第二十二話 山奥
夕食を終えた後、田中は2階へ上がった。寝床へ腰を下ろし、収納袋へ手を入れる。
「寝る前も換金しとかなな」
ステータスを開いた。
【田中真司】
レベル:6
HP:804/804
MP:206/842
筋力:631
耐久:317
敏捷:388
器用:297
「お、レベル上がってるやん」
今朝、家を出る前に確認した時はレベル5だった。今日の狩りのどこかで上がったらしい。最大MPも784から842へ増えている。
「MPも結構戻ってんな」
100を残し、106MPを換金する。
1,060円。
所持金は2,182,447円から2,183,507円になった。
【田中真司】
レベル:6
HP:804/804
MP:100/842
筋力:631
耐久:317
敏捷:388
器用:297
「寝る前も忘れんようにしよ」
収納袋から手を抜いた。
異世界に来て7日目が終わった。
◇
翌朝。異世界に来て8日目。
目を覚ました田中は、寝床の上で収納袋へ手を入れた。
【田中真司】
レベル:6
HP:804/804
MP:842/842
筋力:631
耐久:317
敏捷:388
器用:297
「満タンやな」
寝る前に100まで減らしていたが、一晩眠って完全に回復している。
100を残し、742MPを換金する。
7,420円。
所持金は2,183,507円から2,190,927円になった。
【田中真司】
レベル:6
HP:804/804
MP:100/842
筋力:631
耐久:317
敏捷:388
器用:297
「よし」
着替えて1階へ下りる。ガルドはすでに起きていた。
「爺さん、昨日言うてた水の場所どこ?」
「ミズ?」
「翻訳つけよか」
「ワカッタ」
ガルドが翻訳魔道具へ触れ、魔力を流す。淡い光が灯った。
『家の裏に井戸がある』
「井戸あるん?」
『ある』
「なんとなく井戸で汲んでんのかなとは思ってたけど」
『見れば分かる』
「せやな」
ガルドが昨日買ってきた食料で朝食を済ませる。翻訳魔道具を止め、2人で裏へ出た。
◇
家の裏には狭い空き地があり、その端に石積みの井戸があった。上には太い木材で枠が組まれ、滑車から縄が垂れている。先には木桶。
「やっぱこんな感じか」
田中は桶を井戸へ下ろした。しばらくして水へ落ちる音がする。桶へ水を入れ、滑車を使って引き上げた。
「そんな深ないな」
井戸の縁へ桶を置く。ガルドが横で見ている。
「コレ、ミズ」
「分かってるわ」
田中は井戸の中をもう一度覗いた。水面までの距離を目で追い、木枠と石積みを見る。
「毎回これ上げんの面倒やな」
「?」
「ポンプ付けたらええやん」
「ポンプ?」
「まあ知らんわな」
ガルドが首を傾げる。
「先に測らなアカンか」
田中は腰へ手をやった。
「……スケールすらないやん」
家へ戻った。
◇
収納袋へ手を入れ、通販を開く。
「掘り井戸やから台付きやな」
東邦工業の掘り井戸用手押しポンプ、T32PCF。
47,500円。
VP30塩ビ管4m、2,418円。
5.5mスケール、972円。
塩ビ管用ノコ、1,303円。
塩ビ管用接着剤100g、681円。
固定用のM10ステンレスボルト、座金、ナット一式、604円。
配管の振れ止めに使うUボルト2個、878円。
「ポンプと塩ビ直接繋がらんから……」
VP30用のTSバルブソケット、138円。
「あ、シールも要るな」
13mm幅、15mのシールテープを1巻。252円。
木枠へ固定穴を開けるため、充電式インパクトドライバー、13,178円。
10mmの木工用ビット、879円。
「締めるくらい手でええわ」
必要な物をもう一度確認する。
「全部で68,803円か」
購入する。
