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魔法少女捕獲計画  作者: ネコヅキ
魔法少女捕縛編
10/11

魔法少女捕縛編 十、昨日の敵は、今日の恋人!?

「ヨウシュ。霊剣変化(ブレイドフォーム)」んきゅっ。とひと鳴きしたヨウシュの姿がゆらりと揺らめき一本の剣と化す。

 三日月が剣となった様な形のその剣は、ファンタジーでいう所のショートソードに近く、全長は五十センチか六十センチか。電池が切れかけたサイリウムの様に薄い緑色の光を纏っていた。


真空斬撃(エアリアル・ブレイド)!」淡く光る刃を清楚系に向けて振るう。振るった刃の軌跡が三日月の形を成して清楚系に襲いかかる。着弾と同時に風が起こり、起こった風が砂を巻き込んで内部に捕らわれた者をズタズタに引き裂く。

 けれどこの攻撃は手加減をしている。ズタズタに引き裂かれた女の子なんて見たくはない。美少女ならば尚更だ。

 竜巻の中から清楚系が姿を現す。水着の跡がくっきりと残る陽に焼けた肌には、微塵も傷はついていない。


「水のバリア……」

「あなた、私を舐めてるの?」鬼の様な形相で睨み付ける清楚系。オレは両手の平を上に向けて肩をすくめた。

「そんな事を言っても可愛いあなたを切り刻むなんて残酷な事は出来ないわ」出力を上げる事は可能だ。そうなれば彼女の身は保証できない。オレとしては傷付ける事なく捕らえたい所だ。

「とはいえ、時間が残り少ない……」一日一回三十分。そのタイムリミットが近付いている。変身が解ければ、オレはたちまちのうちにアリスの足枷と成り果ててしまう。


 清楚系の前方がキラリと瞬いた。ゾクリと悪寒が駆け抜けて身を逸らすと、背後の崖がゴガリと爆ぜた。清楚系が最初に見せた技だ。最初の時は腕を振ってから飛んで来たが今回はなんのリアクションもない。

「ノーモーションでも撃てるのかよ……」ただでさえ時間が無いってのに、より厄介な状況になった。焦って突っ込めばオレは三枚に卸される。どうにかして隙を作りたい所だが……

「待てよ」頭の中にとあるプランが閃いた。一か八かの賭けではあるものの、時間もないし最後の悪あがき。これが通用しなければオレ達の負けだ。


「はあっ!」手にしている剣を振り上げて、真空の刃を清楚系に向かって打ち出す。

「効かないって言ってるでしょ!」清楚系は水のバリアを張ってこれを防ぐと同時に砂埃が舞って周囲を覆い尽くした。

「全く。学習能力が無い人ね。小学校からやり直した方が良いわよ」

「くすっ。前と同じな訳が無いでしょ?」

「えっ?!」動揺する清楚系。その視線がオレの体の隅々を観察する。そうして視線を釘付けにさせておいて、オレはある言葉を放った。

「ヨウシュ! 剣化解除(ビーストフォーム)!」オレの声に応え、剣化していたヨウシュが元の姿に戻るその際、『うきゅっ』と可愛く鳴いた。


「何っ!?」鳴いたヨウシュの声に反応して、背後を見る清楚系。直後、ビタン。と、音が聞こえて来そうな勢いで、ヨウシュは清楚系の顔に張り付いた。秘技、もふもふアタックだ。この攻撃にはどんな女子も抗えない威力を持っている。

「今だ!」清楚系に向けて走り出す。この隙を逃しては勝機はない。道半ばで顔に張り付いたヨウシュを引っぺがした清楚系。引き剥がされたヨウシュはその姿が煙となって消える。

