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魔力換金  作者: ぴよぴよ
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第三話 検証

森の中を歩き始めてしばらくして、田中は足を止めた。


「……いや、先にやっとくか」


昨夜から訳の分からないことばかり起きている。ゴブリン。2つの月。ステータス。魔力換金。特殊収納袋。通販。仕事の合間によく読んでいたラノベなら、こういう状況で能力をろくに調べず動き出す主人公を見て、先に検証せえやと思っていたところだ。


「自分がなったら忘れるとこやったわ」


自虐気味に鼻を鳴らし、まずはMPの検証から始めることにした。魔力換金を試した後、最後に確認した時は489/600だった。あれから歩き出すまでの時間も含めて、およそ1時間が経っている。意識すると、半透明の画面が現れた。


田中真司

Lv1

HP 750/750

MP 495/600

筋力 280

耐久 270

敏捷 260

器用 250

固有スキル 魔力換金


「6増えとる」


最大MPは600。1時間で6なら、ちょうど1%だ。


「活動中は1時間で1%……ってことか?」


まだ1回確認しただけだ。田中はスマートフォンへ現在時刻とMP495をメモし、再び歩き出した。


◇


30分後。田中は足を止めた。


「ステータス」


MP 498/600


「3増えた」


最初の1時間で6。続く30分で3。


「動いとる時は1時間で6MP。最大の1%で合ってそうやな」


1MPは10円。6MPなら60円。


「活動状態が24時間続くとしたら144MP……1,440円分か」


金になると考えれば悪くはない。だが、休んでいる時まで同じ速度とは限らない。昨夜はほとんど動かず木へ背中を預けていたが、その時はMPの存在自体を知らなかった。


「休んだら変わるんか試すか」


田中は周囲を確認した。危険がないことを確かめ、木の根元へ座る。スコップを手の届く場所へ置き、そのまま背中を幹へ預けた。スマートフォンで30分測る。眠らず、何もせず休んだ。


◇


30分後。田中はステータスを開いた。


MP 528/600


「……30増えとる」


休む前は498。今は528。30分で30MP増えている。


「1時間なら60か」


最大MP600の10%。


「動いとる時の10倍やんけ」


田中はスマートフォンへ記録する。


活動中――1時間で6MP。

安静時――30分で30MP。1時間換算なら60MP。


「休んどるだけで1時間600円分か」


1MPは10円。余ったMPを換金して空きを作れば、その分また回復する。


「寝てる間も同じなら、結構な額になるな」


睡眠中も同じ速度なのかは、まだ確認していない。それでも、起きたまま安静にしているだけで回復速度が上がることは確認できた。


「これ、毎日金作れるやん」


思わず口元が緩む。もちろん、MPを全部金へ換えるつもりはない。この世界に魔法があるなら、今は使い方が分からないだけで、後から使えるようになる可能性もある。何より、知らない森の中だ。MPを空にして何が起こるかも分からない。


