第十七話 狩り
朝に一度チェックアウトした宿へ戻った頃、まだ日は高かった。田中は受付へ向かった。年配の女がこちらを見る。
「今日も2人な」
ガルドが伝える。
《――》
《――》
「ギンカ、イチ」
「1万円か。ほなそれで」
田中は銀貨1枚を支払った。
所持金は706,916円から696,916円になった。
木札を受け取り、部屋へ上がる。田中は寝台へ腰を下ろし、窓の外を見た。
「まだ昼か」
「?」
「時間あるな」
少し考える。
「狩りでも行こか」
「カリ?」
「魔物」
「マモノ」
「そう」
田中が立ち上がると、ガルドが自分を指差した。
「オレ?」
「爺さんも来るで」
「……オレ、ツウヤク」
「知ってる」
「モリ?」
「そう」
ガルドが嫌そうな顔をする。
「ツウヤク。モリ、キイテナイ」
「文句だけよう出るな」
「?」
「戦わせへんから大丈夫や」
田中は収納袋を肩へ掛けた。
「行くで」
◇
町を出て森へ向かう。しばらく歩くと、見覚えのある岩場が見えてきた。
「あ、そうや」
田中は道を外れた。
「爺さん、こっち」
「ドコ?」
「ちょっと確認」
少し進むと、前に見つけた洞窟があった。
「あったあった」
「ドウクツ」
田中は入口から中を見る。
「おーい」
声が奥へ響く。返事はない。近くの石を拾い、中へ放り込んだ。石が地面を跳ねる音が響く。少し待つ。何も出てこない。
「大丈夫そうやな」
田中は収納袋からヘッドライトを取り出し、頭につけた。スイッチを押す。白い光が洞窟の奥を照らした。
「よし」
「……」
ガルドが足を止めている。
「何や?」
「ヒカリ」
「これ?」
「マドウグ?」
「魔道具? ちゃうで」
「チガウ?」
「そう」
ガルドはヘッドライトをじっと見ていた。
「爺さん、行くで」
「……イク」
田中は洞窟へ入った。ヘッドライトで壁や地面を照らしながら奥まで確認する。以前と大きく変わった様子はない。昼間に何もいないことを確認しただけで、夜も安全かどうかまでは分からない。
「特に何も無さそうやな」
洞窟を出る。ヘッドライトを収納袋へ戻すまで、ガルドはずっと目で追っていた。
「そんな気になる?」
「……」
「まあええわ。行こ」
◇
森へ入ってしばらくすると、ゴブリンを2体見つけた。
「爺さん、ここおって」
「マツ」
「そう」
田中は作業手袋を着け、収納袋から金テコを取り出した。ゴブリンもこちらに気づく。棍棒を持った2体が走ってきた。
先頭へ踏み込み、金テコを横から叩き込む。1体が倒れた。もう1体の棍棒をかわし、そのまま金テコを振り下ろした。
「終わり」
金テコを収納袋へ戻す。黒打捌き包丁を取り出し、2体の右耳を切り取って収納袋へ入れた。
ガルドが近づき、死体を見る。
「マセキ?」
「魔石?」
「ソウ」
「ゴブリンにあんの?」
「アル」
「へえ。どこ?」
「シラナイ」
「知らんのかい。取り方は?」
「シラナイ」
「存在しか知らんのか」
田中はゴブリンの死体を見下ろした。
「こういうんって、心臓みたいなもんちゃうん?」
「?」
「まあええわ」
包丁をガルドへ差し出す。
「爺さん、この辺開けてみ」
「オレ?」
「そう」
「オレ、ツウヤク」
「俺も解体屋ちゃうわ。やってみ」
ガルドは嫌そうな顔で包丁を受け取った。
「シラナイ」
「俺も知らんって」
胸元へ刃を入れ、少しずつ切り開いていく。しばらくしてガルドの手が止まった。
「……アッタ」
「お?」
肉の奥に小さな硬い物が見える。ガルドが取り出した。血に濡れた石だった。
「これが魔石?」
「マセキ」
「ほんまにあったな」
田中が受け取る。魔石も、ガルドの両手も血まみれだった。