 そして、オレへと向き直った清楚系の手首を取って動きを制限し、そして――

「お、おと……ンッ?!」ぷるんとした唇にオレの唇を押し付ける。大きく見開かれた清楚系の目の中に、()のオレの目が映り込んでいた。

 ポケットからスマホを取り出す。この機を逃しては二度とチャンスは訪れないだろう。変身を解いたオレ(・・・・・・・・)を見て怯んでいる今ならば、捕獲する……

「があっ!」背中に激痛が走った。何かが焼けた様な焦げ臭い匂いの中、オレの意識は暗闇に包まれた。


 ◆


 目を覚ますと今にも泣きそうな顔をしたアリスが映った。


「マスターっ」

「負けたんだな……」オレの呟きにアリスはコクリと頷いた。

「まさか男だったとはな……。覚悟はいいか?」美人系の手の平に紫色をした雷の球が生まれ出る。それはオレの命を消すほどの威力が込められていると見た目でわかる。

「待ってくれ」

「何だ? 命乞いか? だが残念だったな。二人仲良く死ね」

「待って!」美人系が雷の球を天に掲げ、オレとアリスに向かって放とうとした時、清楚系が待ったをかけた。

瑞稀(みずき)、何故止める? こいつらは委員会の手先。私たちの平穏を邪魔する者たちだぞ」

「わかっているわ紫苑(しおん)。だから、私に任せて欲しいの」……確かこいつは水の魔法少女だったな。


 そう思ってオレはゾッとした。極薄の水の刃で切り刻まれる。もしくは溺死させられる未来が頭に浮かんだからだ。


「ルミナス・ウォータージェイル!」瑞稀と呼ばれた清楚系が天に向かって手を掲げると、海面が盛り上がって中から水のロープが現れる。それがオレとアリスの身体の自由を奪った。

「ね? お願い」紫苑と呼ばれた美人系はギュッと目を瞑って瑞稀の願いに頷いた。

「わかった。いつもの場所で待ってる」

「うん。すぐ行く」瑞稀の言葉に紫苑は頷き、自身はオレたちに背を向けて大きく飛ぶ。岩場の上からこちらを一瞥した紫苑は、何も言わずに岩場の向こうへと消えていった――



 ☆ ☆ ☆



 どうしてこうなった。オレは頭を抱えてテーブルに突っ伏していた。


 あれから三日が経ち、オレたちは今、小洒落たカフェテラスでお茶をしている。右隣にはいつもの如くアリスが腰を落ち着けている。だが、左隣には――

「このケーキ美味しいよ。浩司も食べて」銀色の小さなフォークに突き刺したケーキを差し出す女の子。――瑞稀がソコにいた。


「あっ、ずるいですよ瑞稀さんっ!」そう言ったアリスは、自分の目の前にあるケーキを切り分けてオレへと突き出す。ちょ、大きくない?


「はいマスター、あーーん……」あーん……


「どうですか?」うん美味しい。オレはそう言うのと引き換えに、親指を立てて見せる。それをジト目で見つめる存在が対面にいた。紫苑と呼ばれた女性だ。


「何だよ……?」

「別に……」あきれ顔でそっぽを向く紫苑。


「混ざりたいなら素直にそう言えよな」軽い冗談のつもりでそう言った直後、紫苑がオレに向かって指を差すと、頭の中に激痛が走った。


「冗談も大概にしておけよ? 今この場で、その頭をスイカのように破裂させてもいいんだからな?」指を動かすと激痛が増す。オレの意識が飛びそうになった直前で、激痛から解放された。見れば、瑞稀の手が紫苑の指を押さえている。


「止めて」

「瑞稀……わかったよ」ふん、と鼻息を吐いて足を組み、そっぽを向く紫苑。


「それで、負けたオレたちを殺さないのは何故だ?」

「それは瑞稀に聞いてくれ。瑞稀がそう言うもんでな……」視線を紫苑から瑞稀へと移す。途端、瑞稀は恥ずかしそうにモジモジし始めた。


「………………その」長い沈黙の後、瑞稀はギュッと目を閉じてから口を開いた。


「初めてだったの……」

「え……何が?」

「…………き、キス」瑞稀の日焼けした顔がみるみるうちに赤くなる。


「だから、せきにんっ。取ってくださいねっ!」耳まで真っ赤になった瑞稀。かわいい……


「いや、ちょっと待て。あんた達恋人関係じゃないんか?!」だって、アパートであっはんうっふんしてただろう!?


