魔法少女捕縛編 十二、合体技。
マジスマホでトゥランの情報を確認していると、役目を終えた瑞稀が慌ててオレの元へとやって来る。
「浩司、大変よ!」
「どうしたの?」
「街の中心部に大きな穴が開いてて、そこから魔獣が溢れ出しているの!」
「何ですって!?」
瑞稀に案内されて登ったビルの屋上から、その様子が手に取るようにわかる。
片側四車線はありそうな大きな交差点のど真ん中に、半球体状の漆黒の闇がわだかまり、そこから一匹、また一匹と魔獣が這い出てくるのが見える。早急な対策が必要と思えた。
「ね? アレをどうにかしないと、キリがないわ」
「周囲のビルをぶっ倒して瓦礫の下敷きにすれば、良いんじゃねぇのか?」
紫苑がそう提案をする。けれどおれは別な手を選択した。
「アリス、紫苑、瑞稀。私に魔獣を近づけさせないでくれる?」
「何をなさるおつもりですか、マスター?」
「穴を塞ぐのよ」
「「はい?」」
揃って首を傾げる二人に和まされながら、オレは「頼む」と三人に告げる。
「オーケー、了解だ」
手の平に拳をパシッ、と合わせる紫苑。
「お任せくださいマスター」
自信満々で応えるアリス。
「わ、私だって頑張るよっ!」
アリスに負けじと瑞稀は言う。頼もしい女の子たちだ。
魔獣に向かって臆さず立ち向かっていく女の子を見送りながら、オレはマジスマホを手に取った。
「マジカルチェンジ、トゥラン!」
先ほど手に入れた新しい魔法少女にチェンジする。
オレの声に応えて、コスチュームが風を使役するアエラスからトゥランへと変わっていく。
黄色の髪は三つ編みからストレートのロングヘアとなり、布面積の少なかった際どいブラは、赤いドレスのような服に変わっている。――が、ボトムだけはTバックのままだった。
ちょっとばかしお尻に羞恥を感じながら、マジスマホの新機能を使って、二人の魔法少女を呼び出す。
「マジカルコール! シャーマ、アエラス!」
呼びかけに応じて二人の魔法少女が姿を現す。
「なんだ、面倒ごとか?」
「え、なになに? なんなの!?」
再度呼び出されたことでシャーマは状況を即座に理解し、アエラスはただおろおろとしているだけだった。
「二人とも手を貸して。奴らを止めるわよ」
オレの指が差す方向を見る二人は驚く。
「魔獣だと!? ホールから湧き出てやがるのか?!」
「なななな……」
シャーマは目を剥いて驚き、アエラスはなにやら「な」を連発していた。
「三人であの穴を塞ぐわよ!」
「オッケー、やってやるぜ!」
「え? ……あ、はいっ!」
オレはシャーマとアエラスと手を繋ぎ、二人はそれぞれと手を繋いで円陣を組む。頭の中に浮かぶ呪文をなぞるように唱えた。
「「「天空を駆ける数多の星々のひとかけよ。私たちの願い、私たちの祈りを聞き届け給え……」」」
メテオフォールの呪文。この詠唱は非常に長く、中断されると始めから唱え直しとなる。だから、三人には魔獣に邪魔をされないように頼んだ。
彼女たちは見事にその役目を果たしてくれている。けれど、絹を裂いたような悲鳴が、呪文を中断しかけた。
「キャアッ!」
「ッ!」
「なんなのコイツ!」
チラリと視線を向けると、穴の中から特大の獣が湧き出していた。これも魔獣だというのか!? まるで北欧神話に出てくる狼。フェンリルと瓜二つじゃないか。
「ウォォォォン!」
そのフェンリルが空に向けて吠えると、声が衝撃波となりオレ達を襲う。クソッ! なんて声を出しやがる。危うく詠唱が中断される所だった。
アリス達はフェンリルに果敢に向かうも、他の魔獣達の邪魔もあって攻めあぐねていた。その上、フェンリルは他の魔獣とは違い、かなり強いようだ。
その攻撃を受ける度、彼女達の衣装がはだけていく。くそ、取り乱すなオレ。集中、集中っ!
『おい、まだか! こっちはもう保たないっ』
『浩司、私もう…』
『マスター、私たちだけでは抑えきれませんっ』
紫苑、瑞稀、アリスからの通信が入る。呪文の詠唱を続けているオレはそれに応えることができない。だがそれも、完了した。あとは力ある言葉を解放するだけだ。
オレはシャーマとアエラスに頷き、その言葉を解放する。
「「「メテオ・ドライヴァー!」」」
空に漆黒の穴が開いた。その先に見える星々の光は瞬かない代わりに、高熱を放つ赤色の岩の塊を吐き出した。
距離があってもなお、チリチリと肌を焼くその岩石は、フェンリルに向かって真っ直ぐに落ちていく。地面に近付くほどに強風が吹き荒れて、周囲にある車やバスがおもちゃのように転がった。
このまま落下させたらこの一帯も消し飛ぶだろう。そうなる前に風の魔法を使って落下速度を制御し、フェンリル諸共『ホール』を塞ぐことができた。
シャーマとアエラスにハイタッチをする。二人はそれを迎え入れてくれた。
「――やったね」
「お疲れさん」
「そっちもね」
空に向かって、ふう、と息を吐き出す。ひと仕事やり終えた気分でいると、何者かによって後頭部を殴打された。
衝撃でよろけるオレ。何事かと振り返ると、焦げかけた魔法少女が三人。鬼のような形相でオレを睨みつけていた。
「バカやろうっ! 死ぬとこだったじゃねーかっ!」
「そうよ! あらかじめ言って欲しかったわっ!」
「マスター、流石に私も肝を冷やしました」
やば。三人とも激おこぷんぷん丸だ。オレはこの時初めて、同性にてへぺろが通じないことを知った。
「……? 瑞稀?」
いつの間にかそばにいて、オレの腕をキュッと掴む。
「浩司。この人たちは……?」
「ん? ああ。彼女がシャーマ。炎の魔法少女。そしてこっちがアエラス。風の魔法少女だ」
「よろしくな。えーっと?」
「レイだ」
紫苑が手を差し出し、シャーマとガッチリと握手を交わす。
「わ、私はワトゥラ」
一方で、警戒の色を濃く出しながら瑞稀はそう言った。この子は一体どうしたのだというんだ?
