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魔力換金  作者: ぴよぴよ
14/25

第十四話 現場確認

門の詰所へ入った田中は、翻訳魔道具の置かれた机の前へ座った。


「昨日の件を確認する」


「せや」


「男2人に尾行された」


「ギルド出てからずっとな」


「人通りの少ない場所へ入り、そこで2人と争った」


「向こうが先に武器抜いてきたから倒した」


「その後、武器、防具、金銭、衣服を奪ったか?」


「何も取ってへん。そのまま帰った」


 門番が紙へ書き込む。


「収納袋から、2人が失ったと申告している武器や防具は見つかっていない」


「さっき調べたやろ」


「だが金銭は判別できない」


「それも聞いた」


 田中は椅子にもたれた。


「昨日ギルドで200万以上もろてんねん。今日もキバイノシシ7匹持って帰ってきてる。わざわざあいつらの金盗る意味ないやろ」


「それだけでは判断できない」


「分かってるって」


「現場は分かるか?」


「分かるで。来た道覚えてる」


「なら案内してもらう」


「俺も行くん?」


「ああ。争った場所を確認する」


「ええよ」


 田中は立ち上がった。


「キバイノシシは?」


「門で預かる」


「外の1匹、袋入らへんからな。腐る前に戻ってきたいんやけど」


「急ぐ」


「頼むで」


 収納袋は持ったまま、棒引きとキバイノシシだけ門へ預ける。


 田中は衛兵3人と町の中へ戻った。


    ◇


「こっちや」


 昨日歩いた道を辿る。


 何度か角を曲がり、大通りを進む。


 途中、田中は見慣れない建物の前で足を緩めた。


「ん?」


 普通の店とは雰囲気が違う。


 入口の脇に数人の人間がいる。


 そのうちの1人は首に金属の輪を付けていた。


 奥にも人影がある。


 看板は出ているが、文字は読めない。


「何の店?」


 翻訳魔道具を持った衛兵が答える。


「奴隷商だ」


「……奴隷?」


「ああ」


 田中は店先を見る。


 首輪を付けた男。


 奥には女の姿もある。


「ほんまに奴隷おるんや」


「珍しいのか?」


「俺がおったとこにはおらんかった」


「そうか」


 衛兵はそれ以上気にせず歩き続ける。


 田中も後を追った。


「奴隷か……」


 場所だけ覚えておく。


 今はそれどころではない。


    ◇


 大通りを外れ、細い道へ入る。


 進むほど建物が荒れていく。


 崩れた壁。


 板で塞がれた窓。


 道端のゴミ。


 昨日と同じ景色だ。


「この辺や」


「ここがスラムだ」


「昨日は知らんかったわ」


 道端に座る男。


 痩せた女。


 裸足の子供。


 衛兵が来たことで、昨日以上に周囲から視線が集まっている。


「もうちょい先」


 田中が角を曲がる。


 しばらく進んで足を止めた。


「ここや」


「間違いないか?」


「間違いない」


 田中は自分が立っていた辺りを指差す。


「俺がこっち。あいつらが向こう」


「最初に何があった?」


「袋指差して、寄越せみたいに手ぇ出してきた」


「言葉は?」


「分からんかった」


「その後?」


「俺が断ったら片方が剣抜いた。もう1人も刃物出した」


「倒した位置は?」


「剣の方はこの辺に投げた。もう1人はあっちで腹殴った」


 田中が順番に場所を示す。


「剣は?」


「この辺に落ちた」


「もう1本の武器は?」


「蹴ったから、あっちの方やと思う」


「お前が立ち去った時、2人の装備は?」


「そのままや。俺何も取ってへんからな」


 衛兵の1人が周囲を調べる。


 残り2人は近くにいる住民へ声をかけ始めた。


《――》


 最初に声をかけられた男は、田中を見るだけで答えない。


 衛兵が別の者へ移る。


 今度は年配の女。


《――》


《――》


 女が田中を見る。何か答えた。


 翻訳魔道具を持つ衛兵が確認を続ける。


 しばらくして田中へ向き直った。


「昨日、お前が2人と争うところを見ていたそうだ」


「おったやろ」


「先に武器を抜いたのは2人だと言っている」


「せや」


「お前は2人を倒したあと、そのまま立ち去った」


「そう言うてるやん」


「黙っていろ」


「はいはい」


 別の住民にも聞く。


 痩せた男。


 建物の入口にいた女。


 少し離れたところから見ていたという老人。


 細部は違うが、大筋は同じだった。


 男2人が先に武器を出した。


 田中が2人を倒した。


 田中は何も持たず、そのまま立ち去った。


 そして田中がいなくなったあと、周囲にいた住民たちが倒れた2人へ集まった。


 衛兵がさらに確認する。


「武器は?」


 住民が答える。


「持っていかれたそうだ」


「金は?」


「それもだ」


「防具は?」


「持っていかれた」


「服と靴も?」


 答えを聞いた衛兵が頷く。


「それもだ」


 田中が呆れた顔をする。


「全部やん」


 衛兵は周囲を見回した。


 誰が何を持っていったかまでは、証言がばらばらだった。


 だが田中が立ち去ったあとに所持品を奪われたという部分は一致している。


「これでええやろ?」


「現場での確認は終わりだ」


「ほな門戻ろ」


 田中は周囲を見る。


 昨日は人通りの少ない場所としか思っていなかった。


 今はここがスラムだと知っている。


 崩れた家の前に子供が座っている。


 服は汚れ、かなり痩せている。


 別の子供が裸足で歩いていた。