「なんだ? 恋人関係って……?」

「だからぁ、アパートで乳繰りあってただろうって」アリスの抑揚のない言葉経由だったが、そうとしか言えない行為が行われていたはずだ。

「お前、盗聴とか最低だぞ」ごもっとも。あ、瑞稀がちょっと引いてる。


「浩司、そんなことしてたの?」

「あ、いや。お前達を捕まえるために探りを入れてただけ……」じーっと真っ直ぐにオレを見つめる瑞稀。ぷっ、と吹き出す。


「あれはね、マッサージをしてただけだよ」

「ま、マッサージ!?」

「そ。浩司にもしてあげるね」そう言って瑞稀は立ち上がり、オレの肩を揉み始める。なかなかに気持ち良い。


「男の子って、そんなことばかり考えてるの?」

「いや、その……」いつもじゃなくて八割がたです。

「だから言ったろ? 男なんて魔獣よりタチの悪い獣だってよ」嘲笑して毒舌を吐く紫苑。


「男に対して当たりがキツイくないか? 紫苑……さん」ギロリと睨まれてオレは言葉に詰まる。


「男なんて碌でもないことを知っているからな。特に、委員会なんて狂人の集まりにはな」

「……どうして委員会を目の敵にするんだ?」

「お前、何も知らないのか?」

「ああ。オレは、他のせかい……」そこまで言って、思わず言葉を飲み込む。


「他のせかい?」

「ここじゃない他の世界から来たんだよ! だから、この世界のことなんか何も知らないんだ。ただ、魔法少女を捕まえろとしかな」

「それで委員会の言いなりってわけなのか……」

「ああ。オレが元の世界に戻るためには魔素が必要。だけど、その魔素をお前たち魔法少女が吸い取ってしまって枯渇寸前。だからオレはお前たちを捕獲しているんだ」そう言った直後、紫苑は空へ向かって笑い飛ばす。


「はははっ! 実におめでたいヤツだ!」

「笑うな! お前たちのせいで魔素が枯渇し、死にゆく世界と共に心中するか、元の世界に戻るためにお前たちを捕らえるか。そんな二択を迫られたなら後者を選ぶのが普通だろう!?」

「オレたちにはそんな選択肢なんてものはなかった!」拳でテーブルを強く叩いた紫苑。


「選択肢がない……?」

「そうさ、魔獣から世界を救う。そのためにオレたちは攫われて強制的に魔法少女にされた! 瑞稀もそうだ! 突然、魔法少女にされて壁の外へ放り出されたんだぞ!?」叩きつけた拳を血が滲むほどに握る紫苑。


「力の使い方も碌にわからない中、襲い来る魔獣たちと必死になって戦った。その時、瑞稀はまだ七歳の子供だった。死んでこいと言ってるようなもんさ」

「もういいよ。紫苑。昔の事だから……」


 そう言う瑞稀の目は涙で溢れ、頬を伝い流れた。その当時の事を思い出しているのだろう。自らの肩を抱き、小刻みに震えている。それを見た紫苑は瑞稀の肩を抱きソッと引き寄せた。


「その時オレは決めた。何があっても、何をしても瑞稀をずっと守っていこうとな」そうか。瑞稀に対しての感情が異常なのはそういうことなのか。


「でも、このままでは世界が崩壊するんだぞ?」

「それは委員会のヤツが言ったのか?」

「ああ、そうだ。委員会に投降し、力を返還すれば、追われることもなく二人で過ごすことができるだろう?」そうすれば、世界の崩壊は防げ、二人は平穏に過ごすことができ、オレも元の世界に戻れる。一石三鳥じゃないか。


「ホント、おめでたいヤツだよお前は」

「何だと!?」

「力を返還した魔法少女が、普通に生活をしているなんて聞いたことがない」

「だが、実際に彼女のモデルとなった女性が元魔法少女だと言っていたぞ」オレはアリスに向かって手で差した。確か、清水優姫さんだったか?


