第17話:『腰軽パパ、アナーキーでも絶好調』
「……ふぅ。死ぬかと思ったわ、ホンマに」
ダンジョン第4層、熱帯エリア。
地下とは思えないほど温暖で、巨大なシダ植物や色鮮やかな未知の花が咲き乱れるジャングル地帯のセーフティエリアに、僕たちは辿り着いていた。
健吾はというと、そこらへんに自生していた「薫子ママの薬草図鑑」に載っていた解毒成分のある雑草をバリバリと生のまま貪り食い、なんとかお腹の核爆発を鎮めていた。
「さすがパパ、現役の野生児だね。そのへんの草を食べて毒を無効化するなんて、胃袋が頑丈すぎるわ」
「あったり前やろ! 薫子の毒はな、何度も食らっとるから身体が耐性を覚えとんねん! 冒険者たるもの、胃袋も鍛えなあかんちゅうことや!」
健吾は、すっかりお腹の痛みが引いたようで、無精髭を撫でながら、何食わぬ顔で立ち上がった。
そのフットワークの軽さは、本当に致命的だ。お腹を下して担がれていた情けない姿など、一瞬で脳内からリセットされているらしい。
「それより央太、見てみぃ。あそこ、オアシスやぞ」
シダ植物の葉をかき分けた先。
澄んだ地下水がこんこんと湧き出る美しい泉のほとりで、一つの冒険者パーティがキャンプを張って休憩していた。
驚いたことに、そのメンバーは全員が女性だった。
露出度の高い軽量レザーアーマーを着こなした、今風のギャル風の若い女性冒険者3人組。
楽しげに笑い合いながら、冷たい泉の水で顔を洗っている。
「うおぉ……! 央太、見たか。野生の、瑞々しいギャル冒険者お姉さんたちや……!」
健吾のワイルドな三白眼が、瞬時にギラギラとした獲物を見つけた肉食獣のそれに変化した。
「パパ……嫌な予感がするから、大人しく水だけ汲んで行こう?」
「アホ言うな! 目の前に困っている(休憩中の)お姉さん方がおるのに、声をかけんのは男の恥や! フットワークと腰の軽さは、こういう時のためにあるんや!」
健吾は素早く後ろ髪を結び直し、コートの汚れをパパッと払うと、大剣を背負ったまま、最高にワイルドでイケメンな「Sランク冒険者の顔」を作って、泉の方へと歩み出していった。
「やあお姉さんたち。怪我はない? 大剣使いの健吾や。趣味は大剣と……君たちとの未来やな。ちょっと温かいスープでも一緒にどない?」
コテコテの関西弁でありながら、その声のトーンは驚くほど渋く、セクシーだった。
通りすがりのギャル冒険者たちは、「えっ、何このイケおじ!? 超カッコよくない!?」と、一瞬にして色めき立った。
「キャー! 現役のSランク!? その大剣、本物ですかぁ?」
「せやで。ちょっとそこらへんのレイドボスをサクッと仕留めてきた帰りでな。良かったら、このホーンラビットの極上部位、君たちにプレゼントしたるわ」
健吾は、僕たちが朝食用にキープしていたホーンラビットの残りの肉を差し出し、ウインクを連発して距離を縮めていく。
完全に「お見合い」から逃亡してきた家出人であることを隠し、野生のチャラ男としてナンパを大成功させていた。
「ええ加減にせえーーーッ!!」
シダ植物の影から飛び出した僕は、完璧な標準語の義務を完全に放棄し、コテコテの関西弁で怒鳴り散らしながら、健吾のレザーコートの襟首を後ろから思い切り引っ掴んだ。
「痛っ!? 央太、引っ張るなや! 今ええところやんけ!」
「何がええところや! パパ、家に最強に怖くて、最強に美人なママたちが3人も待っとるのに、なんでこんな暗いダンジョンの中でまで他の女の子ナンパしとんねん!」
「お、おい央太、大きな声で『3人のママ』とか言うな! 既婚者ってバレるやろ!」
「既婚者どころか一夫多妻の3人持ちやろが! この腰軽バカ親父!」
僕が襟首を掴んで引きずり戻そうとする横で、ギャル冒険者たちは「えっ、息子くん!? 超可愛いハニーブロンドなんだけど!」「てか、パパ一夫多妻なの!? マジうらやま〜!」と、クスクス笑いながら僕たちを見つめていた。
「すみません、お騒がせしました! この最低な父親は、僕が責任を持ってお仕置きしておきますので!」
僕は再び上品な標準語を無理やり取り繕うと、優雅に一礼し、健吾の襟首を掴んだまま、ずるずると引きずってセーフティエリアの奥へと退散した。
(本音:パパ……ほんまに信じられん。お腹下して死にかけてたのに、女の人を見つけた瞬間これや。我が家のヒエラルキーが最底辺なのも、お母様たちが怒り狂うのも、100%パパの自業自得やわ!)
僕は、自分のハニーブロンドの髪をガシガシと掻きむしりながら、父親の底無しのチャラさに、ただただ疲労困憊するのだった。




