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魔力換金  作者: ぴよぴよ
16/25

第十六話 尾行

奴隷商を出て少し歩くと、肉を焼く匂いが漂ってきた。


「ここでええか」


 田中は近くの食堂へ入った。店員が近づいてきて何か言う。


《――》


 いつもならここから身振り手振りが始まるところだが、今日は横にガルドがいる。


「爺さん、何て?」


 ガルドが店員へ聞き返した。


《――》


「フタリ……メシ?」


「2人かって?」


「ソウ」


「2人」


 ガルドが現地語で伝えると、すぐに席へ案内された。


「めっちゃ楽やん」


「?」


「何でもない」


 席へ座ると、店員が料理について説明する。ガルドが聞き取り、田中へ向き直った。


「ニク。パン。スープ」


「それ2人分」


「フタリ?」


「そう」


 ガルドが店員へ注文を伝えた。


《――》


 しばらくして、肉料理とパン、スープが2人分運ばれてきた。


「爺さんも食えよ」


「オレ?」


「2人分頼んだんやから当たり前やろ」


 ガルドは少し間を置いてから食べ始めた。


 食べ終えると、田中は店員を呼んだ。


「爺さん、いくらか聞いて」


 ガルドが店員へ尋ねる。


《――》


「ダイドウカ、ヨン」


「4,000円か」


 田中は大銅貨4枚を支払った。


 所持金は1,466,076円から1,462,076円になった。


    ◇


 食事を終え、田中はいつもの宿へ向かった。受付には以前と同じ年配の女がいる。


「今日は2人な」


《――》


「爺さん」


 ガルドが女と話す。


《――》


《――》


「ギンカ……イチ」


「1万円か。ほなそれで」


 田中は銀貨1枚を支払った。


 残り1,452,076円。


 受け取った木札を持って部屋へ向かう。中には寝台が2つ並んでいた。


「爺さん、そっちな」


「オレ?」


「そう」


 だがガルドは寝台へ向かわず、床を指差した。


「オレ、ドレイ。ココ、ネル」


「床?」


 ガルドが頷く。


「いやいや。寝台2つあるやろ」


「ドレイ――」


「金払って寝台あるんやから使え」


 全部は伝わっていないらしい。田中は寝台を指差し、寝る仕草をする。


「爺さん。ここ。寝る」


「……」


「床ちゃう。ここ」


 ガルドはしばらく田中と寝台を見比べていたが、やがて寝台へ腰を下ろした。


「それでええ」


 田中も反対側へ座る。


「今日はもうええわ……」


 狩りをして町へ戻り、衛兵に連れていかれ、ギルドでは乱闘になった。その後に奴隷商まで行っている。さすがに疲れていた。


 田中はそのまま寝台へ横になった。


「おやすみ」


「オヤスミ」


 その日は何もせず、そのまま眠った。


    ◇


 翌朝。田中が身体を起こすと、ガルドはすでに起きていた。


「爺さん早いな」


「?」


「何でもない」


 田中は扉を指差した。


「爺さん、先下行っといて」


「シタ?」


「そう。下」


「サキ、イク?」


「そうそう」


 ガルドが部屋を出る。扉が閉まるのを確認してから、田中は頬へ触れた。


「もう何ともないな」


 昨日殴られたところにも痛みは残っていない。


 ステータスを開く。


 田中真司

 Lv5

 HP 786/786

 MP 784/784

 筋力 597

 耐久 291

 敏捷 359

 器用 281

 固有スキル 魔力換金


「満タンやな」


 田中は収納袋へ手を入れた。


「100残し」


 魔力換金を使う。684MP。袋の中へ入れた掌から硬貨が出て、そのまま袋内へ落ちていく。


 684MPで6,840円。


 所持金は1,452,076円から1,458,916円になった。


 もう一度ステータスを確認する。


 MP 100/784。


「よし」


 手を抜き、収納袋を肩へ掛けた。


    ◇


 1階へ降りると、ガルドが受付の近くで待っていた。田中は年配の女へ木札を返す。


「ほな」


《――》


 軽く手を上げ、ガルドと宿を出た。


 少し歩いたところで、以前食べた屋台が見えた。平たいパンと焼いた肉が並んでいる。


「これ2つ」


 指を2本立てる。ガルドが店主へ伝えた。


《――》


「ダイドウカ、ニ」


「2,000円な」


 田中は大銅貨2枚を支払った。


 残り1,456,916円。


 受け取った片方をガルドへ渡す。


「ほら」


