魔法少女捕縛編 七、舞台はシズオカへ。
マジカルキャッチャースマートフォン。略してマジスマホ。
マジカロイド一號であるアリスと同じく、ダークマター技術を用いて作られたこの端末は魔法少女を封じ込めるだけでなく、魔法少女が使う魔法をも無効化し、近付けるだけで魔法少女の弱体化を促す。
そして一日一回三十分間だけ、捕らえた魔法少女に変身する事が出来る。TSなんてアニメの中だけの夢物語かと思っていたが為に、今オレの心は舞い上がっていた。百合プレイも可能とは最高じゃないか。
「マスター、水が冷たくて気持ちいいですよ」サクサク。と、陽の光によって熱された砂を踏み締めてオレの側へとやって来るアリス。
色白の肌にピッタリと纏わり付いた上下に別たれた白い布。一歩を踏み出す度に濡れた足から砂が零れ落ちる。張り付いた髪を耳に掛ける仕草はグッとくるモノがある。
そして、アリスがグッと身を乗り出すと、見晴らしが最高に素晴らしい逆さ渓谷が一望出来る。今日は快晴の様で谷底まで見通す事が出来た。だがしかし、その頂きは真っ白な雲が邪魔して見る事が出来ないでいる。非常に残念だ。
でもまあ、それを見てしまうとオレの愚息が暴走する恐れもあるので自重をしている所だ。
黒猫の助言によってオレは今、シズオカに来ている。アリスのマジカル探知(そういう名前らしい)によって早々に魔法少女を見付けたオレ達は、海水浴客を装って遠目から彼女を監視していた。
「お父さん。お母さん。オレは元気です」思わず名台詞を口ずさんでしまうほどに、シズオカの海岸線は元の世界とは大幅に違っていた。
静岡ってあれだろ? 中部地方に位置している金魚の形をしていて、黒潮の影響で温暖な気候でその北には富士山がある県で、駿河湾で獲れる桜エビとか黒ハンペンとか絶品だって話だろ? そんな駿河湾に名台詞を吐くほどの島の街があろうとは誰も想像つかないだろう。
「どうかされたんですか?」ビーチチェアに腰掛けてドリンクを勧めるアリス。それを受け取り、大きくかぶりを振った。
「いや、何でもない。それにしても、まさか魔法少女が普通にバイトしているとはな」赤いワンピースの水着を着込み、小さな屋根が付いた監視台から時折双眼鏡を覗いている。肌は陽に焼けていて、昨日今日のバイトではなさそうだ。あの赤い水着の下にはさぞかしクッキリと日焼け跡が残されているだろう。それは是非見てみたいモノである。
「金で釣れば魔法少女の力を返すんじゃないのか?」お尋ね者だって生活するにはお金が必要だ。だったら力を返す代わりにお金を要求すればいいと思うが。
「委員会は能力を返還する代償として生活の保証を約束していますよ」
「そうなのか? だったら何が不満なんだ。超能力とか失うのが嫌なのか?」
「単に老い衰えるのが嫌なだけ。と委員会はみていますが……」そうだった。女性は何時迄も若く見られたい生き物だった。ウチのお袋も鏡台にやたらとコスメを置いていて、塗りまくっている。
「不老、ね」
「はい。取り込んだ魔素が肉体を活性化するそうです」アリスによれば、尋常でない量を取り込んでいるのだそうだ。
「つまりは魔法少女が存在するだけで世界から魔素が失われていく。そして失った魔素を回復する手段は今の所は皆無。という事か」アリスはその通りですと頷いた。
「マスター魔法少女反応が近付いてきます」
「なに? 別な奴か?」
「はい。えーっと、薄いピンクでフリル付きのワンピースを着た少女ですね」
「あいつか……」アリスが指摘したもう一人の魔法少女は、監視台にいる魔法少女に飲み物を差し出しそれを受け取る。表情や仕草からとても仲の良い姉妹に見える。
「黒猫のヤツめ。魔法少女が二人居る事は言ってたが、親しい間柄とは聞いてないぞ」これでは二人いっぺんに相手をする可能性が高い。
「参ったな……」アリスの強さは折り紙付きだ。しかし、問題はオレだ。魔法少女に変身出来る様になったとはいえ、戦いに関してはど素人だ。能力も把握している訳ではなく、戦闘が始まればアリスの足を引っ張りかねない。
「でしたら、後を付けて一人になった所を狙いましょう」
