第22話:『奈落の崩落、そして運命の地鳴り』
ゴゴゴゴゴゴ……。
足元の氷の床の遥か奥底から響いてくる、世界そのものが悲鳴を上げているかのような重低音。
鍾乳洞に垂れ下がる巨大な氷柱が、激しい振動に耐えかねて、一本、また一本と自重で折れて床に突き刺さっていく。
「な、なんですの、この揺れは!? 私の大聖域のバリアに、これほどの地鳴りを引き起こす力などありませんわよ!」
金髪の縦ロールを激しく揺らしながら、大河内雅が純白のパラソル杖を両手で握りしめて悲鳴を上げた。
「警告。地盤の固有振動数、および魔力共鳴が臨界点を突破。……氷床の強度が致命的レベルまで低下。脱出路の確保を強く推奨」
クロエがだぶだぶの白衣の袖をパタパタとさせながら、ゴーグルを赤く点滅させて冷静に、けれど緊迫した声を上げる。
「あかん、これはアナーキー・ダンジョンの最深部、数年前に国が封印した危険区域の上や!」
健吾がいつものチャラさを完全に消し去り、ワイルドな三白眼を鋭く細めて叫んだ。
大剣を地面に突き立ててバランスを取る彼の足元から、パキパキと、蜘蛛の巣のような亀裂が無数に走り出している。
「パパ! 床の魔力循環が完全に逆流してる! これ、下から凄まじい力で吸い込まれてるよ!」
僕は魔導杖を構え、実母譲りの魔力感知をフル稼働させた。
エメラルドグリーンの瞳に映る世界の魔力の流れ。それは、氷床の下にある巨大な「奈落」が、このエリアの魔力を、そして僕たちの身体ごと根こそぎ飲み込もうと渦巻いている光景だった。
「お、央太殿――ッ! 危ないにござる、こちらへ!」
緋村零華が、足元が激しく崩落する氷の上を、信じられない身のこなしで跳躍した。
巫女装束をはためかせ、僕の手を掴もうと必死に手を伸ばしてくる。その琥珀色の瞳には、男性免疫ゼロのパニックではなく、僕を「守らなければならない」という一途な、そして純粋な意思だけが宿っていた。
だが、その瞬間。
――バリィィィィン!!
世界が弾けるような、鋭く、巨大な破壊音が響き渡った。
僕たちが立っていた、直径数十メートルはあろうかという巨大な氷の広場が、一瞬にしてチェスの駒のようにバラバラに砕け散ったのだ。
「いやあああああーーーっ!?」
雅の絶叫。
「想定外の重力落下。魔導浮遊システム、作動不能――」
クロエの無機質な声が、落下する風の中に消えていく。
「央太殿ォォォ!」
「央太!」
崩落する氷の破片。吸い込まれていく冷気。
僕たちの身体は、重力に従って、ただ底の見えない暗黒の奈落へと真っ逆さまに落下していった。
風が耳元を暴力的に引き裂いていく。スマホの電波どころか、光すら届かない、アナーキー・ダンジョンの真の深淵。
(本音:嘘やろ……! せっかく唐揚げ食べて、パパと自由の冒険を始めたばかりやのに、こんな奈落の底で僕の人生終わるんか!? 嫌や、こんなところで死んでたまるかぁ!)
僕は必死に手を伸ばしたが、暗闇と激しい落下風の中で、誰の手も掴むことはできなかった。
ただ、どこまでも続く底無しの暗黒が、僕たち五人を等しく飲み込んでいくのだった。