「……オレ?」


「爺さん以外誰おんねん」


 2人で歩きながら食べる。


「今日は町見て回るか」


「マチ?」


「そう。店とか見る」


「ミセ」


「そうそう」


 大通りを歩く。ガルドを買うまでは、店へ入っても何を言われているのか分からなかった。今日は横に通訳がいる。


 武器を並べた店。布を扱う店。使い込まれた道具を軒先へ並べた店。


「爺さん買って正解やったな」


「?」


「何でもない」


 その先に、古い道具を並べている店があった。店主らしい男が軒先で品物を整理している。


 そこへ、小柄な子供が近づいた。汚れた服を着た子供だった。店主の横を通る瞬間、身体が軽くぶつかる。男が振り向く。子供は頭を下げるような仕草をした。


 その一瞬で、男が腰帯へ差し込んでいた小さな袋が抜き取られる。子供は袋を服の中へ滑り込ませ、そのまま人の間へ消えていった。


「……今取ったやろ」


 店主は気づかず、また品物を並べ始めた。


「スリやな」


「?」


「いや、ええわ」


 わざわざ追いかける気にはならなかった。田中とガルドはそのまま歩き続けた。


    ◇


 大通りから離れるにつれ、店は少なくなっていった。建物も少しずつ古くなり、道も狭くなる。さらに先には、以前入り込んだ荒れた辺りに似た雰囲気の建物が続いていた。


「この先、前に入った辺りみたいになってんな」


 田中が引き返そうとした時だった。


《――!》


 少し先から怒鳴り声が聞こえた。古い建物の前に男が4人いる。3人が入口の前。残る1人は少し離れた場所に立っていた。


 男たちの前には年配の女。入口や窓から何人もの子供がこちらを見ている。


《――!》


 女が何か言い返した。男の1人が女の顔を殴る。女が地面へ倒れた。


「おい」


 横の細い道から子供が走ってきた。


「……あれ?」


 さっきの子供だった。


「あのガキやん」


 子供は倒れた女を見ると駆け寄った。男の1人が足を出し、子供を蹴り倒す。


《――!》


 女が叫び、起き上がろうとする。


「何してんねん!」


 田中は男たちのところまで歩いていった。ガルドも横へ来る。


「爺さん。あの人に何で揉めてんのか聞いて」


「キク?」


「そう」


 ガルドが年配の女へ話しかける。


《――》


 その間も男の1人が田中へ何か怒鳴っている。


《――!》


 田中はそちらを一度見ただけで、ガルドへ向き直った。


 女が蹴り倒された子供を気にしながら答える。


《――》


「カネ。カリタ」


「借金?」


「ソウ」


「誰が借りたん?」


 ガルドが聞き返す。


《――》


「ココ。カリタ」


「ここが借りたんか」


「ソウ」


「ここ何なん?」


 ガルドが尋ねる。


《――》


「オヤ、イナイ。コドモ。ココ、スム」


「親おらん子らが住んでる?」


「ソウ」


「孤児院みたいなもんか」


 田中は少し黙った。自分も孤児院で育った。


「……いくら借りたん?」


 ガルドが女へ聞く。


《――》


「ダイギンカ、ゴ」


「50万円か」


「今いくら返せ言われてんの?」


《――》


「ダイギンカ、ナナ。ギンカ、ゴ」


「75万円」


 男の1人が田中へ歩いてきた。


《――!》


「爺さん、こいつ何て?」


「カンケイナイ。キエロ」


「関係ないんは分かってるわ」


 田中は倒れた女と子供を見る。


「でも女殴ってガキ蹴るんはちゃうやろ」


 男が田中の胸を強く押し、続けて拳を振る。田中は頭をずらして避けた。


「そっちからやったからな」


 腹へ拳を叩き込む。男が腹を押さえ、その場に崩れ落ちた。


 残る2人が動いた。1人が殴りかかってくる。田中は拳を避け、腹へ一発入れた。男が膝をつく。


 もう1人が掴みかかってきた。腕を掴み返し、地面へ投げる。男が背中から落ちた。


 膝をついた男が再び殴りかかってくる。田中は顔へ拳を入れた。男が仰向けに倒れる。


 最初の男も腹を押さえながら立ち上がり、殴りかかってきた。


「まだ来るんか」


 田中は拳を避け、腹へもう一発入れた。男が地面へ倒れる。


 3人とも動かなくなった。少し離れていた4人目が、その様子を見て走り去った。


「逃げたか」


 田中は追わなかった。倒れている男の1人まで歩き、頬を叩く。


「おい。起きろ」


 男が呻きながら目を開けた。


 田中は収納袋へ手を入れ、75万円の硬貨を取り出す。それを見た年配の女が目を見開いた。


《――!》


「何?」


 ガルドが女の言葉を聞く。


「ダメ。オオイ。カネ」


