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魔力換金  作者: ぴよぴよ
9/25

第九話 衛兵

ピーッ――。


もう1度、笛が鳴った。さっきより近い。通りの向こうから、金属の擦れる音と複数の足音が近づいてくる。

「やっぱ衛兵か?」


田中はその場を動かなかった。足元には5人の男。落ちた剣、短剣、棍棒。誰がどう見ても、通報されて当然の光景だった。

「逃げたら余計ややこしなるな」


数人の兵士が走ってきて、先頭の男が田中と倒れている面々を見比べる。

《――!》

「分からん」

《――!》


叫びながら田中へ手を向ける兵士に、こちらも根気よく返す。

「せやから分からんって」


他の兵士たちが倒れた男を検め、落ちている武器を拾い上げていく。

《――》

《――》

「......これ、俺がやった側に見えるわな」


田中は両手を見える位置まで上げた。

「抵抗する気ないで」


言葉は届かない。剣へ手を掛けたまま何か指示を出す兵士に、田中は動かず応じた。

「とりあえず大人しくしとこ」


背後から声がした。

《――!》


振り返ると、さっきの店の店主が出てきている。店主が兵士へ何かを話し、倒れている男たちを指差した。それから店を指差し、拳を振る真似をする。

「説明してくれてんのか?」


意味は分からない。店主はさらに田中を指し、殴る動作をしてから首を振った。次に倒れている男を指し、拳を振る。兵士が何か問うと、店主は頷いた。

「多分、俺が先にやったんちゃうって言うてくれてるんやろな」


別の兵士が店へ入り、しばらくして数人の客を連れて戻ってくる。

《――》

《――》

《――》


何人かが倒れている男たちを指す。田中を指す者もいた。

「全然分からん」


やがて兵士の1人が田中へ近づいた。

《――》

「だから分からんて」


困った顔をした兵士が、別の兵士と何か話し合い、田中へ手招きする。

「ついて来いってことか?」


もう1度の手招き。

「まあ、しゃあないか」


田中は歩き出した。倒れていた男たちも起こされる。立てる者は自分で歩かされ、まともに歩けない者は肩を貸されていた。

「結局また衛兵の世話になるんか」


異世界へ来てまだ2日目。町へ入る前にも揉め事。飯を食った後にも揉め事。

「俺から喧嘩売ってへんねんけどな」


兵士に連れられて通りを進む。向かった先は見覚えのある建物だった。

「さっきのとこやん」


門で連れて行かれた、あの詰所だ。中へ入ると、椅子へ座るよう示された。

「はいはい」


倒した男たちは別の場所へ連れていかれる。田中は座って待った。しばらくして兵士が魔道具を持って戻ってくる。

「これで分かるか?」

「分かるで」


ようやく言葉が通じる。

「名前は?」

「田中真司」

「身分を証明できる物はあるか?」

「冒険者証あるで」


収納袋から取り出して渡す。兵士が確認した。

「今日登録したばかりか」

「せや」


顔を上げた兵士が、少し記憶を辿るような表情をした。

「さっきもここへ来なかったか?」

「来たな」

「......覚えている」

「俺も覚えてるわ」


兵士が小さく息を吐いた。同じ日に同じ人間を2度も詰所へ通すことになるとは、向こうも思っていなかったのだろう。

「何があった?」

「俺が聞きたいくらいや」

「最初から話せ」

「飯食ってたら、酔っ払いみたいなんが来て、何か言われた」

「何を言われた?」

「分からん。翻訳の魔道具なかったからな」

「それで?」

「いきなり殴られた」

「殴り返したのか?」

「2発目も来たから倒した。そしたら仲間2人も来た」


兵士がペンを走らせる。

「武器は?」

「店の中では椅子持ち上げた奴がおった。最初に殴ってきた奴は刃物抜こうとしてたけど、店主に止められた」

「お前は?」

「素手」

「武器を持っているだろう」

「スコップは収納袋の中や。使ってへん」

「その後は?」

「3人が店から追い出された。俺は飯の続き食ってから店出た」

「そこでまた襲われた?」

「ちょっと歩いたら、さっきの3人がおった。後ろからさらに3人来て挟まれた」

「6人か」

「せや」

「相手の武器は?」

「剣、短剣、棍棒。全員が武器持ってたかまでは覚えてへん」

「お前は?」

「素手」


兵士の手がぴたりと止まった。

「6人を?」

「5人倒した。1人は逃げた」

「剣を持った相手もいたんだな?」

「おったで」

「それを素手で?」

「せや」


兵士がまじまじと田中を見る。

「......本当に登録したばかりなのか?」

「今日カードもろたばっかりや」


冒険者証をもう1度確かめる目には、疑いというより戸惑いに近いものが浮かんでいた。

「店主と客からも話を聞いている。店の中については、お前から手を出したという証言は今のところない」

「そらそうや。飯食ってただけやし」

「店の外についても、倒れていた者たちの武器が抜かれていた。近くにいた者から、複数人がお前を囲んでいたという話も出ている」

「ほな帰ってええ?」

「まだだ」

「なんでやねん」

「相手からも話を聞く」

「言うこと違ったら?」

「証言と状況を確認する」

「面倒やな」

「人を5人倒しているんだ。確認せず帰すわけにはいかない」

「それはそうか」


田中は椅子にもたれた。

「腹いっぱいなったら眠なってきたわ」

「少し待て」

「はいよ」


兵士が部屋を出ていく。田中はそのまま待った。座り心地の悪い椅子で、詰所特有の埃と油の匂いを嗅ぎながら、今日一日で3回目になる詰所での足止めを、もう驚きもせず受け入れていた。


しばらくして、別の兵士と共に最初の兵士が戻ってくる。

「確認が取れた」

「どうやった?」

「店内では相手側が先に殴った。店主と複数の客の証言が一致している」

「ほらな」

「店の外についても、6人が待ち伏せしていたという証言がある。逃げた1人についても探している」

「じゃあ終わり?」

「お前については、現時点で拘束する理由はない」

「帰ってええんやな」

「ああ」


田中が立ち上がる。冒険者証を返してもらい、収納袋へ戻した。

「そうや」

「なんだ?」

「宿探してんねんけど、この時間から泊まれるとこある?」


兵士が一瞬黙った。

「......今からか?」

「せや。まだ宿取ってへん」

「この通りを南へ行け。2つ目の大きな交差路を右へ曲がると、宿が何軒かある」

「言葉通じへんねん」

「......そうだったな」

「値段だけなら何とかなるけど、何日とか飯付きとか言われても分からん」


兵士が少し考える。

「冒険者がよく使う宿がある。看板に赤い屋根の絵が描かれている店だ」

「赤い屋根?」

「ああ。そこなら冒険者証を見せて、指で泊まる日数を示せば大体通じる」

「助かるわ」

「今日はもう揉め事を起こすなよ」

「俺から起こしてへんわ」


兵士が何とも言えない顔をした。

「さっきも同じようなことを聞いた気がする」

「俺もや」


田中は詰所を出た。夜の空気が少し冷たい。

「やっと寝れるな」


教えられた方向へ歩き出す。その途中、ふと足が止まった。

「......そういや」


今日だけで何度も言葉が通じずに困っている。ギルド、門、飯屋、衛兵——翻訳の魔道具がある場所では問題ない。ない場所では、簡単な買い物すら面倒になる。

「明日、武器屋行く前に聞こ」


翻訳の魔道具が買えるのか。いくらするのか。冒険者ギルドなら何か知っているだろう。


田中は赤い屋根の看板を探しながら、夜の町を歩いていった。


MP117/750

所持金711,357円


異世界生活、2日目。


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