所持金は2,190,927円から2,122,124円になった。
収納袋から届いた物を順番に取り出す。
「現場やったら大体持ってるもんばっかりやのにな」
◇
井戸へ戻る。ガルドが地面へ並べられた道具や材料を見る。
「ナニ?」
「今からやる」
「?」
「見とけ」
まずスケールで井戸周りの寸法を取る。水面までの深さも確認する。
「これならいけるな」
VP30へ寸法を付け、ノコで切る。フート弁付きの吸込側を確認し、必要な継手を組む。バルブソケットへ接着剤を塗ってVP管へ差し込んだ。ねじ部へシールテープを巻く。
「吸い込みでエア噛んだら話ならんからな」
ポンプ側へしっかりねじ込んだ。ガルドは横で黙って見ている。
田中は組んだ吸込管を井戸へ下ろした。
「?」
「マダ」
手で待てと示す。次はポンプ本体。
台板の穴位置を木枠へ写す。
「ここ穴開けなアカンな」
インパクトへ木工用ビットを付ける。モーター音が鳴った瞬間、ガルドが少し離れた。
「ダイジョウブ」
「……」
「壊れへんから」
木枠へ必要な穴を開ける。台付きポンプを据え、M10ボルトと座金、ナットで固定する。田中はナットを強く締め、最後にポンプ本体を揺らした。
「よし」
レバーを動かしても台はぐらつかない。吸込管もUボルトで振れ止めを取った。もう一度全体を見る。
「これでええやろ」
呼び水を入れる。ガルドは何が起きるのか分からないまま見ている。田中がレバーを上下させた。
1回。
2回。
3回。
何も出ない。
「まあ最初はな」
さらに動かす。ゴボッ。
「来た」
もう一度レバーを押す。吐出口から水が流れ出た。
「ミズ!」
ガルドが目を見開く。
「出たやろ」
「ナンデ?」
「今説明しても通じへん」
レバーを何度か上下させる。水が続けて流れる。ガルドが井戸を覗き、それからポンプを見る。
「オケ、ナイ」
「せや。毎回桶上げんでええ」
レバーを指差す。
「コレ?」
「やってみ」
上下させる仕草をする。ガルドがレバーを握った。押す。水が出る。
「オオ」
もう一度押す。
「ラク」
「せやろ」
田中は昨日買ったポリタンクを持ってきた。片方へポンプから水を入れる。
「こっちは洗う方やな」
もう片方には桶で汲んだ井戸水を移した。
「こっちは飲む方」
ガルドが2つを順番に指す。
「コレ、ノム?」
「せや」
「コッチ?」
「アラウ」
「ワカッタ」
田中は取り付けたポンプを見る。
「ポンプから配管、工具まで全部で68,803円か」
所持金は2,122,124円。
「インパクトとかはまた使えるし、まあええやろ」
◇
家へ戻り、翻訳魔道具を起動する。
「爺さん、紙ある?」
『ある』
「2枚書いてほしいねん」
『何を書く』
「ギルドで使う」
ガルドが紙と筆記具を持ってきた。
「1枚目。ここに出したもん全部買い取ってくれ」
『ここに出した物をすべて買い取ってほしい、でいいか』
「それでええ」
ガルドが現地の文字を書く。
『できた』
「もう1枚」
次の紙を渡す。
「魔石は売らんから、取り出して俺に返してくれ」
『魔石は売却せず、取り出して返却してほしい』
「それで頼む」
ガルドが書き終える。田中は2枚を折り、収納袋へ入れた。
「これで昨日みたいに魔石指差して俺指差してせんでええわ」
『最初から頼めばよかっただろう』
「昨日思いついたんや」
◇
狩りへ出る準備をする。
「今日は昨日よりもうちょい奥行ってくる」
『帰ってくるのか』
「今日は帰る」
『私は行かない』
「何回言うねん」
『森は嫌だ』
「知ってるわ」
田中は金テコを肩へ担いだ。
「そういや、昨日渡した50万あるやろ」
『ある』
「家のもん優先で揃えといてな」
『分かっている』
「余ったからって全部訳分からんもんに使うなよ」
