第二十話 新居
翌朝。田中は新しく手に入れた家の2階で目を覚ました。昨日まで泊まっていた宿とは違う。ここは自分たちの家だ。
「ほんまに家貰ってもうたな」
身体を起こし、収納袋へ手を入れる。ステータスを確認した。
Lv5。
HP786/786。
MP784/784。
筋力597。
耐久291。
敏捷359。
器用281。
「いつも通りでええか」
MPを100残し、684MPを換金する。
6,840円。
所持金は2,721,156円から2,727,996円になった。
◇
1階へ下りる。広い元店舗。その奥には部屋と倉庫。家そのものは広いが、生活に必要な物がほとんどない。
ガルドは翻訳魔道具の近くにいた。
「おはよう、爺さん」
「オハヨウ」
「それ動かして」
ガルドが翻訳魔道具へ触れ、魔力を流した。淡い光が灯る。
『これでいいか』
「やっぱ便利やな」
『そうだな』
田中は翻訳魔道具を見る。
「これ2,000万するんやろ」
『大金貨二枚ほどだ』
「絶対壊したらあかんな」
田中は周囲を見回した。
「今日はこれ家置いとこ」
『持っていかないのか』
「森で壊れたら最悪やん」
キバイノシシに踏まれる。戦闘中に落とす。何かにぶつける。そんな危険を冒してまで持って行く物ではない。
「狩りには要らん。家置いとく」
『分かった』
「で、今日なんやけど」
『何だ』
「狩り行くで」
ガルドの表情が固まった。
『私は行かない』
「やっぱりな」
『森には行かない』
「昨日あんだけ嫌がってたもんな」
『行かない』
「分かったって」
田中も昨日のキバイノシシを思い出す。ガルドを連れて行けば、戦闘中にそちらまで気にしなければならない。通訳としては必要でも、狩りにはいない方が楽だった。
「爺さんは買い物しといて」
『買い物?』
「この家、何もないやろ」
田中は広い1階を見回した。
「飯もいるし、家で使うもんもいる」
『何を買う』
「そこは爺さんに任せる」
『私に?』
「俺、この世界の家で何いるか分からんもん」
田中は指を折る。
「飯。鍋とか皿とか。寝る時に使うもん。掃除するもん。他にも要るもんあったら買っといて」
『分かった』
「三階まであるからな。何も無いままやったら困るやろ」
田中は収納袋から大銀貨1枚を取り出した。
「これ使って」
ガルドが受け取る。
『大銀貨一枚だな』
「10万円分。飯と家に要るもん買っといて」
『分かった』
「余ったら置いといてくれたらええから」
『そうしよう』
所持金は2,727,996円から2,627,996円になった。
「あと爺さんの食いたいもんも買っとき」
『私の分もか』
「当たり前やろ。一緒に住むんやから」
ガルドは大銀貨をしまった。
『分かった』
◇
「ほな俺は森行くわ」
『一人で?』
「1人」
『それならいい』
「何で安心してんねん」
『私は行かない』
「知ってるわ」
田中は翻訳魔道具を見る。
「これ置いていくから、出る時は止めといて」
『分かった』
ガルドが魔力を止める。淡い光が消えた。
「オレ、カイモノ」
「頼むわ」
「アナタ、モリ」
「せや」
「イッテラッシャイ」
「完全に覚えたな、それ」
田中は収納袋の中を確認する。
作業手袋。
金テコ。
黒打捌き包丁。
ペットボトル。
狩りに必要な物は揃っている。
「ほな行ってくる」
「イッテラッシャイ」
「2回言うな」
◇
新しい家を出た。田中は一度振り返る。三階建ての家。昨日まで宿暮らしだったのに、いきなり家持ちになった。
「異世界来て家まで手に入るとは思わんかったわ」
しかも買ったわけではない。借金取りの事務所へ乗り込み、その補償として手に入れた。
「まあええか」
田中は北門へ向かった。
◇
門を抜け、森へ向かう。昨日と同じ道だ。今日はガルドもいない。高価な翻訳魔道具も家に置いてきた。
「これなら気ぃ使わんでええな」
森が近づく。田中は作業手袋を着けた。収納袋から金テコを取り出す。
「ほな今日も稼ぐか」
そのまま森の中へ入っていった。
異世界生活 7日目
所持金 2,627,996円




