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魔力換金  作者: ぴよぴよ
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第二話 ステータス

夜が明けるまで、田中はほとんどその場を動かなかった。知らない森の中を、暗闇のまま歩き回るほど馬鹿ではない。木の幹へ背中を預け、鉄製のスコップを手の届く場所へ置く。少し離れたところには、昨夜倒した緑色の小人が6体転がっていた。


ポケットから煙草を取り出し、1本咥える。ライターで火をつけ、深く吸い込んだ。


「ふぅ……」


吐き出した煙が暗闇へ消えていく。見上げれば、月が2つ。


「まだ2つあるな……」


何度見ても変わらない。スマートフォンも確認した。画面には罅が入っているが電源は入る。電波は圏外のままだった。頭もまだ痛い。夢にしては何もかもが生々しすぎる。


煙草を吸い終え、箱の中を見る。別のポケットには、普段から持ち歩いている予備の未開封の箱も入っていた。


「予備入れといて良かったわ」


いつ帰れるのか分からない。吸い殻の火を確実に消し、田中はもう1度木へ背中を預けた。


◇


空が白み始めた。田中は立ち上がり、固まった身体を伸ばした。


「いった……」


後頭部へ手をやる。まだ腫れている。だが意識ははっきりしていた。朝の光の中で改めて6体を見る。背丈は子供ほど。緑色の肌。尖った耳。人間とは明らかに違う顔。


「……やっぱゴブリンにしか見えへんな」


明るいところで見ても結論は変わらない。田中は空を見上げた。2つあった月はもう見えない。それでも、見間違いだったとは思えなかった。


「ゴブリンがおって、月が2つ……」


ゲームや漫画なら答えは簡単だ。


「異世界……」


口に出して、自分で鼻を鳴らす。


「いやいや」


そんなものが本当にあるわけがない。ないはずなのだが、目の前にあるものを説明する方法も思いつかない。


「……待てよ」


もし本当に異世界なら、こういう時に1度は試すものがある。田中は周囲を見回した。誰もいない。


「ステータスオープン」


目の前に半透明の画面が現れた。


「うおっ!?」


反射的に1歩下がる。


「……出るんかい!」


宙に浮かんだ画面には、不思議なことに読める文字が並んでいた。


田中真司

Lv1

HP 750/750

MP 600/600

筋力 280

耐久 270

敏捷 260

器用 250

固有スキル 魔力換金


「……マジか」


田中はしばらく画面を見つめた。


「HPとMPは分かるけど……」


筋力、耐久、敏捷、器用。数字だけ見ても、高いのか低いのか判断できない。


「比較するもんがないから分からんな」


最後に視線を落とす。


「魔力換金?」


名前からすれば、魔力を金へ換える能力だろう。画面を消そうと思った。それだけで画面が消えた。


「……ん?」


今度は声に出さず、頭の中でステータスを意識する。画面が現れた。


「おお」


消えろと思えば消える。もう1度出そうと思えば現れる。


「声出さんでもええんか」


田中はもう1度ステータスを見る。そこで視線がMPの文字で止まった。


「……MPあるんやったら」


魔力がある。なら、魔法も使えるのではないか。田中は少し離れた木へ右手を向けた。


「ファイアーボール!」


何も起きない。


「……」


もう1度、掌を前へ突き出す。今度は燃え上がる炎を頭の中で思い浮かべる。


「ファイア!」


何も出ない。


「ちゃうんか」


次は水が噴き出すところを想像する。


「ウォーター!」


何も起きない。


「ウインド!」


風も出ない。


「ライトニング!」


雷も落ちない。


田中は右手を見た。


「詠唱が要るんか?」


それらしい言葉など知らない。ならばイメージだけで試す。掌に火が集まるところを想像する。何も起きない。水。風。雷。どれも同じだった。


「……MPあんのに魔法使われへんのかい」


田中は腕を下ろした。少なくとも、適当に名前を叫んだりイメージしたりするだけでは魔法は使えないらしい。


「まあええわ。こっちはどうや」


ステータスに表示されている魔力換金へ意識を向ける。


「まず1MP」


そう意識してみる。だが、何も起きなかった。


「……なんや。これも使い方あんのか?」


右手を開いたり、もう1度魔力換金を意識したりしてみたが、変化はない。


「まあええ。後で試そ」


田中は一旦諦め、自分の持ち物を確認する。スマートフォン。家の鍵。煙草。ライター。財布。財布を開き、中の現金を数えた。


「20万ちょうどか」


カード類も残っている。


「金盗られてへんのか」


財布まで残っているなら、金目当てで襲われたわけではなさそうだった。もっとも、ここが本当に異世界なら、日本円が使える場所など期待できない。


「20万あっても使われへんかったら意味ないな」


現金を財布へ戻した。田中は周囲を見回す。昨夜、自分が埋められていた場所。荒れた土。6体の死体。少し離れたところに、黒っぽいものが落ちている。


「なんや、あれ」


スコップを持ったまま近づく。古びた革袋だった。


「……袋?」


拾い上げる。見た目は普通の革袋だ。当然、自分の物ではない。6体を見る。


「こいつらのか?」


分からない。元からここに落ちていた可能性もある。田中は袋の口を開き、中へ手を入れた。


「……っ?」


その瞬間、説明されたわけでもないのに情報が頭へ流れ込んできた。


特殊収納袋。

容量Lv1

重量軽減Lv1

保存Lv1

通販Lv1

能力強化

修理


「ちょ、待て待て」


田中は反射的に手を抜いた。情報が途切れる。


「なんや今の」


もう1度、恐る恐る手を入れる。また分かる。容量、重量軽減、保存、通販にはLvがある。能力強化と修理にはレベル表示がない。


「機能多すぎやろ……」


田中は1つずつ確認していく。容量Lv1。見た目より多くの物を収納できる。重量軽減Lv1。現在は軽減なし。保存Lv1。通販Lv1。能力強化。そして修理。まだ詳しく分からないものもある。そこで、さっき使えなかった能力を思い出した。


