第24話:『守られる男、戦う少女たち』
圧倒的な質量を持つ、岩石の咆哮。
ティターンがその巨大な岩の拳を持ち上げた。
拳一つで、僕たちの家が丸ごと押し潰されるほどの巨大な破壊の塊。それが、恐怖で立ちすくむ零華たち目掛けて、容赦なく振り下ろされる。
「ひ、緋村流が剣聖として……! このような不覚、許されぬにござる!」
零華が震える脚に叱咤を入れ、神速の抜刀術『白百合・閃』を放った。
桜色の斬撃がティターンの岩の拳に激突する。
だが――。
――ガキィィィン!!
鋭い金属音と共に、零華の身体が木の葉のように吹き飛ばされ、岩壁に激しく叩きつけられた。
名刀「白百合」が手からこぼれ落ち、氷の地面を滑っていく。
「カハッ……! あ、足が……動かぬ……」
壁に背を預け、零華の口元から一筋の赤い血が流れる。
ティターンの強固な装甲の前には、天才剣聖の神速の斬撃すら、傷一つつけることはできなかった。
「零華! ……自動迎撃ビット、最大出力。ターゲット(央太)の防衛を最優先」
クロエが萌え袖を振り払い、無数のレーザービットを展開させた。
青い魔導レーザーがティターンの顔面に無数に突き刺さる。だが、ボスは痛痒を感じる様子すらなく、今度はクロエ目掛けて巨大な足を踏み下ろした。
「クロエさん、危ない!」
「きゃあああっ!」
雅が絶叫しながら、パラソル杖を掲げて超高密度バリア『大聖域の円盾』を展開する。
光の半球がクロエを包み込んだが、ティターンの巨足がそれを上から踏み潰した瞬間、ガラスのように一瞬で粉砕された。
バリアの崩壊の衝撃波が雅を直撃し、彼女の金髪縦ロールが泥にまみれ、ドレスを引き裂いて床を転がった。
「う、うそ……。私の、最高クラスのバリアが、一撃で……」
膝を突き、絶望にエメラルドグリーンの光を失いかける少女たち。
彼女たちは、僕を連れ戻しにきた「敵」だった。
僕を自分のコントロール下に置き、カゴの中の愛玩動物のように甘やかし、自分の「一夫多妻の所有物」にしようとしていた、お節介な少女たち。
けれど今、彼女たちは、ボロボロになり、血を吐きながらも、僕の前に立ちはだかっていた。
守られるべき「男(国宝)」である僕を、自分たちの命を盾にして、必死に守ろうとしてくれている。
「……なんでだよ」
ぽつりと、僕の口から言葉が漏れた。
お上品な標準語なんて、もうどこにも残っていなかった。
「なんで、僕なんかを守るために、お前らが傷つかなあかんねん……!」
僕の脳裏に、健吾の言葉が蘇る。
『男をカゴの中の鳥にして、スケジュール通りに精子を搾り取る。そんな人生、お前は本当に送りたいんか?』
『男なら、自分の道は自分で決めて、自分の力で掴み取れ』
(本音:僕は、守られるだけの『国宝』やない! 女の子を盾にして、後ろで震えとるだけのヤワな男に生まれたわけやないんや!)
僕の全身の血が、ニンニク醤油の唐揚げをエネルギーに変えた僕の細胞が、熱く、激しく沸騰し始めた。
その瞬間。
僕のハニーブロンドの髪が、僕自身の奥底から溢れ出した強大無比な魔力によって、眩いばかりのハニーゴールドの光を放って逆立った。
実母である志乃お母様から100%受け継いだ、最高峰の遺伝子。それが、僕の「自立への覚悟」に共鳴し、ついに本物の牙を剥いたのだ。
「もうええ……! お前ら、下がれ!」
僕は魔導杖を構え、一歩、少女たちの前に歩み出た。
その澄み渡ったエメラルドグリーンの瞳。それは、実母・志乃と全く同じ、本気の戦いへと挑む『最強の魔導士の眼光』だった。
「え……? お、央太殿……? その口調、それに、この凄まじい魔力は……!」
零華が、血のついた口元を押さえながら、呆然と僕の背中を見上げた。
そこには、これまで自分たちが「守らなければならない、ひ弱なお人形」として扱っていた、央太の姿はなかった。
「僕はカゴの鳥やない! お前らに守られるだけの、ヤワな男やないんや!」
僕のコテコテの関西弁の咆哮と共に、ダンジョン最深部の澱んだ空気が、僕の圧倒的な魔力圧によってミリミリと悲鳴を上げて激震し始めた。
波多野央太、18歳。
僕はついに、お上品な「国宝」の仮面を自ら粉砕し、一人の『男(冒険者)』として、世界を救うための真の覚醒を果たすのだった。