「別にええ」


 女が何度も首を振る。


《――!》


「ワタシタチ、ハラウ。アナタ、ダメ」


「ええって」


 田中は硬貨を取り立て屋の前へ置いた。


「これで75万」


「爺さん。こいつに言うて。これで終わり。二度とここ来るな」


 ガルドが伝える。


《――》


 男は田中を睨んだ。田中は残る2人を指差す。


「こいつら起こして帰れ」


 ガルドが伝える。


《――》


 男は身体を起こし、仲間を揺する。しばらくして2人も起きた。3人は75万円の硬貨を拾い集める。


 1人がふらついている仲間へ肩を貸した。そのまま歩き出す。


 田中はその場に立ったまま、3人が通りの向こうへ消えるまで見ていた。


 750,000円。


 所持金は1,456,916円から706,916円になった。


 田中が振り返る。年配の女がすぐに頭を下げた。


《――》


「何て?」


「アリガトウ」


「別にええって」


 だが女は顔を上げると、続けて何か言った。


《――》


「ナガイ、カカル。でも、カネ、カエス」


「返すって?」


「ソウ」


「いらんいらん」


 田中は手を振った。


「爺さん。返さんでええって言うて」


 ガルドが伝える。


《――》


 女は驚いた顔で首を振った。


《――》


「ダメ。カエス」


「ええって。そんな金あるんやったら――」


 田中は周りの子供たちを見る。


「その分、子供らに飯食わせたって」


「?」


 田中は子供たちを指差し、食べる仕草をする。


「カネ。コドモ。メシ」


 ガルドが意味を理解し、女へ伝えた。


《――》


 女は田中を見たまま黙った。やがて目を伏せ、深く頭を下げる。


《――》


「またありがとう言うてんの?」


「ソウ」


「もうええって」


 田中は頭を掻いた。その横で、さっき蹴り倒された子供が起き上がっている。女がすぐに寄り、身体を確かめる。子供は大丈夫だというように首を振った。


 町でスリをした子供だ。田中はその子を見る。


「お前」


「?」


 服の辺りを指差す。


「さっきの袋」


 通じない。


「爺さん。あの子に、さっき盗った袋出せって言うて」


 ガルドが伝える。


《――》


 子供の顔が強張った。年配の女が子供を見る。


《――》


 何か問いかけられ、子供は俯く。やがて服の中から小袋を取り出した。


 女の表情が険しくなる。


《――》


 短く子供を叱った。


 田中は来た道を指差す。


「それ、さっきの道具屋に返してこい」


 ガルドが伝える。


《――》


「あと、もう悪さすんな」


「ワルサ?」


「盗む。もう駄目」


「ヌスム。モウ、ダメ」


「そう」


 ガルドが子供へ伝える。


《――》


 子供は小袋を握ったまま頷いた。年配の女も何か言う。子供はもう一度頷き、そのまま来た道へ走っていった。


 女が田中へまた頭を下げる。


「もうええって」


 田中はガルドを見る。


「爺さん、行こ」


「イク」


 2人はその場を離れた。


    ◇


 少し離れた路地の奥。先ほど走って逃げた4人目が、建物の陰から田中とガルドを見ていた。


 2人が通りを曲がる。男は距離を空けて後を追う。


 しばらくして田中が後ろを振り返った。男はすぐに店先へ入り、姿を隠した。


 田中は少し後ろを見たあと、再び歩き出す。男も間を空けて動く。


 大通りへ出た。人通りが増えたところで、4人目は店先に立っていた別の男へ近づく。


《――》


 短く何かを伝えた。その間も田中とガルドの姿は、人混みの向こうに見えている。


 別の男が2人を確認する。すぐに人の流れへ入り、距離を取って後を追った。


 4人目は別の道へ消えた。


    ◇


 田中は途中で何度か後ろを確認した。先ほど逃げた男の姿はない。


「爺さん」


「?」


「さっき逃げた奴、おらんよな?」


 ガルドも後ろを見る。


「イナイ」


「ならええか」


 田中はすぐには宿へ向かわず、何軒か店を覗いた。その後も道を何度か変える。


 やがて、いつもの宿へ戻った。田中とガルドが中へ入る。


 通りの反対側。別の男が足を止めた。


 田中が警戒していた4人目ではない。大通りで尾行を引き継いだ男だった。


 宿の入口を見る。看板を確認する。


 それだけ確認すると、男は来た道を戻っていった。


異世界生活 5日目

所持金 706,916円

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