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男1:女9の世界で、パパと僕は自由を求めてダンジョンへ走る  ~ 婚約者刺客と母親連合から逃げる父子の珍道中 ~  作者: かぶんす


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第6話:『深夜2時の禁忌食(ジャンクフード)』

「おい、央太。まずはこれや」


部屋の明かりを極限まで暗くした状態で、健吾がボロボロのコートの内側から、タッパーを取り出した。

そのフタが開けられた瞬間、僕の部屋に、これまでに嗅いだことのない「暴力的」な匂いが充満した。

香ばしい醤油、焦げたニンニク、そして濃厚な油の匂い。


「こ、これは……?」


「ギルドの裏メニュー、特製ニンニク醤油の唐揚げや! 薫子のカロリー制限と、志乃の健康監視の目を盗んで、極秘に入手した禁断のジャンクフードやぞ!」


健吾は不敵にニヤリと笑い、タッパーを僕の鼻先に突きつけてきた。

さらに、カバンから「プシューッ!」と微かな音を立てて冷たいサイダーのボトルを取り出す(健吾自身用には、これまた隠し持っていたビール缶だ)。


「お見合い日程だの、精子提出義務だので、お前の脳みそはカチカチに凍りついとる。まずはこれを胃袋にぶち込んで、野生の魂を呼び覚ますんや!」


「でも、国営健康アプリ『G-Tracker』に、深夜の摂取カロリーが自動で送信されてしまいます……」


「そんなアプリの同期、俺がハッキングして『波多野央太は現在就寝中、心拍数安定』って偽装データを送っとるわ! ええから食え!」


健吾に促され、僕は恐る恐る、箸ではなく指先で唐揚げを一つ摘み上げた。

衣服を汚さないようにと志乃に厳しく教えられたマナーなど、この瞬間、完全に吹き飛んでいた。

唐揚げを、口に放り込む。


「――ッ!?」


咀嚼した瞬間、僕の脳内に、言葉にできないほどの衝撃が走った。

衣のカリッとした暴力的な食感。そこから溢れ出す、ギトギトとした、けれど脳が狂うほど美味しい肉汁。ニンニクと醤油の濃い味が、僕の舌の味細胞を一つ残らず叩き起こしていく。

薫子ママが作る、栄養バランスが完璧で、減塩・無添加のオーガニックな薬膳スープとは、対極にある味。体に悪い。けれど、信じられないほどに、美味しい。


「美味しい……めちゃくちゃ美味しいわ、これ……!」


あまりの美味さに、僕の口から完璧な標準語が完全に剥がれ落ちた。

幼少期にパパから移され、志乃に「下品です」と徹底的に矯正されたはずの関西弁が、濁流のように溢れ出す。


「せやろ! これが『ジャンク』や! 体に悪いもんほど、男の魂には美味いんや!」


健吾は嬉しそうにビールの缶を小さくぶつけ、ゴクゴクと喉を鳴らした。


「パパ、こんな美味しいもの、普段からこっそり食べてたの!? ずるいわ!」


「アホ言え、俺かて命がけや! 薫子にバレたら、夕飯の味噌汁に『お尻から火が出る下痢毒』を1滴混ぜられるし、エレナには罰金3万や! それでもな、男には管理された健康より、ジャンクを貪る自由が必要なんや!」


健吾は唐揚げをもう一つ口に放り込み、熱っぽく語る。


「ええか、央太。ここから行く『アナーキー・ダンジョン』はな、政府の登録から外れた、魔物もうじゃうじゃおる危険な場所や。スマホの電波も届かんから、国営センターの精子提出アラートも鳴らん。おかんたちの監視も、一切届かん」


サイダーの冷たさが、ニンニクで熱くなった僕の喉を心地よく潤していく。

深夜2時。

胃袋から熱が全身に広がり、お上品に澄ましていた「波多野央太」の仮面が、完全に粉砕されていくのを感じた。


「お母様たちの監視がない……自分の足で、歩ける場所……」


「せや。お前は1/10の確率を突破して男として生まれた。それはな、カゴの中で飾られるためやない。自分の腕で、自分の大剣や魔術で、世界を切り拓くためや! 3人の母親に用意された未来に進むか、それとも、自分の意思で一人の男として生きるか。選ぶんは、お前やぞ、央太」


健吾の三白眼が、暗闇の中で鋭く僕を見つめる。

チャラくて腰が軽い、いつものヘタレなパパじゃない。大剣「バルムンク」を数々の魔物の血で染めてきた、本物の「男」の顔だ。

僕は、手元の空になったサイダーのボトルをぎゅっと握りしめた。

母そっくりのエメラルドグリーンの瞳に、これまでにない強い光を宿す。


「……行く。僕、行くわ。お母様たちが決めた義務のハーレムなんかじゃなくて、自分の足でダンジョンに入って、冒険者として生きてみたい!」


「よっしゃ! その言葉を待っとったで、息子よ!」


健吾は嬉しそうに関西弁で笑うと、僕の頭をごしごしと撫で回した。

深夜2時。

油ギトギトの唐揚げと冷たいサイダーを血肉に変えた僕たちは、静まり返った波多野家のベランダから、漆黒の夜闇へと飛び降りた。

国家の義務(お見合い)と、3人の母親たちの圧倒的包囲網から逃れる、親子二人の「婚活サバイバル・ダンジョン」が、今ここに幕を開けたのだった。


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