「……魔力換金」


袋へ右手を入れたまま、1MPを金へ換えるよう意識する。次の瞬間、袋の中に入れた掌へ硬い感触が生まれた。


チャリン。


何かが掌から離れ、袋の中へ落ちる。


「おっ?」


手を抜かずにステータスを確認する。


MP 599/600。


「ほんまに1減った」


袋の中を探り、今落ちた硬貨を取り出す。見たことのない硬貨だ。表面には知らない文字が刻まれている。当然、価値も分からない。


「袋に手ぇ入れとかな使われへんかったんか?」


確認するため、もう1度右手を袋へ入れる。


「ほな、10MP」


硬貨が掌に現れ、そのまま袋の中へ落ちた。


MP 589/600。


「次、100MP」


3度目。さらに別の硬貨が掌から袋の中へ落ちる。


MP 489/600。


田中は3枚を取り出して並べた。


「1、10、100。全部指定できるんやな」


大きさも色も違う。


「問題は、これがなんぼなんかやな」


通販へ意識を向けたところで、見覚えのある商品が次々と浮かんだ。水、食料、衣類、工具、日用品――どれも日本で普通に売っている商品ばかりだ。


「なんでやねん」


さらに見ていく。


「……煙草あるやんけ」


普段吸っている銘柄を探す。


「あった」


セブンスター・メンソール12・ボックス。1箱600円。


「これも買えるんか」


買おうとして、金が必要なことに気づく。


「そらタダちゃうわな」


田中は財布を見た。


「これ入れたらどうなんねん」


財布を丸ごと革袋へ入れる。通販へ意識を向ける。


所持金 200,000円


「財布ごとでええんか」


1度取り出すと表示が消え、戻せば再び200,000円と表示された。


「中身まで分かっとるんやな」


そこで、先ほど並べた3枚の硬貨を思い出す。


「これ入れたら分かるんちゃうか」


まず1MPで出た硬貨だけを袋へ入れる。


所持金 200,010円


「10円増えた」


次に10MPで出た硬貨へ入れ替える。


所持金 200,100円


「100円」


最後に100MPで出た硬貨へ入れ替える。


所持金 201,000円


「1,000円か」


田中は袋から100MPの硬貨を取り出し、3枚を掌へ並べた。


「1MPで10円。10MPで100円。100MPで1,000円」


3枚すべてを袋へ入れる。


所持金 201,110円


「合っとるな」


現地の硬貨が何という名前なのかは分からない。だが、袋へ入れれば円換算した価値は正確に確認できる。


「これなら、こっちの金手に入れても値打ちは分かるな」


通販では、日本円と現地通貨のどちらを使うか選択できる。


「ほな、試すか」


セブンスター・メンソール12・ボックス。1箱600円。支払いは日本円を選ぶ。購入。袋の中へ手を入れる。指先に箱が触れた。


「おお……」


取り出して眺めると、見慣れた煙草だった。


所持金 200,510円


「ほんまに買えた」


日本円から600円が減り、現地通貨の1,110円相当はそのまま残っている。箱を開けて1本抜き、ライターで火をつけた。深く吸う。


「……いつものや」


煙を吐く。目の前には見知らぬ森。近くには緑色の死体が6体。肩には鉄製のスコップ。手には、通販で買ったばかりの日本の煙草。


「なんやこの状況」


田中は思わず笑った。


「異世界来て最初に通販で煙草買う奴おるか?」


もう1度吸う。


「まあ、要るもんは要るしな」


財布はそのまま特殊収納袋へ入れておく。スマートフォンと家の鍵も収納した。持っていた煙草と予備の箱も入れる。


「これなら落とさんで済むな」


田中は改めて袋を見る。日本円も使える。袋へ手を入れていれば、魔力を現地の硬貨へ換えられる。現地の硬貨も通販で使える。袋へ入っている通貨は、種類に関係なく円換算した正確な総額を確認できる。


「これ、かなり便利やな」


まだ分からない機能も多い。容量、重量軽減、保存、通販のレベルをどう上げるのかも知らない。能力強化と修理についても、まだ詳しいことは分からない。それでも、水や食料を手に入れる方法があるだけで、いきなり森で野垂れ死ぬ可能性はかなり下がった。


田中はスコップを肩へ担いだ。


「ゴブリン、月2つ、ステータス、魔法の袋、通販……」


煙を吐く。


「もう異世界でええわ」


昨夜まで大阪の居酒屋で酒を飲んでいた。それが今は、見知らぬ森でスコップを担いでいる。


「考えててもしゃあない」


まずは人を探す。この世界がどういう場所なのか、それを知らなければ何も始まらない。田中は吸い殻の火を消した。


「ほな、行くか」


特殊収納袋を持ち、鉄製のスコップを肩へ担ぎ直す。そして森の中へ歩き出した。


異世界生活、2日目。

MP 489/600

所持金 200,510円

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