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紫陽花  作者: 蓮実紫苑
いつか君と
3/23

第2話

「で、ほんとは何があった?」


後ろからかけられたのは聞き慣れた、低くも高くもないが耳に残る声。


「・・・」

(だんま)りか?」

「・・・」

「・・・はぁ」


古賀に背をむけたまま秋穂は無言を貫いた。


「馬鹿だって自覚して、一人で泣くな。これだから根暗女は・・・」

「うるさい」

「俺は間違った事は言ってない。だいたい、お前、俺と朧以外の前では口調すら偽ってるだろ」

「あんたに関係ない」


どうしてこの男は秋穂が気づいてほしくないことにこうも敏感に気づくのか。

むしろ、どうしてそんなことを知っているのか。


「何も知らないくせに・・・」


呟いた言葉は、誰に向けての言葉なのか秋穂にも分からなかった。


「知りたくもないな、俺以外に向けられたお前の感情なんて」

「・・・」

「だいたい、お前のそれは俺からしてみれば恋じゃない」

「・・・そんなこと」

「ない、と胸を張って言えるのか」


そう言われて、言葉が出てこなかった。

恋じゃない・・・

そうなのかもしれない・・・

否、違う、最初は恋だった。

この男に出会うまでは、この想いは恋だと胸を張って言えたはずなのだ。


「・・・」

「図星か」


あきれを含んだ声音に、秋穂は唇を噛む。


「・・・結婚する」

「・・・はぁ?」

「結婚するって言われたの」

「それで落ち込んでると?」


馬鹿なのか、と言わんばかりの口調に今日一日蓄積されていたものが秋穂の中で爆発した。


「落ち込んでる?違うわよ!上司のこともあって私の精神状態もおかしかっただろうけど、むしろ、何の感情もわかなかったのよ。

好きだったわよ、好きだった。私の表に出てこない部分に気づいてくれたから。でも、気づいたときには遅かったの!気づいたときには・・・彼もやっばり、私じゃないあの子を見ていたから・・・だから」

「諦めた?」

「そうなのかもしれない。けど、そうじゃないかもしれない」


最初の勢いが消え失せていた秋穂はいつの間にか間合いを詰めていた古賀に抱きしめられた。

服越しに感じる体温に安心する。


「・・・いつの頃だったか気づいてたの。でも、気づいてないふりをした。

だって、気づいてしまったら、今までの自分を否定するみたいで怖かったから。

でも、本当は分かってるの、あなたの言うとおりだって。恋に、恋してたわけではないけど。私は、ただ、みんなには見えてない私に気づいてくれた、っていう彼のその部分だけにとらわれて恋してるって思ってただけだったって」

「・・・」


今日、弘人と美晴に結婚するという報告を受けた。

正直、会社での上司の事が後を引いていたため一瞬何を言われたのか分からなかった。

再び、同じ事を言われ、ようやく二人が結婚を決めたことを理解した。

けれど、何の感情もわかなかった。

悲しいとか、妹がうらやましい、といった感情(もの)が全くわかなかったのだ。

それどころか、笑顔でおめでとう、っと言えた。


「・・・気づいてたけど、気づいてただけにショックだった・・・ショックだったの」


気づいたらしゃくり上げて泣いていた。


「・・・」

「・・・何か言ったら」

「・・・悪い。言い方が無神経だった」


抱きしめる古賀の腕に力が入った。


「いいよ、古賀さんの言ってることは的を射てるから。ただ、認めるのが怖い私が弱いだけ」

「・・・」

「・・・しばらくこのままでいて」


古賀の腕の中はくやしいけれどやっぱり誰よりも心地よかった。

気づけば秋穂はそのまま古賀の腕に縋っていた。


秋穂、溜まっていたものが爆発しました。

古賀が思わずぶっ込んだ秋穂への言葉は華麗にスルーされました。

古賀ももちろん気づいています。

秋穂ちゃん、他人のことには敏感ですが自分のことは鈍いです。


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