第21話:『婚約者たちの不協和音』
ドォォォン!!
僕の放った極大魔術弾が、雅の展開した超高密度聖バリア『大聖域の円盾』に衝突し、眩いばかりの光の破片となって四散した。
バリアの余波で、冷たい風が氷結エリアを吹き抜ける。
「まぁ! なんですのこの威力は!? やはり央太君の遺伝子は極上ですわ! この魔力を我が大河内一族に迎え入れれば、繁栄は約束されたも同然!」
雅が興奮気味に縦ロールを揺らす。
だが、その横からクロエが淡々とビットを操作しながら口を挟んだ。
「却下。央太の優秀な魔力適性は、我がシュナイダー研究所において、魔導義体のエネルギーコアとして研究開発されるべき。央太の生涯のメンテナンス(調教)権は、私が本妻となって独占する」
「な、何をおっしゃるかクロエ殿!」
零華が神速の斬撃で健吾の大剣をいなしながら、顔を真っ赤にして叫び返した。
「央太殿は、我が緋村流の剣聖としての道を共に歩み、毎日朝から晩まで一緒に素振りをし、清らかな汗を流す『戦闘本妻』の旦那様になるお方にござる! 研究用のコアになどさせぬ!」
「戦闘本妻って何ですか! 意味不明!」
雅がパラソル杖を叩きつける。
「私は央太君に、何もさせずに、毎日私の大豪邸のふかふかのベッドの上で、私に愛玩されるだけの贅沢な不労所得ライフを送らせるのですわ! それこそが、央太君にとっての真の幸せですわよ!」
「おーほっほっほ!」と雅が笑えば、「効率が悪い。央太は私の白衣のポケットに入るサイズにして持ち歩くのがベスト」とクロエがボソリと言い、「ふ、不埒極まりない! お主たち、央太殿を何だと思っているにござるか!」と零華が怒鳴る。
激しい大バトルの最中のはずだった。
だが、3人の少女たちは、僕を「どう養い、どう愛でるか」という一夫多妻の役割争いを巡って、互いに睨み合い、完全に口喧嘩を始めてしまったのだ。
「おーい、お嬢ちゃんたち、戦闘中やぞー」
健吾が、大剣を肩に担ぎ直しながら、呆れたようにコテコテの関西弁で声をかける。
「ほらみろおぉぉぉーーーッ!!」
僕は魔導杖を氷の床に突き立て、完璧な標準語を完全に忘れて絶叫した。
「パパ! 複数婚ってやっぱりめちゃくちゃめんどくさいじゃないですか! 僕の将来のポジションが『素振りの相手』か『白衣のポケットに入るペット』か『ベッドの上の不労所得愛玩動物』の3択って、どんな罰ゲームですか!」
「ハハッ、どれも極端やなぁ。でも、お前を巡ってエリート美女3人がガチ喧嘩しとる。これ、男冥利に尽きるんとちゃうか?」
「全然嬉しくないわ! パパの言った『全員を本気で守る覚悟』、これじゃ難易度高すぎて、一生お仕置きされて床に沈められる未来しか見えんわ!」
コテコテの関西弁でツッコミを入れる僕の姿を見て、零華は「あ、あわわわ、央太殿の荒々しい関西弁……なんだか、すごく野性的でドキドキするにござる……!」と、さらに顔を真っ赤にして悶絶し始めた。
「ターゲットの心拍数変化、および言動のギャップ萌えを検知。……胸の高鳴りが限界突破。これ以上の会話は、私のシステムに深刻なエラー(初恋)を誘発する。……捕獲手順、最大出力に移行」
クロエが萌え袖をぎゅっと握りしめ、すべての魔導ビットを一斉にこちらへと向けた。
「おーほっほっほ! 喧嘩はここまでですわ! 央太君、力ずくでも連れ帰って、私のベッドの上の国宝にして差し上げますわ!」
雅のバリアが攻撃色に変化し、3人の魔力が再び一つに集束していく。
「おっと、お遊びはここまでやな、央太」
健吾がワイルドな三白眼を鋭く細め、大剣を両手で構え直した。
「来るぞ息子よ! おかんたちの息がかかった最強の嫁チームや! 男の意地見せたらんかい!」
「うん……受けて立つ! 僕は、自分の足で、冒険者として生きるんだ!」
僕のエメラルドグリーンの瞳が、氷結の光を浴びて青白く輝く。
少女たちの容赦ない一夫多妻の執念と、僕たちの野生の男の意地が、氷結の広場で激しく激突しようとした、まさにその時だった。
ゴゴゴゴゴゴ……。
ダンジョンのさらに深部、足元の氷の床の奥底から、これまでに聞いたことのない、不穏で不気味な「地鳴り」が響き渡った。