『必要な物しか買わない』
「その“必要”が怪しいねん」
『行ってこい』
「はいはい」
翻訳魔道具を止め、家を出た。
◇
北門を抜け、森へ入る。昨日通った場所を越え、さらに山側へ向かう。木々の間に傾斜が増え、地面には大きな岩が目立ち始めた。
少し登ったところで枝が折れる。
「何や?」
木の陰から大きな人型の魔物が出てきた。人間より一回り大きい。緑がかった肌。太い腕。粗末な毛皮。手には棍棒。
「オークっぽいな」
本当の名前は知らない。田中が地球で見たゲームや小説なら、そう呼ばれていそうな姿だった。
《グォッ!》
「来るんか」
棍棒を振り上げて走ってくる。
「遅い」
振り下ろされる前に踏み込む。金テコを脇腹へ叩き込んだ。巨体が横へ吹き飛ぶ。
「ゴブリンよりは硬いけど」
起き上がろうとした頭へもう一撃。
「今の俺には一緒やな」
死体を丸ごと収納袋へ入れた。
◇
同じ人型はその後も何度も現れた。
2体。
3体。
4体。
数が増えても大差はない。正面から来れば先に殴る。横へ回ろうとしても追いつく。棍棒を振り下ろされる前に倒していく。
「こいつら多いだけやな」
合計10体。全部収納袋へ入れた。
◇
昼を過ぎた頃、斜面の上から黒い巨体が下りてきた。
「熊やん」
普通の熊より遥かに大きい。四つ足でも田中の胸近くまである。
《グォォォッ!》
「声でか」
突進してくる。
「速っ」
田中は横へ避ける。太い前脚が振られた。金テコで受ける。ガンッ。
「重っ!」
腕へ衝撃が返る。押し返し、頭へ金テコを叩き込む。一撃では倒れない。
「一発ちゃうんか」
再び前脚が来る。今度は避けた。横へ回り、首へ一撃。続けて頭へ叩き込む。巨体が倒れた。
「これは売れそうやな」
値段は分からない。そのまま丸ごと収納袋へ入れた。
◇
さらに進むと、大きな鹿型の魔物を見つけた。
「角すごいな」
身体も大きいが、頭から伸びる角が特に目立つ。太く、何本にも枝分かれしている。
鹿が田中へ気づく。次の瞬間、逃げ出した。
「あ、逃げるん?」
田中も走る。
「速いな!」
木々の間を跳ぶように駆けていく。それでも田中の方が速い。追いつき、横から金テコを振る。一撃。鹿型の魔物が地面へ転がった。
「これも丸ごとやな」
収納袋へ入れる。
◇
その後、大型の狼型5頭にも囲まれた。昨日見た灰色の狼型よりさらに大きい。正面から一斉には来ない。左右へ散り、背後へ回る。
「またこのタイプか」
正面から1頭が飛び込んでくる。横へ避けて殴り飛ばす。背後から2頭目。振り返りざまに金テコを叩き込む。
「昨日ので慣れたわ」
残りも順番に仕留めた。5頭すべて収納する。
◇
さらに奥へ進んだ時だった。
ドン。
重い足音が響く。
もう一度。
ドン。
「またオークか?」
木々の間から現れた姿を見て、田中が止まった。
「……デカすぎるやろ」
3m近い。さっきまでの人型より遥かに太い腕と脚。分厚い胸。手には大きな棍棒。
「オーガっぽいな」
本当の名前は知らない。見た目から田中が勝手にそう呼んだだけだ。
《グオオオオッ!》
「うるさっ!」
巨体が踏み込んだ。
「速っ!」
棍棒が振り下ろされる。田中が避ける。地面が抉れた。
「オークと全然ちゃうやん」
金テコを両手で握る。横腹へ全力で振り抜いた。ドゴッ。
身体が揺れる。だが倒れない。
「マジか」
太い腕が飛んできた。避けきれず、肩へ掠める。
「ぐっ!」
身体が横へ流された。踏ん張る。
「痛いやんけ!」
田中が再び踏み込む。膝へ一撃。巨体の体勢が崩れる。
「そこや!」
頭へ叩き込む。まだ倒れない。
「硬すぎるやろ!」
腕が伸びてくる。かわす。その腕へ全力で金テコを振り下ろした。
《グアアアッ!》
「まだ動くんか!」
