな、途中でバラバラになるなよ!」
後藤には、骸骨が今どういう思いでいるのかは、正直わかっていなかった。しかし、絶対に送り届ける。後藤は既に心にそう決めていた。




