第27話:『天井を穿つ母親たちの雷光』
ティターンを撃破し、あたりは静寂に包まれた。
魔石の輝きが消えかかり、再び暗闇が僕たちを包み込もうとした、まさにその時だった。
ズズズズズズ……。
奈落の天井、僕たちが落下してきた遥か頭上の岩盤が、不自然なほど激しく鳴動し始めた。
「警告。頭上より、ティターンを遥かに凌駕する『おぞましい魔力反応』が急速接近中」
クロエが再び額に新しい予備のゴーグルを装着し、顔面を蒼白にして叫ぶ。
「う、嘘でしょう!? レイドボスは今倒したばかりですわよ! まさか、ボスの親玉が降臨するとでも!?」
雅が純白のパラソルを構えて震える。
「いや、違う……。この魔力、この絶対的な重圧、そして……この香ばしい怒りの匂い(?)は……!」
健吾がガタガタと震え出し、大剣をその場に放り投げた。
次の瞬間。
――バゴォォォォォォン!!!
奈落の天井を覆っていた、厚さ数十メートルはある強固な岩盤が、凄まじい黄金の雷光と重力魔法によって、一瞬にして消滅(物理的粉砕)した。
天井にポッカリと開いた巨大な穴から、眩いばかりの光が差し込み、漆黒の煙が立ち込める。
煙を割りながら、ゆっくりと奈落の底へと降臨してきたのは、3人の人影だった。
先頭に立つのは、怒りの魔力でハニーブロンドの髪を美しく逆立たせ、冷酷なエメラルドグリーンの瞳をギラギラと輝かせた、我が家の絶対女帝――第一夫人・志乃お母様だった。
手にした黄金の結晶スタッフから放たれるのは、本物の、骨を砕くほどの重力魔圧。
「……よく生き延びていたわね、央太。怪我は、ないかしら?」
志乃が、氷のように美しく冷たい標準語で僕に問いかける。
その隣には、はんなりと毒薬の瓶をシャッフルしている薫子ママと、「健吾ぉぉ! テメェ覚悟できてんだろうな!?」と拳をパキパキと鳴らしているギャル風のエレナママが控えていた。
「お、お母様……。は、はい、僕は傷一つなく無事です。……でも、どうしてここへ?」
僕は思わず完璧な標準語に戻り、背筋をピンと伸ばして答える。
「薫子に言われたのよ。央太が、アナーキー・ダンジョンの最深部に落ちたって。……さて、そこに転がっているゴミ(健吾)。言い訳を聞きましょうか」
志乃の視線が、床に這いつくばっている健吾へと向けられた。
「し、志乃! 違うねん! これはな、央太の男の自立を促すための、実践型のスパルタ授業や! ほら、央太もめちゃくちゃ強くなったやろ!?」
健吾はすぐさま這いつくばって見事な土下座を披露したが、志乃は冷徹にスタッフを突き出した。
「床がお似合いよ。沈みなさい」
――ドゴォォォォン!!
最大出力の重力魔法が健吾を直撃し、奈落の底の地面がさらに数メートルほど陥没。健吾はペシャンコに潰され、フローリングならぬ岩盤に顔をぴったりと張り付かされる。
「健吾さん。せっかく私が用意したハッカ味のドリンク、毒入りじゃないって信じて飲むなんて、おめでたいお人どすなぁ。……あれね、飲むと12時間後にお尻が核爆発するお薬の、さらに高濃度版どすえ」
薫子がはんなりと微笑む。
その瞬間、健吾のお腹から「ゴロゴロォ!」と、本日一番の悲鳴が響き渡った。
「あ、あかん! お尻の防御壁が、再び決壊の危機や! 薫子ォ!」
「さらに健吾! アナーキー・ダンジョン不法侵入、央太の誘拐、ギルド規約違反! 帰還後の罰金は、通常の300倍よ! 今月の財布どころか、あんたの私物を全部フリマアプリで売っ払ってやるから!」
エレナママの痛覚倍増ヒール&罰金宣告が炸裂。
奈落の底に、這いつくばりながら悶絶する父親の、哀れで賑やかな悲鳴が響き渡るのだった。




