魔法少女捕縛編 十一、魔獣、再び。
「なんだ、これは……」
街が燃えていた。カマクラからキョウトへと向かう途中で、急停車した新幹線から車内アナウンスに従って列車を降りたオレたちの眼前には、紅蓮の炎に包まれた街並みがあった。
「シヅオカが燃えている……」オレの腕にしがみつきながら瑞稀が呟いた。
「クソッ! 一体誰の仕業だ!」紫苑は苛立ちを口に出す。
ビルとビルのわずかな隙間。紅蓮の炎の手前に黒い何かが横切ったのを見つけた。
「あれは、何だ?」
「え? どれ?」
「ホラ、あそこ」オレがソレに向かって指を差すと、アリスに瑞稀、紫苑が揃ってその方向を見る。
「あの黒いのだ」オレがそう言うと、腕にしがみついている瑞稀が震え出した。
「魔獣……」
「えっ?! あれがそうなのか!?」
かつて、この世界を滅ぼす寸前にまで追い込んだ獣。その姿は漆黒に染まっている。「獣」と呼ばれるように四足歩行型が大多数を占めている。中には二足歩行しているのもいた。
「バカな! 奴らはとうの昔に滅ぼしたはずだ! 新たなゲートが開いたとでもいうのか……」
ギリ、と奥歯を噛み締める紫苑。悪夢の再来とでも思っているのかもしれない。
「アリス! 紫苑っ! あいつらを駆逐して街の住民を護ってくれ!」
「はいっ、マスター!」
「呼び捨てにするんじゃねぇっ! お前に言われるまでもねぇよ!」
二人の身体が淡く輝き、瞬時に変身を終えると、それぞれ街に突入して行った。
オレは腕にしがみついている瑞稀の頬に手を添える。
「瑞稀。炎の消火を頼めないか……?」
小刻みに震えていることから、奴らに対して恐怖を感じているのだろう。けれど、これは水を操ることの出来る瑞稀にしか頼めない。
アリスはファンタジーゲームでいうところの無属性。そして紫苑は雷属性だ。この二人では火を消すことが出来ない。
瑞稀は視線をオレの方へと向ける。そして、両手でオレの顔を掴んで引き寄せ、そして唇を重ねる。
「頼めないか。じゃなくて、やれ。でいいよ」
微笑み、ウィンクをする瑞稀。不謹慎ながら、オレのハートがキュンとなった。
「それじゃ、行ってくるね」
身体が淡く輝き、変身を終えた瑞稀もまた街の中に消えていく。何とも頼もしい女の子だ。さてと、んじゃ俺も行くか!
「マジカルタップ! アエラス!」
スマホの画面に表示されているアエラスの顔をタップし、全身表示に切り替える。
「スワイプ!」
アエラスの全身表示はスマホの枠を越え、時計回りに俺の背後に表示される。枠は俺にゆっくりと近付き俺と重なると、アエラスの力を行使できる魔法少女へと変身を果たす。
「おいで! ヨウシュ!」
使い魔であるカマイタチのヨウシュを呼び出し、近場に居た魔獣を指差して攻撃の命令を下す。
ヨウシュは高速で動き回り、たちまちのうちに魔獣を駆逐してゆく。ヨウシュの攻撃で絶命した魔獣は霧散し消滅する。俺は、生存者救助と魔獣殲滅の為に、街へと足を踏み入れた。
◆
街の中は思っていた以上に酷い有様だった。倒壊した建物、ひっくり返った車などがあちこちにある。勿論、人もだ。焦げたモノや食い散らかされたモノが転がっている。その数が尋常じゃない。
街の中心に近付く度、魔獣の密度が増え停滞を余儀なくされる。一撃で駆逐出来るといっても、数で攻められたら後退するしかない。そうして一進一退を繰り返していると、瑞稀の歌声が何処からともなく風に乗って聞こえてきた。
彼女は大きな技を使う場合、歌を詠唱として発動させる。その間、隙だらけになるのだが、見れば側に紫苑が寄り添い、迫り来る魔獣を蹴散らしている。これなら大丈夫そうだな。
それにしても、一体どれだけ入り込んでいるんだ? キリがない。倒しても倒しても、後から後から湧いてくる。持久力が無い俺にとって厄介な状態だ。
案の定、召喚していたヨウシュの姿が掻き消え、俺は元の姿に戻る。時間切れ!? ヤバイ! そう思った時、聞き覚えのある声が何処からか聞こえてきた。ホント毎度良いタイミングだな。
「猫ビィィィムッ!」
俺を取り囲み、襲いかかろうとしていた魔獣達が、声と共に放たれた光の帯によって焼き尽くされた。
「黒猫!」
「魔獣相手に随分苦労してるようだにゃ」
高台から俺の側にストンと着地した黒猫は、やれやれといった風だ。魔獣なんて初めて相対するんだから仕方ないだろうが。
「こいつ等はやっぱり魔獣なのか?」
「そうだにゃ。コイツが魔獣。かつて、この世界を蹂躙した存在達だにゃ」
「手伝ってくれ。今は猫の手も借りたい」
魔獣を一瞬で焼き尽くしたあの力があれば、戦力として申し分ない。
「それはキミ達に任せるにゃ」
「無茶言うな。今日はもう変身出来ないし、それにこのままだと世界が滅ぶぞ」
瑞稀は消火の為の歌を継続中だし、アリスと紫苑だけでは、魔獣の駆除は出来るだろうが、被害の拡大を防ぐ事は出来そうにない。
「申し訳にゃいが、我ら委員会はあまり干渉出来ないにゃ。代わりに、プレートをヴァージョンアップさせてあげるにゃ」
「ヴァージョンアップだと?」
「そうだにゃ。これで変身時間は一時間に延びて、使用していない魔法少女を呼び出して使役できるにゃ」
おお! 良ヴァージョンアップではないか! これで……
「これで夜のお楽しみも増えるってもんだにゃ。通常ルートも百合ルートもバッチリ対応だにゃ!」
マテヤオイ。お前等はソッチ系にしか頭が回らんのか?