「……」


 田中は少しだけ目で追った。


「行くぞ」


「ああ」


 衛兵に呼ばれ、歩き出す。


 何かをするつもりがあるわけではない。


 ただ、奴隷商と同じように、こういう場所があることを知った。


    ◇


 北門へ戻る。


 詰所で最後の確認が行われた。


「複数の証言が一致した。お前が2人の所持品を奪ったという訴えは事実ではないと判断する」


「やっと終わった」


「2人がお前を襲った件についてはこちらで処理する」


「俺また来るん?」


「必要があれば呼ぶ」


「分かった」


 田中は立ち上がった。


「もう行ってええな?」


「ああ」


「よっしゃ」


 外へ出る。預けていた棒引きとキバイノシシを受け取った。


「大丈夫そうやな」


 袋の中にはキバイノシシ6匹。


 ツノウサギ11匹。


 モリヘビ5匹。


 ゴブリンの右耳19個。


 外にはキバイノシシ1匹。


「ギルド行こ」


 田中は棒引きを引き始めた。


    ◇


 冒険者ギルドへ着く頃には夕方になっていた。


 巨大なキバイノシシを引いて入口へ近づくと、周囲の視線が集まる。


 昨日もキバイノシシを5匹持ち込んだ。


 今日はさらに1匹を外から引いている。


 田中は気にせず中へ入った。


 受付へ向かい、冒険者証を見せる。


 耳と口を指差す。


 受付嬢が翻訳魔道具を用意した。


「本日も買取ですか?」


「せや」


「何をお持ちですか?」


「キバイノシシ7匹。ツノウサギ11、モリヘビ5、ゴブリンの右耳19」


 受付嬢の表情が止まった。


「キバイノシシが7匹?」


「せや。外に1匹おる」


「残りは収納袋に?」


「入ってる」


「昨日も5匹持ち込まれましたよね?」


「今日はようけおったわ」


 受付嬢が収納袋へ視線を落とした。


「査定場所へお願いします」


「おう」


 田中はそれ以上、袋について何も言わなかった。


 査定場所へ移動する。


 ツノウサギ11匹。


 モリヘビ5匹。


 ゴブリンの右耳19個。


 続いてキバイノシシを出す。


 1匹。


 2匹。


 3匹。


 4匹。


 5匹。


 6匹。


 周囲が次第に騒がしくなっていく。


《――》


《――》


 外の1匹も運び込まれた。


 キバイノシシ7匹が並ぶ。


「全部、本日討伐したものですか?」


「せやで」


「お一人で?」


「1人」


 受付嬢が7匹を見渡す。


「……分かりました。査定しますのでお待ちください」


「頼むわ」


 職員たちが査定を始める。


 田中は壁際で待った。


 昨日もかなり見られていた。


 今日はそれ以上だ。


 キバイノシシ7匹。


 それを持ち込んだのは、登録してまだ間もないFランクの冒険者。


 周囲から何か話す声が聞こえる。


 当然、田中には内容が分からない。


「何言うてんねやろ」


 視線の中にはキバイノシシを見るものもあれば、田中を見るものもある。


 収納袋へ向けられているものもあった。


 田中は袋を身体の横へ寄せた。


「……これ見られてんの嫌やな」


 しばらくして受付嬢が戻ってきた。


「査定が終わりました」


「いくら?」


「ツノウサギ11匹で銀貨3枚と大銅貨3枚です」


「3万3000円か」


「モリヘビ5匹で銀貨2枚です」


「2万」


「ゴブリンの右耳19個で、大銅貨1枚と銅貨9枚です」


「1,900円やな」


 田中は頭の中で足す。


「小さい方で5万4900円か」


「キバイノシシは個体ごとに査定額が異なります」


「昨日と一緒やな」


 受付嬢が査定表を確認する。


「1匹目が大銀貨4枚と銀貨6枚。2匹目が大銀貨4枚と銀貨5枚。3匹目が大銀貨4枚と銀貨4枚。4匹目が大銀貨4枚と銀貨3枚。5匹目が大銀貨4枚と銀貨2枚。6匹目が大銀貨4枚と銀貨1枚。7匹目が大銀貨4枚です」


 田中は順番に円へ換算する。


「46万、45万、44万、43万、42万、41万、40万……」


 頭の中で足していく。


「キバイノシシだけで301万か」


 受付嬢がさらに硬貨の内訳を示す。


 田中は小物の分も加える。


「全部で306万4900円やな」


 第13話終了時点の所持金は1,401,176円。


 そこへ3,064,900円。


 職員が報酬を用意する。


 田中は硬貨を順番に収納袋へ入れていった。最後の硬貨を入れ、残高を確認する。


 4,466,076円。


「400万超えたな」


 昨日、武器屋で持った大型の剣。


 金貨4枚。


 4,000,000円。


 もう買える。


「……」


 少し考える。


「まあ、ええか」


 今すぐ買いに行く必要はない。


 今日使った金テコも問題なく使えた。


 田中は収納袋を持ち上げた。


「ほな帰るわ」


「はい。お疲れさまでした」


 翻訳魔道具から離れる。


 出口へ向かおうとした時だった。


《――》


 後ろから声が飛んだ。


 田中は足を止める。


「ん?」


 振り返る。


 数人の冒険者がこちらを見ていた。


 その中から大柄な男が立ち上がる。


 男の視線が田中へ向き、次に収納袋へ落ちた。


《――》


「……また俺?」


 大柄な男がこちらへ歩いてくる。


 その後ろから、さらに2人が続いた。


 田中は収納袋を肩へ掛け直す。


「今度は何やねん」


異世界生活 4日目

所持金 4,466,076円

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