「それしかなさそうだな……」今回は前回よりも長期戦になりそうでため息を吐いた。
☆ ☆ ☆
日が暮れて仕事を終えたライフセイバー魔法少女は、見せブラを着けてワイシャツのボタンを止めずに腰で結び、ショートパンツ姿でネオンが灯る街中をもう一人の魔法少女と談笑しながら歩いている。
そのもう一人の魔法少女は、胸に小さなリボンがついたノースリーブの真っ白なワンピースを腰の部分でベルトをキュッと締めている。前者はワイルドな美人系。後者は清楚なお嬢様系のコーデ。うむ、どっちも可愛い。
「どうやらあの店で食事をする様ですね」アリスが差した指の先には、黄色でMを象った看板が置かれ、皮膚呼吸は大丈夫か? と思うくらいに白粉を塗りたくった道化師が微笑んでいるお店があった。
「マ◯クかよ……」マッキント◯シュじゃなくてマッ◯である。
「如何しますか?」
「うーん。そうだな……」監視しているのを気付かれない様にビーチでしこたま飲み食いしたからな。腹は減ってないんだが……
「そうだな、オレ達も入ろうか」
「はい」何故か嬉しそうに頷くアリス。よくよく考えてみれば、彼女役のアリスと一緒なんだからぼーっと突っ立っていたら逆に目立つか。現に今も周りからの視線が彼女に注がれている。こんな奴の何処が良いんだ。という悪態まで聞こえてきそうだ。
店内は丁度時間帯なのかそこそこお客が入っていた。魔法少女達は商品を受け取った後二階へ上がり、窓際のカウンター席に座る。オレとアリスはドリンクを頼んで離れた場所にある内側のテーブル席に座る。
「何を話しているんだろうな?」バニラを凍らせてミキサーにかけた飲み物をズズズと啜る。見れば清楚系魔法少女は最初に手にしたポテトをチビチビとやりながら、美人系魔法少女と談笑をしていた。
「取るに足らない話ですよ。今日は何人にナンパされたとか、昨日は酔っ払いに絡まれたとか……」確かに取るに足らない話だな。ってか。
「聞こえるのか?」飯どきでそこそこの喧騒だというのに。
「はい。感度を上げれば人の十倍くらいの聴力になりますから」犬かよ。
「あ、でも。これは有益な情報ですね」アリスが言うには一週間後に給料日になるそうだ。
「高跳びするつもりか……?」
「そういう話はしていませんが、可能性はありますね」海外にでも行かれてその後をノコノコと付いて行った日にゃ流石に尾行がバレるだろう。
「なら、それまでに決着をつけないとな」
「そうですね」清楚系魔法少女が二本目のポテトをチビチビとやりながら、彼女達の話は際限なく続いていく。
時計の短い針が上へと近付くにつれ、お客もまばらになってきた。話に夢中な彼女達が出るまで待っていては流石に怪しまれる為、路地裏にて出て来るのを待つ事にした。
☆ ☆ ☆
◯ックを出て、清楚系が美人系と腕を組みながら、何処かへと歩いて行く。途中、チャラ男共が何組も声をかけるもその尽くが玉砕して悪態を吐いていく。中には強引な手段を取ろうとしたチャラ男が美人系に投げ飛ばされたりもしていた。
「ったく、閉店まで居座んなよな」二十四時間営業でなかったのは助かったが、それでも二時間近くは立ちんぼだ。時々立ち止まりふくらはぎを揉みしだく。
「マッサージをしましょうか?」
「それは有難いけど。力加減とか大丈夫?」
「はい、それは勿論です。最適なマッサージのやり方を委員会からダウンロードしてますから」それが心配なんだよ。データが委員会製だから。
これがアリスのおっぱいだったならどれほど心躍るのだろうと想像しながら揉みしだいていると、心躍るたわわな実りが目の前に垂れ下がる。うむ。双丘渓谷は夜景も素晴らしい。
「マスター。彼女達の高度が上がっています」
「え?! まさか気付かれたのか!?」彼女達とは百五十メートルほども離れていた。にもかかわらず、こちらの存在に気が付いたという事に驚きを隠せない。
アリスのマジカル探知(そういう名前らしい)は最大で二百メートル。それでも気付かれるとなると尾行するのは不可能になる。
「いえ。どうやらそうではない様です」
「どういう事だ?」アリスに案内されて路地を進んだ先には、二階建てのアパートが建っていた。