だがこれで変身していない状態でも呼び出せる。変身時間のチャージ中のオレでも足手纏いにならなくなるというものだ。
黒猫は地面に置いたスマホに向かって、前足を器用に動かしている。その動きがただの猫ではない。これ、動画にアップしたらそれなりにバズるんじゃないだろうか?
「よし、これでオーケーだにゃ」
今まで弄っていたスマホを前足でついっと前へと突き出した。
「ついでに使用時間もリセットしといたにゃ」
「おお! そいつは有り難い!」
「それじゃ。今晩も楽しんでくれにゃ」
やかましい。だが、楽しむのは置いておいて、有り難く使わせてもらおう!
「マジカルタップ、アエラス。スワイプ!」
使い方は既にプレートからオレの頭の中に送られている。
「風の神、ヴァーユに嘆願す。その力の一欠片を我に貸し与え、彼の者達を惹く風を起こし給え」
魔力による奔流が、腰にまで届く俺の髪を空へと持ち上げる。
「バキュームトルネード!」
力ある言葉を解き放つと、視界内にいた魔獣達が俺の生み出した竜巻に吸い寄せられていく。端末がヴァージョンアップした事で、強力な魔法の行使が出来るようになった。そして――
「マジカルコール、シャーマ!」
スマホに表示されているシャーマの顔画像をそのまま左にスワイプさせると、シャーマの顔画像はスマホの枠を超えてその姿が具現化する。これが新しく追加された機能だ。
「オーケー。じゃあ、とっとと終わらすよっ!」
「いくわよシャーマ!」
呼び出したシャーマと向かい合い、お互いの手を合わせ目を閉じる。そして、力ある言葉を紡ぎ始める。
「「火の神、風の神、我等の願い聞き届け給え! 共に力もて我等に仇なす彼の者を焼き尽くせ! フレイムストーム!」」
放たれた力ある言葉は、ただの竜巻を紅蓮の炎で包み込み、内部に取り込んでいた魔獣達を焼き尽くす。相棒を呼び出す事で使える魔法。TVでよくある友情パワーというヤツである。呪文の詠唱を終えたシャーマは、光の粒子となって消えていった。
そして、それを見越したように、空から大粒の雨が降り出した。瑞稀の呪文が完成したのだろう。この雨ならば、燃え盛る炎の勢いを弱める事が出来そうである。
「うわー。どうなってるの? これ」
背後から聞こえた声に慌てて振り向くと、狐耳がぴょこんと頭に生えた女の子がそこに居た。
その女の子は、三つ編みの黄色い髪を一本に束ね、首には赤いリボンのチョーカー。若干小さめの形の良い胸には、子供の掌サイズの布しか付いてなく、ほとんど見えている。
大事な所だから二回言うぞ。胸が七分に布が三分、胸が七分に布が三分である。お前の方がどうなってるんだ?
瑞稀の雨によって付いた水滴が、水鞠のように肌で弾かれ流れゆき、濡れ濡れの衣装と相まって物凄くエロく感じる。お腹やおへそは丸出しで、オレンジと白のボーダーソックスはお約束の膝上十五センチだ。
「あなた、凄い格好ね」
「ほっといてよ! 私だって気にしてんだから!」
「だってそのボトム、Tバックじゃないのよ」
「い、言わなくてもわかってるわよっ! だからパレオで隠してんじゃん!」
顔を真っ赤に染めてお尻を抑えるが、狐の尻尾がピンと立っていて隠しきれていない。
「まぁ、いいか。それじゃ手伝ってくれる?」
「手伝うって、何をどうすれば?」
「こうするのよ」
突然やってきた魔法少女にプレートを翳すと、その娘は悲鳴を上げながら粒子となってスマホに吸い込まれた。
まったく、飛んで火に入る何とやらだな。えーっと、トゥランか。土を使役する魔法少女ゲット。