「うわ。爺さん手ぇ真っ赤やん」
「……」
「ちょい待ち」
田中は収納袋から水の入ったペットボトルを取り出した。ガルドが固まった。
「何や?」
「……」
透明な容器を凝視している。
「ミズ?」
「水やで」
「ガラス?」
「ちゃうで」
田中が軽く握る。容器がへこんだ。
「……!」
「ペットボトル」
「ペット……?」
「名前はええから手ぇ出して」
ガルドはまだボトルを見ていた。
「爺さん、手」
ようやく両手を差し出す。田中は魔石へ水を掛けて血を流し、そのままガルドの手も洗わせた。
「ヤワラカイ。トウメイ」
「そこまで分かるんやな」
洗った魔石を収納袋へ入れる。
「ほなもう1匹」
「……マタ?」
「もう場所分かったやろ」
「オレ、ツウヤク」
「はいはい」
2体目からも魔石を取り出した。田中は2個目の魔石とガルドの手を水で洗い、魔石を収納袋へ入れた。
ガルドが包丁を突き返してくる。
「モウ、イヤ」
「まだ始まったとこやで」
「……」
田中は包丁とペットボトルを収納袋へ戻し、再び金テコを取り出した。
◇
その後、ツノウサギを2体、モリヘビを1体仕留めた。さらにキバイノシシを1体見つけ、突進をかわして金テコを2度叩き込み、倒した。田中はツノウサギ2体、モリヘビ1体、キバイノシシ1体を死体ごと収納袋へ入れた。
さらに進むと、今度はゴブリン3体が現れた。田中は金テコで3体を倒す。金テコを収納袋へ戻し、黒打捌き包丁を取り出した。右耳3個を切り取り、収納袋へ入れる。
「爺さん」
「……」
田中はそのまま包丁を差し出した。
「魔石」
「サンタイ?」
「3体」
「オレ、ツウヤク」
「もう諦めろ」
「イヤダ」
「はいはい」
ガルドが3体から魔石を取り出した。田中は収納袋からペットボトルを取り出し、魔石3個とガルドの手を水で洗った。魔石3個、包丁、ペットボトルを収納袋へ戻す。再び金テコを取り出して先へ進んだ。
◇
ツノウサギを1体、モリヘビを1体仕留める。さらにキバイノシシを1体倒した。3体とも死体ごと収納袋へ入れる。
続いてゴブリン3体を見つけた。田中は金テコで倒し、金テコを収納袋へ戻す。黒打捌き包丁を取り出し、右耳3個を切り取って収納袋へ入れた。そのまま包丁をガルドへ渡す。
「また3体」
「……イヤダ」
「これ終わったらもうちょいや」
「モウチョイ、イヤ」
「文句増えてんな」
ガルドが3体から魔石を取り出す。田中はペットボトルを取り出し、魔石3個とガルドの手を水で洗った。魔石3個、包丁、ペットボトルを収納袋へ戻した。再び金テコを取り出す。
その後、ツノウサギ2体とモリヘビ1体を仕留め、すべて死体ごと収納袋へ入れた。
ここまでで、
ゴブリン8体。
ツノウサギ5体。
モリヘビ3体。
キバイノシシ2体。
ゴブリンの右耳8個。
ゴブリンの魔石8個。
「もうちょいいけるな」
「カエル?」
「もうちょい」
「……」
「何やその顔」
◇
森の中を進んでいると、前方の茂みが大きく揺れた。
「来たな」
3体目のキバイノシシが姿を現した。田中は金テコを構える。
「爺さん、離れといて」
「ワカル」
ガルドが木の方へ下がる。キバイノシシが頭を振った。田中は正面で待つ。だがキバイノシシは田中ではなく横へ顔を向けた。その先にガルドがいる。
「……おい」
キバイノシシが地面を蹴った。
「爺さん、動くな!」
「?」
キバイノシシが走り出した。一直線にガルドへ向かう。ガルドの顔が引きつった。
「……!」
「こっちや!」
田中が横から走り込む。キバイノシシがガルドへ届く直前、金テコを頭へ叩き込んだ。巨体が大きくよろめき、そのまま横倒しになった。勢いのまま地面を滑る。ガルドの手前で止まった。
