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桜は千度刺す  作者: アフロヘッド


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13/15

第十三話 椎名の本音その2

 でも……。

 私は、目の奥で一人の人物の姿を思い浮かべる。

「後藤くん」

はーちゃんのセリフに、思わず体がビクッと震えた。

「し、知ってるの?」

「当たり前でしょ、彼は生物部よ。よく彼と話してるわ」

そう言って、はーちゃんはハハッと笑った。

「へ、へぇ〜、そうなんだ。し、知らなかったな」

「何言ってんの〜。知ってるよ、あんたが最近後藤くんを見てんの」

「……気のせいでしょ」

そう言っても、はーちゃんの追及は止まらない。

「きっかけは何なの?」

「だからそんなんじゃないって」

 私はプイと視線を逸らした。

 そして、再びはーちゃんをチラリと見る。彼女は、まだ目をキラキラさせている。どうやら逃してはくれないらしい。やれやれだ。

「……ただ、三日連続で告白するなんていう図太い神経してるやつは、一体どんなやつかってちょっと気になっただけ。別にそういうんじゃないから」

「本当に?」

「ほ・ん・と・う!!」

私が強く言い切ると、彼女はさらにニヤニヤを深める。

「じゃあなんで今日はここに来たの?」

うぐっ、と息が詰まる。

「後藤くんを見にきたんじゃないの?」

「ば、バカ言わないでよ。たまたまだってば」

私が動揺している様子を見て、はーちゃんはカラカラと笑い出した。

「あーおもしろ……今日も彼、ここに来てるよ。いや、正確にはここの外だけどね」

 はーちゃんは立ち上がって、窓のそばに近寄る。

 私もはーちゃんの横に駆け寄った。

 二人で、千刺桜の木の下にいる二人を見つめる……いや、正確には一体と一人を見つめた。

「あの骸骨ね。最初こそ驚いたけど、今じゃ見慣れたもんよ」

窓の外には、骸骨に足を押さえてもらって腹筋する後藤くんの姿が映っていた。

「96……97……98……99! ……100ぅぅぅぅっ!!」

倒れ込んだ後藤くんに、骸骨がホワイトボードで『お疲れ!!』の文字を見せる。

「ランニングやったし……腹筋、スクワット、腕立て伏せも終わり!! っしゃああっ!!」

 彼は来る日も来る日も、こうして骸骨と筋トレに励んでいる。

 そしてそのあとは……

「素振りじゃああっっ!!」

と言って、棒を振り回し始めた。あれは一体なんなんだろうか? 

「花びら取るための練習らしいよ?」

「えっ……あれがそうなの?」

「うん、というか私が教えた内容だし」

「そ、そうだったの?」

「彼が千刺桜のこと教えてくれって言ってきてさ。その時に教えた。本当にメニュー通りやってる」

「……ちなみにそれ、ホントなの?」

「なわけないじゃ〜ん!!」

はーちゃんはゲラゲラと笑った。本当にいい性格してるな。

「……でも本当に全部やってるよ、彼。しっかりこなしてる。最初っからクレイジーな量出してもついてくるし。成長度合いに合わせて量も増やしてんだけどね」

「……そう」

「勉強もやってんだと。こないだなんて、模試の学年順位が上位50位乗ったって自慢してきたぞ、それはそれは可愛らしい顔でな」

「あっそ」

「おっ、嫉妬か〜?」

「違うって!」

私ははーちゃんをポカポカ殴った。

「ははは、痛い痛い」

私が怒ってもそうやってすぐ流す……ほんと嫌い。

「あとはそうだな……。

 えっと彼はね……なんていうか、一言で言えば、すっごいピュアだな。『手伝って』って言った時は何でも手伝ってくれるし。勉強と筋トレも、私が『あんたは釣り合わないんじゃない?』って言ったら素直に今日まで続けてるしね」

「……なんでそんなこと、私に教えんのよ」

「う〜ん、そうねぇ……」

はーちゃんは私の頭を撫でてきた。

「雪ちゃんが可愛い従姉妹だから、かな」

「……何それ、答えになってないでしょ」

そう言うと、またはーちゃんがニヤニヤしてきた。

「なに?」

「いや、やっぱかわよいな〜ってね」

と、またわからないことを言う。バカにして、と私が怒っても頭を撫で撫でされた。

 突然ガラン、と窓から音がした。

 外を見るとさっきまで振り回していた棒を地面に置き、後藤くんが息を荒くしながら倒れ込んでいた。

「……ガイコツさん、これで本当に俺、強くなってんのかな」

 そう呟くと、再び起きあがろうとする後藤くん。それを見て骸骨はあたふたしていた。

『休まないと』

後藤くんはそれをチラリと見る。「ありがとう」と骸骨に言った後藤くんは、

「でも、」

と千刺桜を見て呟いた。

「……3月7日はもうすぐそこだ。でもまだ、全然だ。体力も、パワーも、頭も、何もかもが。だから、僕はひたすらやるしかないんだ」

自分に言い聞かせるようにセリフを吐くと、唸り声と共に彼は再び起き上がる。

 私はそんな彼を、じっと見ていた。

「ホント、馬鹿らしい」

私は無意識にそう言葉を零していた。私は、机の上の余った紅茶をぐいっと流し込む。さっさとカバンを持って、生物室のドアに向かった。取っ手に手をかけた途端、はーちゃんが話しかけてきた。

「あれ、帰っちゃうの?  最近は最後までいるくせに」

私はギギギギギと震えながら振り向いた。

「な、ななななななんで知ってんの!?」

それを聞いて、はーちゃんはまたニヤニヤして答える。

「当たり前でしょ。私は生物教師よ、よくここに来るに決まってるじゃない。あんたが一人でここの窓からじっとあつ〜い視線を送ってるの、知ってんだから」

「もう、からかわないでよ!」

私は駆け寄って、はーちゃんをポカポカと殴った。

「ういやつういやつ」

そう言いながら、ポカポカと殴られながらも、はーちゃんはまた私の頭を撫でてくる。

「もー、高校になっても頭撫でんのやめてよ」

そう言っても、はーちゃんにハハハ、と笑い飛ばされた。止める気ないな、コイツ。

「素直になればいいのにね」

はーちゃんはそうぼそっと呟く。

「何言ってんの。私は素直よ」

「どの口が言うかっ」

はーちゃんは私の頭をわしゃわしゃにした。

 「うおおおお」と頭が揺られる中、私はふと、前々からの疑問を思い出した。

「ところで……はーちゃん」

「ん?」

 私は後藤くんの隣にいる骸骨を指差した。

「あれってどういう仕組みなの?」

「さあ? 私も聞きたいわよ」

生物教師ですら謎の骨。一体何なんだ。






そして、告白当日────────。


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