「魔法少女は四万人も居たんだぞ? 戦友の顔くらいはそれなりに覚えているさ。その誰も見かけないなんてことがあると思うのか?」

「よ、四万人だって!?」

「そうさ。オレのシリアルナンバーは四万三千百二十一。瑞稀は四万三千百二十二だ。つまり、それだけの数が居たってことだ。その誰も見ないなんてことがあると思うのか?」


 委員会は片っ端から少女を魔法少女に変えていたのか? どんだけ無計画なんだ。それとも、そうしないとならない程、切羽詰まっていたのか……


「だから、オレは反旗を翻した。瑞稀を守る為にな」紫苑は優しげな表情で瑞稀の頭を撫でる。瑞稀は気持ち良さそうにされるがまま身を任せていた。



 ☆ ☆ ☆



 ――夜。ホテルの部屋を抜け出し、屋上で一人物思いに耽っていると、タイミングよく黒猫がやって来た。


「なあ、黒猫」

「何だにゃ?」

「昼間、紫苑の言っていたことは本当か?」

「続けるのが嫌になったのかにゃ?」

「……本当なんだな?」


 世界を救うためとはいえ、攫った女の子を魔法少女に仕立て上げ、尚且つ力の使い方も碌に説明もしないまま放り出すとか、狂人と言われるわけだな。


「概ね本当だにゃ。けれど、そうしなければ我々は滅びていたにゃ」


 難しい決断だったのだろうな。


「力を返還した魔法少女は極秘扱いにゃ。記憶を消されるけど、普通に生活しているにゃ。キミが会った清水優姫のように委員会で働く者も沢山いるのにゃ」

「そうか。オレが捕まえた魔法少女も、普通の生活に戻ることができるんだな?」

「そこは保証するにゃ」


 この肉球にかけて。黒猫はそんなことを言ったが、信用できねぇな。だが、オレが元の世界に戻るためにはやるしかない。


「そうか。それじゃちと、聞きたいことがあるんだが――」


 こうして黒猫との密会は続き、聞くべき事を聞いたオレは屋上を後にした。


 ◆


 部屋に戻ると瑞稀が変身してみせて。と、しつこく迫ってくるので、仕方なく変身を見せてやる事にした。テンションアゲアゲでやらないといけないから、人前でやるのは恥ずかしいんだが……


「マジカルタップ。シャーマ!」


 まずは、黒色スマホの画面に触れ、変身したい魔法少女の顔写真表示を全身表示に切り替える。


「スワイプ!」


 表示されている魔法少女の全身表示を左から右に向かって指でなぞると、スマホの枠を超え実体化した画面の枠が時計回りにオレの背後に回り込む。


 両腕を水平に上げ、十字架のような格好のままで目を閉じているシャーマの画像が、ゆっくりと俺に近付き重なると、俺の髪は赤く染まり腰にまで届くポニーテールとなる。


 胸が膨らんで腰はギュッと引き締められ、俺の息子は何処かへ消え去りお尻が突き出される。


 脚には白いヒールブーツが履かされ、白地のレオタードには赤いファイヤーパターンの飾り布が着けられ、手には白い手袋を着けて変身が完了する。この間、〇・一秒である。


 まんまシャーマに変身するわけではなく、シャーマの力が行使できる別な魔法少女に変身するのだ。


「わ。ホントに女の子だ」

「アンッ」


 瑞稀が胸の敏感な所を触った為、中枢神経に刺激が走りビクリと身体が反応して声が漏れた。紫苑も物珍しげに、オレの全身を舐め回すように見つめている。


「あの……もういい?」


 この姿になると、女言葉になってしまうのが困りものだ。元に戻ってもたまに出てしまう。瑞稀は「ダメー」と言いながらオレの胸に飛び込み、ハリのあるオッパイに顔を埋める。


「へぇ。面白いもんだな」


 繁々と眺めていた紫苑の口角が釣り上がる。


 イヤ、お前。その顔は面白いを軽く超えてるぞ。アリスはアリスで、「一緒にお風呂で洗いっこしましょう」とか言ってるしな。そんな状態で元に戻ったら、オレの悪魔が猛り狂うこと間違いなしだ。結局、変身が解けるまで、瑞稀と紫苑のオモチャにされた。


 ◆


 翌日、オレ達はキョウトに向かう列車の中に居た。だが……


「なんだ……これは?」


 街が燃えていた。乗っていた列車が急停止し、何事かと列車から降りたオレ達の眼前には、紅蓮の炎に包まれている街があった。

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