「私はアリス。マスターの忠実なるしもべです」
アリスがそう答えると、オレの腕を抱く瑞稀の力がキュッと増した。ちょ、瑞稀さん? 痛いんですけど。
「――ん? どうしたの? アエラス」
ぷう、とリスのように頬を膨らませてオレを見つめるアエラス。
「なんでそんなに親しげなんですか?! このひとは委員会の手先なんですよ!?」
オレに指を差してそう訴えるアエラス。
「何を言ってんだ。戦って負けたのなら、従うのが道理ってもんだ」
「私は騙し討ちされたんです」
シャーマにアエラスは再びぷう、と頬を膨らます。まあ、確かに。シャーマには運良く勝てたが、アエラスは魔法少女に変身したオレが、隙を突いて封じ込めただけだ。
――と、時間切れか。トゥランの姿から元に戻る。突き出たおっぱいは引っ込んで絶壁と化し、家出していた息子は無事に帰還する。
その様子を見ていたアエラスが、指を差したままで目を剥いた。
「あ、あんた。お、おっ、うぉとこだったのっ?!」
驚くアエラス。そういや、魔法少女の姿で接近してたんだっけ。ってことは、男の姿は初お目見えか。
「浩司だ。改めてよろしくな。アエラス」
差し出した手を払い退けるアエラス。
「馴れ馴れしくしないで、さっきは手伝ったけど、私はあなたのことを許したわけじゃないのよ」
「ああ、そうかい」
オレはスマホを操作して、アエラスを再び封じ込める。アエラスは「ちょ、まっ」と言葉を残し、スマホの中へと消えていった。
「全く、やかましいにもほどがあんだろ」
「――浩司」
「ん?」
「ひどい」
オレの腕を掴む瑞稀が言う。あっれ。瑞稀はオレの味方じゃないの?
「こんなやつに負けたとはね」
そう呟いて頭を掻くシャーマ。
「んで? あれどうするつもりなんだ?」
シャーマは街の真ん中にデデデン、とそびえる巨大な岩の塊に親指を差した。
「どうもしないさ。退かせば「ホール」が剥き出しになるし、このまま置いておくしかないだろ?」
「それもそうか」
「事後処理は委員会に任せることにするさ」
オレの仕事は魔法少女を捕まえることだしな。
ま、シヅオカの街に新たな観光名所ができて、黒猫も喜ぶだろう。
☆ ☆ ☆
それから数日が過ぎ、街の有り様と新たな観光名所を前に、涙目で関係各所への連絡に追われる黒猫を見捨て、オレたちはキョウトゥの街に足を踏み入れた。
オレの世界では、悠久の歴史を感じる古都として有名な京都だが、こちらの世界でもその辺はあまり変わらないらしい。
だがしかし、微妙なところで微妙に違うのがこの世界のクオリティだ。
例えば、駅の出入り口にある観光案内の看板には、渡月橋ならぬ月渡橋なる橋の写真が載っていたり、円山公園には鹿が大量発生している写真が貼ってある。
そして、平城であるはずの二条城には、名古屋城のようにシャチホコが乗った立派な城となっていた。
「これからどうなさるのですか、マスター?」右隣を歩くアリスが聞いてくる。
「そうだな。ひとまずどこか泊まれる場所を探すとするか」
そこを拠点として、この街にいるという魔法少女を探し出す。すると、左隣ではい、と元気よく手をあげる女の子がいた。瑞稀だ。
「私、ホンノウジに泊まりたいっ!」
「と、泊まれんの?」あそこはただのお寺じゃなかったか?
「うん。知る人ぞ知る。高級旅館なの」
「こ、高級旅館……」
「一見さんお断りの宿だよ」妙なところでお断りすんだな。普通、舞妓さんのお店じゃないのか? それ。
「ま、委員会の使いなら泊まれるんだろ?」紫苑が頭の後ろで腕を組みながら言う。しかし視線は泊まりたいと泳いでいた。
「行けるの?」オレはアリスに問う。
「お待ちください。聞いてみます」
アリスはこめかみに指を当てて空を見上げている。どこかと通信でもしているのか?
「確認が取れました」
「おお……」泊まれるのか? その一見さんお断りの高級旅館とやらに。
「それにつきましては、プロフェッサーが自ら交渉するそうです」
「……え? プロフェッサー?」一体誰のことだろう、と思っていると、オレの肩にズシリとした重みが乗っかった。
「私のことだにゃ」
「く、黒猫っ?!」
そこにいたのは、シヅオカで見捨ててきたはずの黒猫だった。