「爺さん、大丈夫か!」
ガルドは固まっていた。
「怪我してへん?」
「……」
腕を見る。脚を見る。ぶつかってはいない。
キバイノシシが身体を起こした。
「まだか」
今度は田中へ向きを変える。突進してきた。田中は横へかわし、頭から首へ金テコを叩き込んだ。キバイノシシが再び崩れる。動かなくなった。
田中はキバイノシシを収納袋へ入れ、すぐガルドへ戻った。
「ほんまに怪我ない?」
「……カエル」
「痛いとこは?」
「カエル」
「爺さん?」
「カエル」
「分かった分かった。今日は終わり」
「カエル」
「それしか言わんやん」
「イヤダ」
「何が?」
「モリ、イヤダ」
「はいはい。帰ろ」
田中は金テコを収納袋へ戻した。黒打捌き包丁も収納されていることを確認する。作業手袋を外して収納袋へ入れた。そのまま狩りを切り上げた。
今日の戦果は、
ゴブリン8体。
ツノウサギ5体。
モリヘビ3体。
キバイノシシ3体。
ゴブリンの右耳8個。
ゴブリンの魔石8個。
ツノウサギ5体、モリヘビ3体、キバイノシシ3体はすべて収納袋に入っている。
◇
北門へ戻る頃には日が傾いていた。田中は冒険者証を見せ、収納袋の検査を済ませる。問題なく町へ入った。
「腹減ったな」
「メシ?」
「その前にギルドや」
「……」
「魔石取らせへんから」
「ホント?」
「ほんま」
◇
冒険者ギルドへ入る。入口を通ったところで、何人かがこちらを見た。
「ん?」
前日の乱闘にいた職員も田中を見ている。別の冒険者も何人か視線を向けてきた。
「何やねん」
「?」
「いや、ええわ」
誰も田中を止めない。田中はそのまま買い取り場所へ向かった。
収納袋から獲物を出していく。
ツノウサギ5体。
モリヘビ3体。
ゴブリン右耳8個。
キバイノシシ3体。
最後にゴブリンの魔石8個。
職員が魔石を見る。
《――》
「爺さん、何て?」
「マセキ、ウル?」
「これも売れるん?」
「ウレル」
田中は魔石を見る。
「いや、魔石は全部持っとこ」
「ゼンブ?」
「何に使うもんかも知らんしな」
「?」
「まあええ。売らん」
田中はツノウサギ、モリヘビ、キバイノシシを順番に指差した。
「爺さん。こいつらにも魔石あんのか聞いて」
ガルドが職員へ尋ねる。
《――》
職員が答えた。
《――》
「アル」
「全部?」
ガルドが聞き返す。
《――》
「アル」
「ほなこいつらの魔石も全部返して」
ガルドが伝える。
《――》
職員が何か説明する。
「マセキ、トル。ネダン、サガル」
「魔石抜いた分、安なるんやな」
「ソウ」
「それでええ」
田中はキバイノシシを指差した。
「あと肉もちょっと欲しい」
「ニク?」
「子供らに持ってく」
「?」
「まあそこはええ」
田中は両腕で抱えるような仕草をした。
「肉、これぐらい。返して」
ガルドが職員へ伝える。
《――》
職員が頷いた。
◇
査定と解体を待っている間も、何人かの視線を感じた。
「昨日のせいか?」
「?」
「何でもない」
結局、乱闘について呼び止められることはなかった。
しばらくして職員が戻ってくる。売らなかったゴブリンの魔石8個も返された。さらに解体された獲物から、
ツノウサギの魔石5個。
モリヘビの魔石3個。
キバイノシシの魔石3個。
合わせて11個が返される。魔石は合計19個。キバイノシシの肉も大きな包みにされて戻ってきた。
「結構あるな」
田中の感覚では10キロほどありそうだった。
田中は返された魔石19個とキバイノシシの肉を収納袋へ入れた。残りの素材を売却する。魔石と肉を返してもらった分、丸ごと売る場合より査定額は下がった。
