第4話
「・・・」
扉の側に立つ男を見て、秋穂は絶句する。
「・・・なんで」
不機嫌な表情を隠しもせず立っているのは、今朝別れたはずの男・・・
「・・・」
「今朝はよくも逃げてくれたな」
側で囁かれた低い声と言葉に秋穂の体が固まる。
「お久しぶりです、叔父上」
「あぁ、お前も相変わらずだね、裕一」
などと言った会話が頭上で交わされているが、いっこうに頭に入ってこない。
しばらく蛇に睨まれたカエル状態になっていた秋穂だったが、古賀の気がそれている今のうちに逃げなくては、と考えそっと唯一の出入り口である扉に近づく。
「何処へ逃げる気だ?」
「ひっ・・・」
「逃げられると思っているのか」
視線で人が殺せるのではないかと言うほどの視線を向けられ、秋穂の逃亡は呆気なく失敗した。
「深山くん、これが君を秘書に欲しいらしい」
社長が古賀を指差しながら言う。
「・・・」
古賀と仕事?
無理!
こき使われて過労死しちゃうよ。
断ろうと顔をあげた時、視界に入った時計を見て、ふとした疑問が秋穂の脳裏に浮上した。
「社長、本社の専務がいらっしゃるのでは」
「「・・・」」
秋穂の的外れな問いかけに社長と古賀が苦笑する。
「まさかの鈍さだね、深山くん。
目の前にいるでしょ、本社の専務が」
「・・・」
気のせいでなければ、目の前にいるのは古賀である。
「・・・専務?」
「なんだ」
「・・・専務なんですか?ほんとに?」
「ここで嘘をつくほど暇じゃない」
思い出したが、目の前の男の名前は古賀裕一、古賀グループ組織図に載っている専務の名も古賀裕一・・・
「気づかなかった・・・
最悪・・・」
なに?私が私生活の愚痴を散々零してた相手って専務だったのかよ!
ありえない・・・
「私がここの秘書だって知ってましたね」
秋穂は気づかなかったが、あの古賀が秋穂を知らない訳がない。
一体何の目的で秋穂に近づいたのやら。
「確かに、お前が叔父上の秘書だと俺は知っていた。けど、俺がお前に近づいたことに古賀は関係ない。」
「じゃあ何で」
「理由が知りたいなら、秘書になったとみなすから、そのつもりで」
「全然別問題でしょ」
「別問題ねぇ。昨日、嫌になるくらい教えたと思ってたんだが」
そう言うと、古賀はいきなり秋穂の体を抱き上げた。
それも、俗に言うところのお姫様抱っこで・・・
「ちょっ、降ろしてください」
暴れようにも不安定なこの状況ではどうにも出来ない。
「降ろしてってば!」
「では、叔父上、今日付で深山は本社に移動と言うことでよろしくお願いします」
睨んでみるが、綺麗にスルーされ、秋穂の意見を無視しまくった人事が勝手に決められてしまった。
「じゃあ、会社に戻ろうか秋穂」
「私、行かないから!」
叫ぶ秋穂だったが、それを聞き届けるものはここにはおらず、扉は無常にも閉じられた。
古賀、動きました。
秋穂大丈夫かな?




