第26話:『カゴの鳥は羽ばたいた』
「グォォォォォォォン!!」
ティターンが最後の足掻きとばかりに、全身の結晶を発光させ、周囲の重力を狂わせる『重力波動』を放った。
足元の床が崩壊し、強烈な下向きの重力が僕たちの身体を押し潰そうとする。
「くっ……! 身体が重い……!」
雅のバリアが悲鳴を上げ、クロエのビットが火花を散らして落下していく。
だが、僕の実母は、世界最強の重力魔導士だ。
「パパ、僕の魔力を大剣に上書きして! 重力を打ち消すよ!」
「よっしゃ、信じとるぞ央太!」
健吾が叫び、大剣を天に掲げる。
僕は自分の魔導杖から、志乃お母様の魔力波形を完璧に模倣した「反重力」の波動を放ち、健吾の大剣へと流し込んだ。
バルムンクが黄金の光を放ち、健吾の身体を縛る重力が一瞬にして消失する。
「ハァァァァーーーッ! 波多野流・大唐竹割りぃぃぃ!」
健吾が重力を無視して大跳躍し、ティターンの巨大な脳天目掛けて大剣を振り下ろした。
――ズガァァァァン!!
大剣の一撃がティターンの頭部を真っ二つに叩き割り、その奥に隠されていた、脈打つ巨大な「魔力のコア(心臓)」が露わになった。
だが、その反動で健吾の身体もティターンの巨腕に弾かれ、氷の床を滑って吹き飛ばされる。
「央太! 決めんかい! お前の力、見せたるんやぁ!」
「――うん!」
僕は魔導杖を構え、崩落する氷の破片を足場にして、空中へと高く跳躍した。
宙を舞う僕のハニーブロンドの長い髪。
奈落の暗闇の中で、僕の身体そのものが、まるで一つの眩い「恒星」のように輝いていた。
僕は、傷だらけになりながらも僕を見上げている、零華、クロエ、雅の3人を見つめた。
彼女たちの瞳に映る、僕の姿。
それは、お母様たちに用意されたお人形でも、カゴの中で守られるだけの国宝でもない。
「僕は、あなたたちをお母様たちから与えられた『義務』にはしない!」
僕は、奈落の底に響き渡るような、凛とした、そして誰よりも熱い標準語で叫んだ。
「僕は、僕自身の意志で、一人の冒険者としてあなたたちの前に立つ! だから……僕自身の力で、あなたたちを、そしてこの世界を守り抜きます!」
その言葉と共に、僕は魔導杖をティターンのコアへと突き出した。
僕の全身の魔力が、杖の先に一点収束し、眩い黄金の結晶となって牙を剥く。
「『魔導極大崩壊弾』――ッ!!」
ドシュゥゥゥゥン!!
僕の放った、志乃お母様すら凌駕するほどの極大魔術光が、ティターンのコアを正面から貫いた。
「グガァァォォォォォォ……ッ!?」
ティターンが天を仰ぎ、その全身の結晶が、耐えかねて一斉にひび割れていく。
次の瞬間、巨大なレイドボスは、おぞましい爆発音と共に、十万個もの美しい魔石のシャワーとなって、奈落の底へときらきらと四散していった。
光り輝く魔石の破片が降る中、僕は静かに着地した。
魔導杖を収め、肩で息をしながら、額のゴーグルを上げる。
サラサラとしたハニーブロンドの髪をなびかせ、エメラルドグリーンの瞳を静かに輝かせる僕の姿。
零華は頬を真っ赤に染め、両手を胸元でぎゅっと握りしめて僕を見つめていた。
「お、央太殿……。私、生涯をかけて、あなたについていくにござる……」
クロエは割れたゴーグルをゴミ箱に捨て、「……央太。メンテナンス(調教)権の独占、撤回。私は、あなたという『奇跡』の、生涯の相棒になりたい」と、萌え袖で顔を隠しながらボソリと呟く。
「おーほっほっほ……。不労所得なんて、言っている場合ではありませんわ。央太君、大河内一族の財力すべてを、あなたという一人の男に、本気で投資して差し上げますわ!」
雅もドレスの汚れを気にすることなく、完璧な縦ロールを揺らして、僕に熱い視線を送っていた。
国家の義務でも、母親たちの命令でもない。
3人の少女たちは今、僕の「一人の男としての野生の強さ」に魅せられ、心から僕に恋に落ちたのだった。