「使わん分だけ換金やな」


安全に休める時なら、必要な分を残して余ったMPを換金する。


「次、袋やな」


特殊収納袋へ手を入れる。情報が頭へ浮かぶ。


容量Lv1

重量軽減Lv1

保存Lv1

通販Lv1

能力強化

修理


「まず容量か」


容量Lv1へ意識を向ける。現在の容量は50L。


「50Lか」


仕事柄、容量の数字を見れば大体の量は想像できる。だが、これは普通の箱や容器ではない。田中は鉄製のスコップを見る。


「これ入るんか?」


スコップそのものの体積なら50Lもない。問題は長さだ。革袋の口へスコップの先端を差し込む。


「……お?」


そのまま押し込んでいく。袋の外から見れば到底収まりきらない長さのスコップが、柄まで完全に中へ消えた。


「入ったやん」


袋の外見は変わっていない。田中は中へ手を入れ、スコップを意識する。すぐに柄へ触れた。掴んで引き出す。


「長さは関係なし。使うんは中の容量だけってことか」


これなら長い工具でも収納できる。だが、総容量50Lは少ない。これから食料、水、衣類、道具を入れていけば、すぐ足りなくなる。


「50Lは少ないな」


容量Lv2へ意識を向ける。100L。レベルアップ費用10,000円。


「倍になるんやったら上げとこ」


所持金は200,510円。田中は10,000円を支払い、容量を上げた。


容量Lv2

100L

所持金 190,510円


「これで100L」


容量Lv3に必要なのは20,000円。


「次は2万か」


さらに上げるごとに必要金額は倍になる。


「100Lあったら今はええやろ」


次は重量軽減。Lv1では軽減なし。スコップを収納して袋を持つ。


「普通に重いな」


重量軽減Lv2に必要なのは10,000円。今は荷物自体が少ない。


「これは重たなってからでええ。今は別に困らんしな」


保存Lv1。これも次のLvには10,000円必要だ。


「これは時間経たんと分からんな」


今は保留。


通販Lv1。1日の購入上限は100,000円。Lv2へ上げるには10,000円。


「今は1日10万も使えたら十分や」


これも上げる必要はない。容量、重量軽減、保存、通販。Lvがあるのはこの4つ。次のLvへ上げるたびに必要金額は倍になる。


「必要なだけ上げていく感じやな」


田中は次に能力強化へ意識を向けた。こちらにはLvがない。代わりに自分のステータスが表示される。


HP 750

MP 600

筋力 280

耐久 270

敏捷 260

器用 250


「これ、俺自身の能力上げるんか」


それぞれ個別に強化できる。最初の強化費用は、どれも10,000円。


「実際どんだけ上がるんや?」


説明を眺めているだけでは分からない。田中は筋力を選んだ。


「まずこれやな」


10,000円を支払う。一瞬、身体の奥に力が満ちるような感覚が走った。


「おっ……」


ステータスを確認する。


筋力 350


「280から350……70上がったんか」


スマートフォンの電卓を開く。


「350割る280……1.25」


25%増えている。


「1回で1.25倍か。結構上がるな」


だが、筋力だけがそうとは限らない。


「もう1個試すか」


次は敏捷。現在260。10,000円を支払う。


敏捷 325


「260から325」


計算する。


「これも1.25倍」


2つとも同じ。


「ほな、どれでも25%か?」


そこで田中の視線がMPへ向いた。最大MP600。


「これ上げたらどうなんねん」


MPが増えれば、使える魔力そのものが増える。魔力換金できる量も増える。さらに、さっき確認した自然回復が最大MPに対する割合なら、回復量まで増える可能性がある。田中の目が少し細くなる。


「これは試す価値あるな」


MPを選択する。10,000円を支払った。すぐにステータスを見る。


MP 528/750


「おお……最大750」


600から750。これも1.25倍。だが現在MPは528のままだ。


「今ある分は増えへんのか」


最大値だけが上がり、現在MPは回復していない。


「強化したら回復もする、みたいな都合ええ話ちゃうんやな」


これで3つ。


筋力280から350。

敏捷260から325。

最大MP600から750。


「全部1.25倍や」


能力強化は、1回につき選んだ能力を25%上昇させる。そして同じ能力をもう1度強化する場合、次は20,000円。さらにその次は40,000円。強化回数そのものに上限はない。