頭へ一撃。膝をつく。さらに一撃。ようやく巨体が地面へ倒れた。
田中は少し離れて待つ。動かない。
「……しんど」
「1匹ならいけるな」
巨体を収納袋へ入れる。
「3匹とか一緒に来たら知らんけど」
今日はここで引き返した。
◇
夕方、北門へ戻った。冒険者証を渡し、収納袋を検査台へ置く。検査が終わる。冒険者証を受け取り、そのまま町へ入った。
家には寄らず、冒険者ギルドへ向かう。
◇
買取場所で、今日狩った魔物を順番に査定台へ出した。
人型10体。
大型熊1頭。
大型鹿1頭。
大型狼5頭。
大型人型1体。
田中はガルドに書いてもらった1枚目の紙を職員へ渡す。職員が読む。頷いた。
「おお、楽や」
続いて2枚目。職員が読み、査定台の魔物を見る。もう一度頷いた。
「通じた通じた」
査定の途中で魔石が取り出され、すべて田中へ返された。田中はそのまま待つ。やがて査定が終わった。硬貨が並べられる。田中は数えた。
合計1,110,000円。
「結構いったな」
何がいくらだったのかは、言葉が通じない田中には分からない。
所持金は2,122,124円から3,232,124円になった。
返された魔石も収納袋へ入れる。
「泊まりで奥行ったらもっと狩れそうやな」
ギルドを出た。
◇
家へ帰る。
「ただいま」
「オカエリ」
「爺さん、翻訳」
「ワカッタ」
ガルドが翻訳魔道具へ魔力を流す。淡い光が灯った。
『帰ったか』
「おう」
田中は家の中を見る。
「……増えたな」
朝にはなかった棚や衣装箱、追加の鍋、食器、保存容器、食料、布や掃除道具まで揃っている。2人で生活するだけなら、もう十分そうだ。
「家のもんはちゃんと買ったんやな」
『当然だ』
「で」
田中がガルドを見る。
「昨日渡した金、どれくらい残ってんの?」
ガルドが黙った。
「爺さん」
『少しある』
「持ってきて」
ガルドが奥へ行き、小さな革袋を持って戻ってきた。机へ中身を出す。銅貨が20枚。田中が数える。
「……これだけ?」
『そうだ』
「50万渡したよな?」
『生活に必要な物は揃えた』
「それは見たら分かる」
田中は室内を見る。
「残りどこ行った?」
『使った』
「何に?」
『必要な物だ』
「家の?」
『違う』
「使い込んどるやないか!」
『使い込んでいない』
「ほぼ残ってへんやろ!」
『必要だった』
「何買ったん?」
『いろいろだ』
「またそれか!」
ガルドは平然としている。
「まあ……家のもん先に揃えたんはええけど」
『そうだ』
「褒めてへん」
◇
田中は椅子へ座った。
「明日から泊まりで行くわ」
『森に泊まるのか』
「せや。今日、奥まで行くだけで結構時間食った」
『私は行かない』
「何回言うねん」
『絶対に行かない』
「連れて行かへんて」
「もっと奥まで見てくる」
『何日行く』
「決めてへん。食料と水見ながらやな」
『そうか』
「せやから、また金置いとく」
収納袋へ手を入れ、大銀貨5枚を取り出した。
「50万」
ガルドへ渡す。
所持金は3,232,124円から2,732,124円になった。
『またこれだけ置いていくのか』
「何日帰らんか分からんからな。飯とか生活に必要なもん優先や」
『分かった』
「今回みたいに最低限揃えた後、残り全部使い込むなよ」
『……分かった』
「また間あったぞ」
『ない』
「あったわ」
『気のせいだ』
「帰ってきて金ありませんは無しやからな」
『分かっている』
「壊れた魔道具とか訳分からん部品とか買い漁るなよ」
『必要な物しか買わない』
「それが怖い言うてんねん」
ガルドは大銀貨をしまった。田中は椅子から立ち上がる。
「明日はもっと奥やな」
所持金は2,732,124円だった。
異世界に来て8日目が終わった。