今回の買い取り額は1,210,800円。報酬を受け取る。
所持金は696,916円から1,907,716円になった。
収納袋に残った今回の戦利品は、
ゴブリンの魔石8個。
ツノウサギの魔石5個。
モリヘビの魔石3個。
キバイノシシの魔石3個。
合計19個。それとキバイノシシの肉。
「よし」
田中は収納袋を肩へ掛けた。
「爺さん、行くで」
「メシ?」
「その前に寄るとこある」
「……ドコ?」
「孤児院」
◇
夕暮れの町を歩き、昼間の孤児院へ戻った。年配の女が田中とガルドを見る。
《――》
「何て?」
「マタ、キタ?」
「また来たって?」
「ソウ」
「これ渡しに来ただけや」
田中は収納袋からキバイノシシの肉を取り出した。大きな包みを見て、女が目を丸くする。
「爺さん。子供らに食わせたってって言うて」
ガルドが伝える。
《――》
女が慌てて首を振った。
《――》
「何?」
「モラエナイ」
「ええって。持って帰っても俺ら2人じゃ食い切られへん」
「?」
「もう渡しといて」
ガルドがもう一度伝える。
《――》
女は肉を受け取ると、深く頭を下げた。
「またそれか」
「アリガトウ」
「はいはい」
奥から何人かの子供が肉を覗いている。
「今日は肉食えるな」
「?」
「何でもない」
田中は軽く手を上げた。
「ほな」
収納袋に残った新しい戦利品は魔石19個だけになった。
◇
「今度こそ飯や」
「メシ!」
「爺さんも腹減ってたんやな」
「ヘッタ」
田中とガルドは食堂へ入った。店員が近づいてくる。
「爺さん。肉、パン、スープ。2人分」
ガルドが店員へ伝える。
《――》
しばらくして、肉料理とパン、スープが2人分運ばれてきた。食べ終えると、ガルドが代金を確認した。
《――》
「ダイドウカ、ヨン」
「4,000円な」
田中は大銅貨4枚を支払った。
所持金は1,907,716円から1,903,716円になった。
「やっと腹いっぱいや」
「ウマイ」
「爺さん、そこは覚えるん早いな」
◇
食事を終え、2人は宿へ戻った。すでに宿代は昼に払ってある。年配の女へ軽く手を上げ、そのまま部屋へ上がる。
「今日は疲れたな」
「ツカレタ」
「爺さん戦ってへんやろ」
「モリ、イヤダ」
「それはもう分かった」
田中は寝台へ横になった。ガルドも反対側の寝台へ座る。
「おやすみ」
「オヤスミ」
その日はそのまま眠った。
◇
翌朝。田中が目を覚ますと、ガルドもすでに起きていた。
「爺さん、先下行っといて」
「シタ?」
「そう。下。待っといて」
「マツ」
ガルドが部屋を出る。扉が閉まるのを確認してから、田中はステータスを開いた。
田中真司
Lv5
HP 786/786
MP 784/784
筋力 597
耐久 291
敏捷 359
器用 281
固有スキル 魔力換金
「レベルはそのままか」
MPは満タンだった。
「ほな恒例のやつやな」
田中は収納袋へ手を入れる。
「100残し」
魔力換金を使った。684MP。袋の中へ入れた掌から硬貨が出て、そのまま袋内へ落ちていく。
6,840円。
所持金は1,903,716円から1,910,556円になった。
MP 100/784。
「よし」
田中は収納袋から手を抜いた。
◇
1階へ降りる。ガルドが受付近くで待っていた。田中は木札を年配の女へ返した。
「ほな今日も行こか」
「ドコ?」
「狩り」
「イヤ」
「行くで」
「イカナイ」
「狩り行くで」
「ムリ」
「行くで」
ガルドは田中をじっと見た。
「イッテラッシャイ」
「お前来いへん気満々やんけ」
異世界生活 6日目
所持金 1,910,556円