「金さえあったら、どこまでも上げられるんか」


強力なのは間違いない。だが、必要な金額まで倍々で増える。田中は所持金を見る。容量で10,000円。筋力、敏捷、MPで30,000円。合計40,000円使った。


所持金 160,510円


「いきなり4万使ってもうたな」


異世界へ来てまだ2日目だ。少し使いすぎた気はする。それでも無駄ではない。容量は倍。筋力と敏捷は25%上昇。最大MPも150増えた。


「問題はこっからやな」


田中はMP528/750を見る。最大MPが変わった。なら、自然回復量も変わるのか。


「これも調べな検証にならんわな」


スマートフォンへ現在時刻とMP528/750を記録した。最後に修理へ意識を向ける。罅の入ったスマートフォンを見る。


「これ直せたりするんか?」


少し考え、やめた。今も時計とメモに使えている。修理を使った時に何が起こるのか分からない以上、いきなり重要な物で試す必要はない。


「壊れてもええもん見つけてからやな」


スマートフォンをしまおうとして、手が止まった。


「……待てよ」


通販。日本の商品を買える。田中はスコップを見る。


「武器になるもんもあるんちゃうか?」


通販へ意識を向ける。思いついた物を探していく。包丁。鉈。ハンマー。バール。斧。工具や刃物、アウトドア用品など、武器としても使えそうな商品はいくつも出てきた。


「あるな」


田中は順番に眺める。


「バール……ハンマー……鉈……」


そして手元の鉄製スコップを見る。


「……今これでええな」


昨夜、実際に6体倒している。突ける。叩ける。刃先もある。柄が長いので間合いも取れる。何より仕事で使い慣れている。


「わざわざ金使って買い替えるほどちゃうな」


何となく手に馴染んできたスコップを握り直す。必要になれば、通販で使えそうな道具を調達できる。今はそれが分かっただけで十分だ。田中は通販を閉じた。


「ほな歩くか」


MP528/750。ここから最大MP750での活動中の回復量を測る。田中はスコップを肩へ担ぎ、森の中を歩き始めた。


◇


1時間後。田中はスマートフォンの時刻を確認してから、ステータスを開いた。


MP 535/750


「……7か」


最大MP750の1%なら7.5MP。だが、表示は整数だ。


「半端出たな」


これだけでは分からない。


「もう1時間歩いたら分かるか」


田中はMP535を記録し、そのまま歩き続けた。しばらくすると、微かに水の流れる音が聞こえてきた。


「……川か?」


音のする方向へ進む。木々の間を抜けると、小さな川が流れていた。


「おお、ほんまにあった」


水は澄んでいる。田中は川辺まで下り、流れを眺める。少し喉は渇いている。だが口をつける気はなかった。


「通販あるのに腹壊す賭けする意味ないわな」


見た目が綺麗だからといって、安全とは限らない。それより重要なのは、川を見つけたことだった。人が住んでいるなら、水場の近くに道や集落がある可能性がある。


「川沿い行ってみるか」


田中は川沿いを進んだ。


◇


MP528/750を記録してから、ちょうど2時間。木々の間に、土が剥き出しになっている場所が見えた。


「ん?」


近づいてみる。草が踏み潰され、地面が固くなっている。


「これ……道ちゃうか?」


獣道にしては広い。何かが何度も通った跡がある。田中はその場でステータスを開いた。


MP 543/750


「15増えた」


2時間で15MP。最大MP750の2%。


「やっぱ最大MP基準か」


強化前は最大600で、活動1時間につき6MP。強化後は最大750で、2時間につき15MP。


「1時間7.5MP分。ちゃんと1%やな」


途中では整数しか表示されなかったが、回復そのものは割合で計算されているらしい。


「MP上げたら、回復する量も増えるんか」


つまり最大MPを強化すれば、単純に使える魔力が増えるだけではない。自然回復するMPも増える。それは魔力換金で作れる金にも直結する。


「MP強化、結構重要やな」


田中は画面を消した。道の左右を見る。


「問題はどっちやねんな」


その時だった。遠くから声が聞こえた。田中の顔が上がる。


「……人?」


もう1度、耳を澄ます。聞き間違いではない。複数の声。


「おるやん」


ようやく人に会えるかもしれない。反射的にそちらへ向かおうとして、田中は止まった。


「いや、待て」


ここが異世界なら、相手が安全とは限らない。言葉が通じる保証もない。鉄製のスコップを持った見知らぬ男が森からいきなり走って出てくれば、向こうも警戒するだろう。


「ゆっくり行こ。怪しまれんようにな」


スコップの刃先を地面へ向ける。声のする方向へ慎重に歩く。少しずつ人影が見えてきた。


「……ほんまに人や」


この世界へ来てから初めて見る、自分以外の人間だった。田中はステータスをもう1度確認した。


田中真司

Lv1

HP 750/750

MP 543/750

筋力 350

耐久 270

敏捷 325

器用 250

固有スキル 魔力換金


「よし」


能力強化も、MP回復も確認できた。今のところ魔法の使い方は分からない。


「まあ、スコップあるしな」


田中は画面を消した。そして人影へ向かって歩き出した。


異世界生活 2日目

MP 543/750

所持金 160,510円

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