第5話
古賀さん…
視線が痛い・・・(会社でお姫様だっこなんてされていたら当たり前なのだが)
「・・・」
一体何の拷問だ。
秋穂が羞恥心にもだえ死にそうになっているにもかかわらず、自分を抱える男はどこ吹く風だ。
まったく母親の腹の中に羞恥心をまるごと忘れてきたとしか考えられない。
「・・・降ろしてよ。恥ずかしいんだってば」
「逃げるだろ」
「逃げないよ」
朝、彼を放置して逃げ帰った事を根に持っているのか降ろしてくれる気配がない。
だいたい隣にいられたら逃げられるわけないのに。
「ちょっと、まって、荷物」
「あとで届けさせるから問題ない」
何の迷いもない足取りで会社を出て車に乗せられ秋穂は慌てて問う。
「諦めろ、秋穂」
「何を!」
「俺から逃げようとすること自分を偽ることを、だ」
「・・・無理だよ」
「逃げるなら追いかけるぞ。分からないなら分かるまで教えるまでだ」
横暴だ。自分勝手だ。いつの間に社長に根回ししたのだ。など聞きたいことは山ほどある。
「好きだよ、秋穂」
「・・・」
「お人好しなことも、自分に自信がないことも、いろんな事にとらわれて身動き出来ないでいることも、俺はよく知ってる。
けど、お前はそのすべてをひっくるめて俺にとっては最高の女だよ。」
「・・・私・・・自分でも分かってるくらい面倒な女だよ」
「知ってる」
「根暗女・・・」
話す声は徐々に震え、嗚咽まじりのか細い声になっていく。
すると、古賀が落ち着かせるように抱きしめてくれた。
「気にしない」
「好き、私も好き」
口をついて出てきたのは偽らざる本心。
ずっと気づかないようにしてきた秋穂の心の悲鳴だった。
抱きしめる古賀の腕に力がこもり、秋穂も抱きしめ返す。
古賀の唇が秋穂の額、目尻、頬をたどる。
「秋穂」
掠れた声に顔をあげると古賀と視線が絡まる。
それだけで秋穂はまた泣きそうになった。
「好きだよ」
重なった唇はどこまでも甘かった。
秋穂ちゃん捕まっちゃいました。
本当は秋穂ちゃんも古賀か好きだったのです。
ただ、自分に自信もなければ、絡まった想いに動けずにいたのです。
次で秋穂視点は完結です。




